
Courtesy of TPS Productions / Focus Features © 2025 All Rights Reserved.
ウェス組の新星として、監督の世界観に自然に溶け込みながらも強烈な存在感を放つ彼女が挑んだのは、6度の暗殺未遂を生き延びた大富豪と、6年ぶりに再会した娘との父娘劇。ベニチオ・デル・トロ演じる父が娘を財産の後継者に指名するという、奇妙でユーモラス、そして切ない物語だ。
ネポ・ベイビーを巡る議論が絶えない中、現在24歳の彼女は母ケイト・ウィンスレットの影を早々に脱し、本格派俳優として堂々とスクリーンに登場した。インタビューでは、華やかさの裏にある誠実で地に足のついた姿がさらに印象的だった。
ウェス・アンダーソン監督とのエピソード

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——月並みですが、まずは出演のきっかけを教えていただけますか?
「ウェス・アンダーソンのプロジェクトのオーディションを受けられるとなれば、行かない理由はないですよね。ずっと彼の作品を敬愛してきたので。9歳の頃から夢中になっていました」
——初めて監督に会った時は緊張しましたか?
「初めて会ったのは、確か2回目のオーディションだったと思います。本当に緊張していたんですが、ドアを開けて現れた彼はピンクの靴下にスリッパ姿(笑)。それを見た瞬間、不思議と緊張がほどけて、怖いなんて思わなくなりました。しかも眼鏡にボーダーのシャツ姿で。そこからたくさん話をして、とても楽しい時間でした」
——非常にミニマルなルックスの中で、白い修道女の衣装、瞳、赤い口紅が強烈な印象を与えます。実は、頭のベールは即興だったそうですね。
「そうなんです。スクリーンテスト2日目、ウェスとベニチオに会ったときでした。ベニチオはすでにあの素晴らしいストライプの“ザ・ザ・スーツ”を完成させつつあって。私は仮の修道女の衣装で、白いスカートにスリッポンを合わせていて素敵ではあったのですが、どうしても何か、ベールのようなものが足りない気がしていました。
代わりに看護師の帽子を使っていたんですが、しっくりこなくて。ふとコーヒーテーブルを見ると、ランチのナプキンがきれいなまま置かれていたんです。それを見て『これだ!』とひらめいて、『誰かヘアピン持ってない?』と聞きました。ぱぱっと頭に留めると、ウェスがやってきて、彼らしく少し直して整えてくれました。その仕上がりを確認するために写真に撮ったら、素敵だったんです。そうして、あのベールは即興から生まれました」

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——演技も“引き算”のようなミニマルさでした。目線や肩の小さな動きが雄弁でしたが、そのバランスはどう見出したのですか?
「この役の魅力は小さな瞬間の積み重ねにあると思っていました。だから準備期間の3か月は徹底的に役に入り込みました。聖書を読み、ローマでカトリックの世界を体感し、さらにボイスレコーターを使って全役を自分で声を変えて演じながらリハーサルをしたんです。あまりにリアルすぎて、ウェスは『あれは君の兄弟? 姉妹?』と聞いてきたほど。でも部屋には私しかいなくて(笑)。証拠に『映像を送って欲しい』とまで言われて、ちゃんと送りました。
撮影中は偶然の動きが採用されることもありました。たとえば私が腰に手を当てた仕草をウェスが気に入って、『そのままやってほしい』と言ったんです。そうやって人間らしさが映画に刻まれていったんだと思います」
——リーズルの成長の旅も見どころですよね?
「彼女が最初に登場する時は、とてもシンプルで質素な姿です。手にしているパイプも、ごく素朴な日用品のように見える。でも物語が進むにつれて、それはダンヒルが特別に制作した半貴石をあしらった美しいパイプに変わっていきます。
同じように、リュックはプラダで、普通のロザリオもやがてカルティエ製の“世俗的なロザリオ”に置き換えられる。怖いほど精巧で、それでいて美しいものでした。こうした変化は単なる外見的な“変身”ではなく、彼女が自分は誰で、何を望んでいるのか――その気づきを得る旅を象徴していると思います」
父と娘の関係は? 見どころは?

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——今回は家庭教師役ビョルン役マイケル・セラとベニチオと、まさに3人が物語を引っ張っていました。マイケルとの共演はいかがでしたか?
「マイケルとのシーンは本当に楽しかったです。彼は“ビール3本で酔ってしまう”という役どころで、私は修道女なのでお酒を飲まない。その対比だけでも面白くて、撮影中は笑いが絶えませんでした。
特に印象的だったのは、彼が酔っぱらっていく様子を演じる場面。彼はよくアドリブを入れるんですが、ウェスもそれを後押ししていたんです。たとえば砂漠でリズ・アーメッド演じるファルーク王子に出会うシーンで、リズが『彼は苦しまなかった』と言ったとき、マイケルが突然『いや、苦しんだと思うよ』と返したんです。予想外すぎて、私はリズを見て、次に地面を見て……もう笑いをこらえきれなくて。結局その場にいた全員が爆笑してしまいました。あの瞬間は撮影中で一番笑った出来事のひとつです。マイケルは本当に天才的に面白い人なんです」
——とても美しい父と娘の物語でもありますよね。
「父は幾度となく暗殺や事故を生き延びてきた人物で、墜落事故をきっかけに一族の財産を託すべきだと悟るんです。
ただ、リーズルにとってそれは“財産の話”以上の意味を持っています。彼女は父との対話を通して、心に長く眠っていた疑問や答えのない問いに向き合おうとする。そこには、もっと子どもと時間を過ごしたいのにできない親、そして親を求めながらも距離を感じてしまう子どもの姿が映し出されています。映画はその矛盾を、父と娘の旅を通して描いているのだと思います」

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——今作であなたを知る人も多いと思います。あなたにとってこの経験はどのようなものでしたか?
「ウェスと一緒に仕事をできたことは、生涯忘れられない経験になりました。彼はこれまで出会った中で最も優しく、聡明で、そしてクリエイティブな人です。もし役を得られなかったとしても、彼に会えただけで十分だと思えるほどです。
彼の明確なビジョンと表現力は、私がこれまでに経験したことのないレベルのものでした。何度もテイクを重ねるのは、彼が自分の求めるものを正確に理解し、それをどう引き出すかを知っているから。しかも撮影中、一度も質問をためらう必要を感じませんでした。ウェスは唯一無二の存在で、彼に出会えたこと自体が私にとって最大の幸運です」
ウェス・アンダーソン監督は今作についてこう語る

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「完成した映画を観て気づいたのは、物語の核心が“死の可能性に向き合うこと”だという点です。主人公ザ・ザ・コルダは何度も死に直面しながらも、必ず自分のビジネス計画を成し遂げようとする。けれども本当は、その計画自体が娘とやり直すための仕掛けであり、儀式のようなものだったのかもしれません。会社の行方よりも、今この瞬間、娘との間に何が起きるか――それこそが本質なんです。
その意味では彼の計画は大成功でした。ザ・ザは“勝った”のです。そして僕が思うのは、こういう人物は大きなスケールで世界を変えるより、小さなコミュニティで関わる方が良いということ。多くの人に当てはまる話ですが、世界に影響を及ぼす必要はなく、小さなグループに影響を与えるだけでいい場合もあるんです」
映画『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』2025年9月19日(金)東京・TOHOシネマズ シャンテほか全国で公開
監督・脚本:ウェス・アンダーソン
原案:ウェス・アンダーソン、ロマン・コッポラ
出演:ベニチオ・デル・トロ、ミア・スレアプレトン、マイケル・セラ、リズ・アーメッド、トム・ハンクス、ブライアン・クランストン、マチュー・アマルリック、リチャード・アイオアディ、ジェフリー・ライト、スカーレット・ヨハンソン、ベネディクト・カンバーバッチ、ルパート・フレンド、ホープ・デイビス
製作:ウェス・アンダーソン、スティーブン・レイルズ、ジェレミー・ドーソン、ジョン・ピート
製作総指揮:ヘニング・モルフェンター
原題:The Phoenician Scheme
配給:パルコ ユニバーサル映画 2025 FOCUS FEATURES LLC.