「アクターズハウス」で見せた二宮和也の本気! 映画『8番出口』は料理で言うなら塩・コショウだけで勝負した作品です【釜山国際映画祭2025】

普段は決して交わることのないスター俳優。でも、釜山国際映画祭では違います。とにかく近い! 間近で会える距離的な意味もあるけれど、それだけでなく、心まで近しい感じにさせられるのですよ。それを最も実感できるのが「アクターズ・ハウス」というプログラム。小さめのホールで俳優とインタビュアーとの1対1で、1時間に及ぶロングインタビュー。しかもインタビューの最後は客席からの質問にも直接その場で答えるという大盤振る舞いまで。

普段は決して交わることのないスター俳優。でも、釜山国際映画祭では違います。とにかく近い! 間近で会える距離的な意味もあるけれど、それだけでなく、心まで近しい感じにさせられるのですよ。それを最も実感できるのが「アクターズ・ハウス」というプログラム。小さめのホールで俳優とインタビュアーとの1対1で、1時間に及ぶロングインタビュー。しかもインタビューの最後は客席からの質問にも直接その場で答えるという大盤振る舞いまで。

 二宮和也 釜山国際映画祭2025  「アクターズ・ハウス」 8番出口 日本人初

「映画の殿堂」野外ステージにて舞台挨拶。その後、アクターズハウスへ。photo:Getty Images

毎年、韓国からトップスターたちが登場しているのですが、今年も開幕作『どうしようもない』主演のイ・ビョンホン、ソン・イェジンと、今年配信予定のドラマシリーズ『Dear X』主演のキム・ユジョンという豪華な顔ぶれ。さらに、そのラインナップに加わるもう一人は、なんとこのプログラムでは初という日本人の俳優。それが、映画『8番出口』に脚本の段階から参加したという俳優二宮和也。これがなかなか深〜いお話。その模様をリポートします。

映画『8番出口』は料理で言うなら、塩・コショウだけで勝負した作品です

 二宮和也 釜山国際映画祭2025  「アクターズ・ハウス」 8番出口

photo:Aflo

「もちろん、映画『8番出口』が釜山国際映画祭でかかるということで、韓国の方々にこの作品を観ていただくことが楽しみで来たのですが、一番はやはりこのトークのイベント。日本人初だと日本人の人からプレッシャーをかけられて……」と二宮が語り始めると、早速、客席からは歓声にも似た爆笑が。そう、日本からのファンはもちろんですが、日本語を勉強している韓国のファンも多く、即座に日本語を理解しているファンたちに二宮も感心しきり。

映画『8番出口』は異変探し無限ループゲームを実写化した作品。日本ではすでに上映されていますが、登場人物も少なく、地下鉄の通路という限られた空間で繰り広げられるというかなりユニークなミステリーです。その出演を決めたきっかけについては「とにかく出演しているキャストが少ない。自分のお芝居のキャリアの中で、一人でお芝居をする時間をこんなにもたくさんとっているのはなかったので、自分の中で一つの挑戦だなと思った。それと、異変を見つけたら引き返す、なかったと思ったらどんどん進んでいく、というルールだけしかないので、それがどこまで映画になるんだろうと、自分的にすごく興味を持ったというのが大きかったですね」。

すると、ここでインタビュアーから、「シナリオの段階から参加されたということですが、その段階で、いろんな部分を悩まれたと思いますが、どんな部分に悩まれたのでしょうか」という鋭い質問。すると二宮はしばらく絶句。

「いやあ、俺、こんなにも真面目な会だと思ってなかったから。ちょっと待ってくださいね。いやあ、日本人初でちょっと浮かれてましたよ」と言いながら、語ってくれた。

「今回の映画は地下通路がメインの環境で、登場するのも数限られた人たち。そういう制約がある環境では、(映画というより)演劇的になりやすい。例えば、何かを見つける時も、もうちょっと大きなリアクションになったり、向くだけでいいのに指差しちゃったり、わからないからと頭を抱えてみたり。そうやってどんどん演劇的になっていっちゃうと、映画では観てくださるお客さんをどんどん置いてっちゃう。お客さんの感情がどんどん乖離していっちゃうんですね。

だから、今回は本当に大味にしないように、料理で言うところの塩・コショウだけで勝負してやろうぐらいの、本当に細かい作業にしました。動きの大きさや強さみたいなものはあまり出さずに、みなさんと一緒に物語を進んでいけるようにしていくことを、すごく心がけました。情報をなるべく削ぎ落として、考える余白みたいなものを、たくさん入れようと努力しましたね」。

「動きは嘘をつかない。だから、 自分の枠を超えないように丁寧に」

 二宮和也 釜山国際映画祭2025  「アクターズ・ハウス」 浅田家

photo:Getty Images

トークでは『硫黄島からの手紙』や『浅田家!』の話題も。特に興味深かったのは『浅田家』での話。二宮が演じた浅田家の次男政志が東日本大震災の被災者母娘を撮るというちょっと重いテーマへのアプローチの仕方を問われた彼は、

「被災に遭われた方々への敬愛はもちろんあります。ただ、迎合だけはしないように決めています。彼らは自分が可哀想とも辛いだろうとも、苦しいだろうとも思われたくないんだろうな、というのがあるので。僕は、なるべくありのままというか、拡大も拡張もせず、自分が感じたまま伝えるのがすごく重要な部分かなと思っています。

先ほどの動きの問題にも通じますが、動きというのは結構制限があって、嘘がつけないんですよね。セリフについては、聞こえるけど聞きたくないセリフ、聞こえないけれど聞きたいセリフ、聞かせたくないけれど聞こえちゃうセリフ、聞かせたいけど届かないセリフ、この4つがあると思っていて、この4つを使うことで、感情というものをコントロールしているんです。だけど、動きはどうにも、僕がウサイン・ボルトみたいに速く走るのは無理なんですよね。だから、どうやってボルトみたいに速く走れているように見せられるか。そこに自分の動きの制限というのがあると思うので、その自分の枠を超えないように、嘘をつかないように、動きはちゃんと丁寧に、被災者の方々や母娘のことをちゃんと理解しながら演じていくのが大事だと思うし、それを重要視した作品となりました」。

「誤解を恐れず言えば、 監督を黙らせることです」

 二宮和也 釜山国際映画祭2025  「アクターズ・ハウス」 8番出口

photo:Getty Images

ラストは客席からの質問に答えた。白羽の矢が当たったのは、中学生の頃からの二宮推しという韓国のファン。現在は俳優をやっていて、日本と韓国を行き来しながら活動しているとのこと。「演技をする上で一番重要に思っているポイントは?」という彼の質問に、「誤解を恐れずに言うと、監督を黙らすっていうこと」と回答。「とにかく力でぶん殴っていくというか。台本にも書かれている、周りもみんな把握して共有している、そんな中で、監督を黙らせられたら僕はちょっと成功なのかなと。監督が『カットカット、もっとこうして』、もっとこうして」となると、そうか違うんだよな、みたいに理屈がどんどん先行しちゃう。そうではなくて、『これに絶対的に自信を持っているんだなこいつは。じゃあこの後の展開をこいつは何を考えているんだろう』って監督をその場で3秒、5秒黙らせたら、僕はそれが正解と思っているタイプなので」。

さらに、「食にはおいしいもの、まずいものと2つあって。おいしいものには1000円のおいしいもの、1500円のおいしいものとか、差はあったりするけれど、うまいものって大抵うまい。あとは趣味によってそれぞれ変わってくるんだけど、まずいって全員一致しているんですよね。まずいものはみんな食えないんですよ。それはどの局面についても言えて、演技のうまい人っていっぱいいて、趣味趣向によっていくのだけれど、下手な人って、自分が不安になるくらい明確なものだったりするわけなんですよね。なので、うまいものを見るより、下手のものを見た方が上手くなります。これは、僕だけかな? だから僕は、どういうものが下手なのか徹底的に洗い出して、学んでいた時代がありました」。

「次はゲストではなく、レギュラーとして、ちゃんと韓国語で芝居をする二宮として韓国に来て、みんなの気持ちを動かしたい」と最後に語って去っていった二宮に、本気の文字が重なったのは私だけではないはずです。

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