祝・最優秀俳優賞を受賞! 映画『#愚か者の身分 』、Netflix『#イクサガミ 』、日本の注目作品も釜山に続々登場! 【釜山国際映画祭2025】レポート

10日間にわたって開催された「釜山国際映画祭2025」が幕を閉じました。コンペティション部門が新設された今回、日本からも3作品が選出されていましたが、永田琴監督の『愚か者の身分』で、なんと主演北村匠海、林裕太、綾野剛の3人が揃って最優秀俳優賞を受賞! 

『愚か者の身分』、主演の3人が揃って最優秀俳優賞を受賞! 

『愚か者の身分』 北村匠海 林裕太  綾野剛  永田琴監督

釜山国際映画祭2025レッドカーペットより。最優秀俳優賞を受賞した北村匠海、林裕太、綾野剛も揃って出席。photo:Getty Images

釜山国際映画祭の初となるコンペティション部門に選出されていたのは、韓国、日本、中国、台湾、イラン、タジキスタン、スリランカからの14作品。その中から、『愚か者の身分』の北村匠海、林裕太、綾野剛の3人が揃ってBest Actor Award(最優秀俳優賞)を受賞したのは、やはり快挙としか言いようがありません。

映画は、日本の闇ビジネスを題材に、そこから抜け出そうとする若者たちを描いたかなりハードなノワール作品なのですが、永田琴監督が紡ぐノワールは、何よりも3人の心情やその心の変化に焦点を当てて描かれていて、目を塞ぎたくなるような暴力シーンも当然ありながら、深い優しさや3人の繋がりの愛おしさの方がよりキリキリと痛いほどに胸に迫ってくると言いましょうか。一つの逃走劇を3人のそれぞれの視点から順を追いながら重ね合わせるように描いていく展開も見事で、だから、映画が進むほどに徐々に解き明かされていく3人の心の内と存在そのものに琴線が熱く震えていくという感じなのです。ということで、この3人の受賞は、実を言えば快挙でも何でもなく、必然のことだったのかもしれません。

日本公開は10月24日(金)ですが、もちろん筆者は一足お先に釜山にて鑑賞。実は、この日は、この作品が世界で初めて上映された日でもあり、劇場には永田琴監督と、3人のうちの一人、マモル役を演じた林裕太、森井輝プロデューサーの姿も。

撮影中はプライベートでも役柄と同じように 絆を高めあったという北村匠海、林裕太、綾野剛の3人

『愚か者の身分』 北村匠海 林裕太  綾野剛  永田琴監督

レッドカーペットから開催式に出席する『愚か者の身分』の面々。photo:Getty Images

上映後、舞台に登場した永田監督が「初めて一般のお客さんに見てもらって緊張しました。ようやく今日、自分の子どもが生まれたみたいな気持ちで」と言いながら言葉を詰まらせていたのですが、実は上映中、永田監督が鑑賞していたのは筆者の斜め前の席(これも釜山国際映画祭ならではですね)。映画のラストではハンカチを握りしめながら、何度も目元を押さえていたのが印象的でした。

「実際に撮影に入ったときに、当初思い描いていた以上に感じられる部分はありましたか」という客席からの質問には「たくさんありました」と永田監督。「例えば、マモルとタクヤ(北村匠海)が一緒に鯵の煮付けを食べるシーンで、マモルが一瞬殴られると勘違いして咄嗟に手で守ろうとした時の表情だったり。タクヤが自分の身に起きたことに気づいた時のリアクションだったり。梶谷(綾野剛)が逃げようとする時の表情だったり。本当にいくつもありました」

「撮影の最初の方は、結構NGが多かったんです」というのは林裕太。彼が演じるマモルは、タクヤに誘われて戸籍売買という闇の世界に足を踏み入れた弟分。家族から虐待を受けていた過去があるというちょっと重たい背景を背負っているのですが、「その重さを背負いすぎて、それで体が固くなってしまって、あまり自由にお芝居ができないというのが最初の頃は多かったんです。監督や匠海くんがすごくケアをしてくれて、それでだんだん体が柔らかくなって、自由にお芝居ができるようになったので、すごく感謝しています」

映画の序盤に、マモルがポテトチップスを食べながらスマホを操作しているシーンがあるのですが、「あまり意図せず僕がやっていた動作を匠海くんが見て、『俺、それすごい好き』って言ってくれて、それでちょっと心が穏やかになったというか助けられたなと思いました」

撮影は酷暑の中で行われたそうで「とにかく暑かったのが印象に残っていますね。匠海くんと綾野剛さんが僕に対して優しくしてくれたこともすごく印象深かったです。特に匠海くんとは何度もご飯に行って、本当に役の設定通りの2人みたいな関係を築くことができたと思います」

林裕太の鮮度、北村匠海の凄み、綾野剛の熟練。年代の異なる三人三様の胸熱すぎる演技の畳み掛けに圧倒されること間違いなし。お見逃しなく。

時代劇をこの作品でアップデート 本当の強さとは何なのかが『イクサガミ』で見えてくる!

Netflix『イクサガミ』  岡田准一 藤井監督

11月13日(木)Netflixから世界同時配信される『イクサガミ』。レッドカーペットには岡田准一、藤﨑ゆみあ、監督の藤井道人が登場。photo:Getty Images

客席からこの作品の魅力を問われた藤井監督は「コロリという疫病を経て、時代の流れに抗えない、そこで職を失ってしまった人たちの姿と、コロナを経てAIなどが盛んになって突然職を奪われてしまった現代の自分たちの姿にマッチしていると思います。そこが、この作品の魅力の一つですね。岡田さんから黒澤明の時代から、日本で時代劇は一番かっこいい、時代の先端をいくものなんだと言われたのですが、僕らの時代で言うと、時代劇って少し見づらくなっちゃっているものだと思うんです。だからこそ、自分たちの時代で、また、かっこいい強力なキャラクター、ストーリーの時代劇を作りたいという思いから、この作品を完成させました」

Netflix『イクサガミ』  岡田准一 藤井監督

藤井監督、藤﨑ゆみあ、岡田准一のフォトコール。photo:Getty Images

大抜擢の双葉役を演じた藤﨑ゆみあは「最初、藤井監督から覚悟はあるかって問われたんです。その時に私はすでに壮大な覚悟を持って準備していたのですが、いざ、現場に入ってみると、スケールのあまりの大きさにビクビクしつつも、周りの大先輩の方々や藤井監督に助けられて双葉としてそこに立つことができたんですね。それでも、岡田さんたち大先輩のお芝居を目の前で見ると、自分の力不足に悔しくなることの方が多くて。その悔しさをバネに、藤井監督や岡田さんが教えてくださることに集中して、必死に食らいついて、双葉として一生懸命生き抜いた日々だったなと思います」

客席からの「強さとは何なのか」という質問に対して最後に岡田准一は、「僕も武術や格闘技を嗜むものとして、それはすごく永遠のテーマと思っています。世界中が時代の転換期でアップデートを求められている今、僕らが日本の伝統的な時代劇をアップデートされることを求めてこの作品を作ったように、このバトルロワイヤルに参加しながらも双葉を守るという選択をした愁二郎と双葉が、向かった最後の最後まで辿り着くことができれば、その質問に対する答えが示せると思います。この作品は、嬉しいことに『イカゲーム』や『SHOGUN 将軍』と比べていただくことが多いですが、それとはまた違う新たな熱量を作り出そうと思っているので、ぜひ最後まで見逃さずに観てください」

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