シャネルが紡ぐ、手仕事とアートの未来「la Galerie du 19M Tokyo」で体験すべき7つのこと

シャネルによってパリに設立された“職人技の殿堂”、「le19M」が東京へ! 六本木ヒルズ森タワーの52階で開催中の『la Galerie du 19M Tokyo(ラ ギャルリー デュ ディズヌフエムトーキョー)』で注目すべき展示とは?

2025年10月20日まで、六本木ヒルズ森タワーの52階で、『la Galerie du 19M Tokyo (ラ ギャルリー デュ ディズヌフエムトーキョー)』が開催中(事前予約制)。シャネルによってパリに設立された「le19M(ル ディズヌフ エム)」は、ファッションとインテリアを極めた11のアトリエと約700人の熱心な職人や専門家が集結する、ユニークな複合施設のこと。le19Mのメゾンダールの卓越した唯一無二の技術を紹介する「le Festival (フェスティバル)」、日本とフランスの約30人の職人やアーティストによる作品を集めた没入型の展覧会「Beyond Our Horizons(ビヨンド アワー ホライズンズ)」、刺しゅうとツイードのメゾンであるルサージュの100周年を記念した「ルサージュ 刺繍とテキスタイル、100年の物語」の3章で構成された見どころ満載の展覧会から、絶対に見逃せない“7つの体験”をご紹介。

【1】手仕事の祝祭! 11のメゾンダールを紐解く「le Festival」

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宮沢氷魚、安藤サクラ、小松菜奈

まず来場者を出迎えるのは、11のメゾンダールによる技術の饗宴「le Festival」。建築家、田根剛が率いるATTAが手掛けた会場構成のもと、各アトリエのブースでは、職人たちが実際に使う道具や素材が、まるで作業机をそのまま再現したかのように展示されている。

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小松菜奈

1880年創業の羽細工やクチュール縫製を専門としたアトリエ「ルマリエ」、帽子やヘッドアクセサリーの制作で知られる「メゾン ミッシェル」、古典様式やビザンチン様式のコスチューム ジュエリーを手掛ける「ゴッサンス」、柔らかいフルーの生地の仕立てを専門とする「パロマ」など。刺しゅう、レース、コスチューム ジュエリー、羽細工……。観るだけでなく、職人たちの呼吸や手の動きを想像させるような臨場感のある展示は、まさに手仕事の祝祭だ。

【2】日本とフランスの伝統と革新の対話「Beyond Our Horizons」

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ちゃんみな

日本とフランスの職人やアーティストによる作品を集めた没入型展示「Beyond Our Horizons(ビヨンド アワー ホライズンズ)」。江戸時代中期を過ぎた寛政年間(1789〜1801年)から京提灯の伝統を受け継ぐ小嶋商店と、1936年創業のパリの老舗帽子メゾンで1997年にシャネルのメティエダールメゾンに加わったメゾン ミッシェルのコラボレーションによる提灯が並ぶ「パサージュ」。その先にあるのが「アトリエ」だ。かつての職人や商人にとって店舗、住居、制作の場であり、交流の場でもあった、“町家”に見立てた展示空間で、日本の職人やアーティストと、le19Mのアトリエ モンテックス、ルサージュ、ルマリエ、ロニオンが対話を重ね、新たな可能性を切り拓く試みを「織物」「土」「紙」をテーマに紹介。千利休を祖とする三千家と深い関係を持ち、茶の湯の道具を専門に作ってきた十家「千家十職」の一つとして室町時代後期から茶道具を制作してきた永樂家の18代、永樂善五郎。「土」をテーマにした町家では、アトリエ モンテックスとのコラボレーション作品を展示している。永樂は「茶道具に穴をあけたら茶道具ではなくなる」と、当初はこのコラボレーションに抵抗があったという。協業を実現させるべく、アトリエ モンテックスのアスカ・ヤマシタは、3Dプリンターで穴の位置を設計し、最新技術を駆使してプレゼンテーションを行った。対話を重ねて完成した「標釉松画茶碗」「黒焼締鉢」「色絵七五三香合」「組紐の松」は、日本の伝統に対するまっすぐな姿勢と、フランスのアトリエが持つ柔軟な発想が出合った必見のコラボレーションだ。

【3】五感で体験する、数寄屋建築とメティエダールの「ランデブー」

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二階堂ふみ

「le Rendez-vous(ランデブー)」と名付けられた集いの場は、日本の数寄屋建築の思想と、フランスのメティエダールの精神が交錯する空間。 畳の香りや感触、障子越しの光、東京の景色、耳をすませば流れる音楽……。五感が研ぎ澄まされ、感覚が浄化されるような体験が広がっていく。

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出口夏希

空間には、日仏の職人やアーティストによるコラボレーション作品が点在。益田芳樹×ゴッサンスによる沓脱台「雷神の雲」から舞台へ上がると、藤田幸生(藤田雅装堂)×モンテックス×ルサージュ アンテリユールの障子にいきいきとした刺しゅうが舞う「四季」、そして、高室畳工業所×ルサージュによる「ツイード畳」など日本とフランスの手仕事が共鳴した空間が現れる。嘉戸浩(かみ添)×ゴッサンスの「太陽と月の空と自然」は、唐紙と金属装飾が織りなす光と影の詩のような作品。デリュの「太陽と月」は、装飾金物の技術で引手をアートへと昇華し、太陽の満ち欠けを映し出す。さらに、ニック・ウッド×安藤桃子による音のインスタレーション「Rendez-vous dans la quintessence」が、自然の音と詩情を空間に響かせ、訪れる人の感覚をやさしく包み込む。数寄屋建築と職人の精緻な技が調和した唯一無二の空間は、「Beyond Our Horizons」を象徴する場ともいえる。

【4】ツイード上の泡が描く儚い情景|A.A. Murakami × ルサージュ × パロマ

ロンドンを拠点とするアーティストデュオ、A.A.Murakami(村上あずさ&アレクサンダー・グローブス)は、ルサージュとパロマとともに、ツイードの新たな可能性を探求。彼らが掲げるコンセプト「Ephemeral Tech(儚いテクノロジー)」は、スクリーンではなく、泡や霧、香りといった束の間の現象を通して美を体験するもの。ミラノデザインウィークで話題を呼んだ作品「NewSpring」の進化形として、今回はシャボン玉が舞う幻想的な空間を創出。もともと水に弱い素材であるツイードに耐水性をもたらし、泡をパールやビーズに見立てて表現するという詩的なアプローチが印象的。時間の流れとともに変化し消えゆく、儚い美意識を描く。

【5】ルサージュが100周年! 多様な手仕事の世界を映し出すアトリエを再現

【6】ルサージュの貴重なアーカイブが物語る刺しゅうの本質

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橋本愛

1920〜30年代の刺しゅうサンプルや、クリストバル・バレンシアガやエルザ・スキャパレリ、イヴ・サンローランといったデザイナーのために制作された作品が並ぶアーカイブ展示では、刺しゅうは単なる装飾ではなく、素材や色彩、構成を翻訳する“言語”そのものだと教えてくれる。職人はクチュリエの言葉を「糸」で通訳し、デザイナーの発想を可視化する存在だ。

カール・ラガーフェルドが手がけたコレクションピースの数々も。ガブリエル シャネルのレガシーを再考するという指名を担ったカールにとって、ルサージュを長年にわたり率いてきたフランソワ ルサージュは、真のクリエイティブパートナーであった。20〜21世紀に名を連ねたファッションの巨匠たちとの協働から生まれた作品群から、刺しゅうが持つ表現の奥深さを肌で感じることができる。

【7】刺しゅうが紡ぐフランス文化の遺産と卓越性

ルサージュが担ってきた刺しゅう文化の系譜も見どころのひとつ。宮廷のドレスやインテリア装飾など、刺しゅうはフランス文化の中で長く美の象徴として機能してきた。19世紀に制作されたルイ16世様式のアームチェア用フラワー刺しゅうのサンプルなど、歴史を物語る貴重な資料も展示されている。

また、シャネルがルサージュの遺産とフランス文化の象徴として関わるパリ国立オペラ座やヴェルサイユ宮殿との連携も紹介。オペラ座では、毎年恒例のガラ公演を通してバレエ衣装の制作を支援し、ルサージュの刺しゅうが舞台衣装としても輝きを放つ。一方ヴェルサイユ宮殿では、「王妃の寝室」をはじめとする18世紀美術の修復や再現に携わり、刺しゅう職人たちの技が今も生き続けている。

ルサージュの手仕事は、装飾を超え、芸術と文化の継承そのもの。フランスの“遺産と卓越性”を未来へとつなぐ、その確かな存在感を感じられる展示だ。

職人技の美しさ、日仏の文化の交わり、そして創造の未来。そのすべてが静かに胸に残る体験。会期は残りわずか。ファッションと手仕事、アートが出合う奇跡の瞬間を、ぜひ自分の目で確かめて。

CHANEL presents “la Galerie du 19M Tokyo"

会期:~2025年10月20日(月)
会場:東京シティビュー&森アーツセンターギャラリー
住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階
料金:無料(事前予約制)

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