【パラアスリートが見つめる未来 vol.10】デフ陸上競技/岡田海緒さん

自身の記録に挑み、聴者の選手と戦えるデフアスリートになりたい

SPUR1月号 岡田海緒

2025年11月に耳が聞こえない、聞こえにくいアスリートのためのオリンピック、「デフリンピック」が東京で初開催される。本大会は、オリンピックと同じように4年に1度、夏季と冬季の2大会が行われる。ルールはオリンピックとほぼ同じだが、大会では耳の聞こえない選手のためにさまざまな工夫がされる。開催まで残り一年を切りアスリートたちの士気がさらに高まる中、東京大会への出場が期待されている岡田海緒さん。女子デフ陸上界を牽引する存在だ。

「デフリンピックがスタートして100周年という大きな節目の大会が、生まれ育った東京で開催されることにすごく特別感があります。国際大会はどうしても開催地までが遠く、飛行機での移動で疲れてしまうことも。また渡航費用の関係で、家族や友人が応援に来るのが難しいことが多いんです。だからこそ、来年の東京大会はみんなに来てもらいたい! 4年に1度のイベントが自国で開催されることはなかなかないと思うので、ぜひ試合会場に来て、ライブでデフスポーツの魅力を感じていただけたらうれしいです。これから出場権をかけた選考会が続々と行われます。まずは、内定をいただくことが目標ですね」

SPUR1月号 岡田海緒

手話通訳士を介し、手話とハツラツとした笑顔で取材に応じる岡田さん。そんな彼女が考えるデフリンピック競技界の魅力とは。

「個人的に、陸上競技の選手たちは特に種目や国籍に関係なく仲がよい印象を受けます。コミュニケーションにおいては手話の存在が大きいですね。手話で競技が進行される環境は安心しますし、海外選手とは国際手話で交流するので国境を越えてつなげてくれているんだなと感じています。手話での会話では、表情も大事な伝える手段のひとつ。感情表現が豊かな人が多く、みんな本当に明るいんです。また競技中は、耳が聞こえない分、視覚から情報を得て判断しています。たとえば、スタートの合図は音だけではなく、スタートランプも導入されていたり、試合中に陸上競技場のスクリーンを見て、自分がいる位置を確認したりも。一般の記録会に参加して音声アナウンスでしか情報提供がない場合は、どうしても事前準備やウォーミングアップに戸惑うことがあります」

自身の限界に挑み、記録と戦い続けなければいけない陸上競技をここまで続けてこられた要因をこう語る。

「スピードと持久力の両面が求められる中距離種目は、走っていて命を削っているような感覚があります。ですが、目標を達成したときに得られる高揚感や、自分自身の成長を実感できる瞬間にやりがいを感じています。いつか聴者の選手と同等に戦えるデフアスリートになりたいと思っています。私の強みは、試合の展開を見極め、自分のコンディションを判断して前の選手に食らいついていくことができる力。粘り強さには自信があります!」

岡田海緒プロフィール画像
岡田海緒

おかだ みお●1997年8月12日、東京都生まれ。生まれつき耳が聞こえず、幼稚園から高校までろう学校に通う。幼少期に両親の影響で陸上競技に出合い、高校から本格的に部活動を始める。高校時代は全国ろう学校対抗陸上大会の800mと1500mで3連覇を達成。高校卒業後は日本女子体育大学に進学し、2年生時にはサムスンで開催された夏季デフリンピックに出場。2022年のカシアス・ド・スル大会では1500mで銅メダルに輝く。現在は、三菱UFJリサーチ&コンサルティングに所属。

岡田さんを読み解く3つのS

Society

陸上競技を通して、多くの海外選手との友情を深めることができています。情勢が厳しいウクライナ人の選手とデフリンピックで再会することができたときは、うれしかったです。もちろん、試合中はライバルですが、競技が終われば、すぐに友達同士の関係に戻りますね。

Sleep

海外遠征先のホテルでは空調の調節が難しいことが多く、夜は長袖トップスを羽織って寝るようにしています。施設の状況に応じて、自分の体調を整えることもアスリートとして大切なこと。先日行った台湾のホテルでも温度調節して、万全の状態で試合に臨めました。

Smile

愛犬の存在は、私の笑顔の源ですね。人の身振りやアイコンタクトをよく見ていて、ボディランゲージで私とコミュニケーションをとっています。たとえば、自分のことを見てほしいときは吠えて興味を引くのではなく、私の前に来て手で仰ぐようなしぐさをします。

 

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