【林士平の推しマンガ道】「恋愛」というテーマの幅広さと、懐の深さも楽しめる3作品『インターネット・ラヴ!』『瓜を破る』『セーフセックス』

人物造形、人との距離や関係の進め方などのディテールに、時代が映し出される恋愛マンガ。長らくこのジャンルを見つめてきた林さんが、「今」を感じ取ったイチ押しの作品は?

林士平の推しマンガ道

個人的に定点観測を続けているのが「恋愛マンガ」です。どんな作品やどんなテーマが共感を持って読まれているのか。人と一緒にいることの心地よさをどう描くのか。恋愛にまつわる価値観を読者にどう手渡すのか。王道ともいえるジャンルだからこそ、見どころ、読みごたえも詰まっているし、新しい発見があるとうれしくなります。

『インターネット・ラヴ!』売野機子著

『インターネット・ラヴ!』売野機子著
祥伝社オンブルーコミックス/ 全1巻・814円

憧れか恋かネトスト!? とある男子のSNSチェックを日々欠かさないネイリストの天馬と、朗らかで動物好きの可愛いウノくん。SNS越しに醸成された恋の行方は?

「今」を描いている!と感激したのが『インターネット・ラヴ!』。日本と韓国に住む男子二人のラブストーリーです。距離は遠いし、言葉も通じない。でも、たまたま同じ宿に滞在したことからSNSでつながって物語が始まり、翻訳アプリを使えば意思の疎通もデートもできる。肉体的接触とは離れたところで愛が深められていきます。壁や逆境ととらえられてきた状況を描いて、それでも人と人はつながれるんだ、とハッピーエンドの瞬間まで描ききった売野機子先生に拍手! 韓国語と日本語を勉強し合っている二人も可愛いんですよ。

『瓜を破る』板倉 梓著

『瓜を破る』板倉 梓著
芳文社ラバココミックス/ 既刊8巻・682円〜

32歳。働いて都会で自活もしているけどセックスは未経験。「普通」からはずれていることにコンプレックスを抱える主人公と、周囲の人の恋と悩みを、優しさとともに描く。

誰もが経験したことのあるであろう悩みや感情の揺れを解き明かし、高解像度で描くと面白くなる。そう実感させてくれるのが板倉梓先生の『瓜を破る』です。30代になっても性体験がない会社員の悩みを出発点に、同僚、友人、その恋人や家族にもフォーカスする群像劇。人と肉体でつながりたい、つながれないという苦悩を描いているようで、実は彼らが求めているのは肉体ではないんですよね。恋愛マンガにおける古典的な枠組みも使いながら、悪者にされやすいポジションの人にも光をあて、それぞれの事情や思いまで丁寧に描き出す。人と人との距離感をきちんと見定めようとする人たちの誠実さに触れられて、オムニバス作品のようにも読めます。

『セーフセックス』森もり子(原作)・岩浪れんじ (作画)著

『セーフセックス』森もり子(原作)・岩浪れんじ (作画)著
集英社ヤングジャンプ コミックス/既刊1巻・715円

コンドームを買いに行く二人を描いた読み切りがSNSでも話題に。現代の日常を描くことに定評のあるマンガ家がタッグを組んだ、軽やかに進む新感覚のラブコメディ。

セックスを人間関係のファーストオプションのひとつに数えて、カジュアルでドライな感覚を描く『セーフセックス』。森もり子先生の原作と岩浪れんじ先生の作画で、「男の夢」に陥ってもおかしくない設定をリアリティのあるものに変換しています。それを支えるのは、会話やLINEなどの言葉のやりとり、表情、食事シーンなどの緻密な演出。エロスを描くのが上手なマンガ家さんって、実は背景の人物造形や人間関係までめちゃくちゃ考えて作り込んでいるんですよね。ここから、どのようにストーリーが展開していくのか楽しみな作品です。

林士平プロフィール画像
マンガ編集者林士平

マンガ編集者。「少年ジャンプ+」連載中の担当作に『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『ダンダダン』『幼稚園WARS』『BEAT&MOTION』『ディアスポレイザー』。緊急入院から無事生還しました!

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