『ヴィンランド・サガ』11世紀、 ヴァイキングの時代を舞台に「愛」を描く傑作長編!【マンガ編集者のおすすめ】

林士平の推しマンガ道

2005年に始動した連載がついに完結

『ヴィンランド・サガ』 幸村 誠 著

『ヴィンランド・サガ』 幸村 誠 著

講談社 アフタヌーンKC 全29巻・748円〜

「幸村誠という作家の情念と執念を形にしたかのような作品! 週刊少年マガジンに連載の予告カットを見つけてワクワクした大学時代。そこから20年間、連載を追いかけてきたので感無量です」

この秋に最終29巻が発売された『ヴィンランド・サガ』。歴史マンガと分類されるこの作品の舞台は、各地で領地や主権を巡る争いが絶えなかった11世紀ヨーロッパと周辺地域だ。

アイスランドで暮らしていた6歳のトルフィンは、ヴァイキングに父トールズを殺され、敵への復讐を誓って戦いの渦中に身を置くことに。父の仇アシェラッド、戦が生きがいのトルケル、デンマーク王子クヌート、農場で出会ったエイナル、北海最強のヨーム戦士団など、それぞれに戦う理由を抱えた男たちのなかで、トルフィンは父が遺した「敵などいないんだ」という言葉の意味を追い続ける。

『ヴィンランド・サガ』 幸村 誠 著

Ⓒ幸村誠/講談社

家の物置で剣を見つけた6歳のトルフィン。「誰にも敵などいないんだ」という父トールズの言葉は、息子の人生と作品の根幹となっていく

「戦が当たり前にある時代。勇敢に戦うことにロマンがあり、勝って人を殺せば英雄にまつりあげられてしまう世相で、信仰も紐づいている。男たちは戦って死ななければヴァルハラと呼ばれる極楽に行けないという強迫観念にとらわれながら必死で生きている、過酷な時代です。

首が飛び、槍や矢も飛び交う血生臭いバトルシーン満載のマンガですが、テーマは“愛”。“愛を持って世界に向き合うこと”とも言えるでしょうか。デビュー作『プラネテス』から、一貫して愛を描いてきた幸村先生が、愛の真実ににじり寄り、29巻かけて描き切った。

TVアニメ化され、舞台や音楽朗読劇にもなりましたが、大河ドラマか、いやハリウッドで映画化されてほしいくらいの、日本マンガ史に残る大傑作だと思います」

『ヴィンランド・サガ』 幸村 誠 著

Ⓒ幸村誠/講談社

少年トルフィンとの「ロンドン橋の死闘」で指を失うも「トルケルはとにかく楽しそう。強烈なキャラたちの登場にワクワクします」

史実をベースに紡がれる壮大な物語。商人で探検家のソルフィン・カルルセヴニ、船乗りのレイフ、クヌート1世など、実在の人物をモデルにしたキャラクターも多く登場する。

「下調べにはかなりの労力をかけられていると思いますが、元ネタうんぬんよりもマンガとしての出力があまりにも面白いんです! 絵の巧さ、演出、どこをとっても超絶ハイレベル。登場人物は数え切れず、名前のついたキャラクターも続々。それでも、キャラに魂が入っていて、それぞれがリアルな存在感を持って迫ってくる。どうしたらこんなことができるんだ!……とマンガ好きとしても編集者としても驚愕するばかりです。

読み始めたが最後、もう1冊、もう1冊と手が伸びて、気づけば夜更かしをして全巻読破してしまいたくなる。そんなマンガに出合えるって本当に幸せですよね」

『ヴィンランド・サガ』 幸村 誠 著

Ⓒ幸村誠/講談社

毎夜、殺した人の亡霊に責め苛まれているトルフィンは、かつて襲撃した村で狩人ヒルドに再会。憎しみの射程の長さを目の当たりにする

戦いと血に塗られた日々を経たあとに、奴隷となり、やがて自由の身になったトルフィン。戦争も奴隷制度もない平和の国を自ら作るという新たな目標を掲げて、仲間とともに世界の果てのヴィンランドを目指すことになる。

「歴史を丹念に追ったうえで今の世界を見ている幸村先生が読者に突きつけるこの作品、そしてこのエンディング。『ヴィンランド・サガ』を世界中の人が一人残らず読んだら戦争をなくすことができるだろうか。みんなで一斉に武器を手放すことができるんじゃないか、と考えてみることがあります」

29巻のカバー袖には「『大人になった未来の人類』を漫画に描くと面白いんじゃないかしら」という作者の言葉も。

「20年の連載を終えられたばかりですが、幸村先生が次に何を描かれるのか、これからどんな表現に出合えるのか、心の底から楽しみにしています!」

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マンガ編集者林士平

マンガ編集者。『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『ダンダダン』などの人気作品、「少年ジャンプ+」の新連載や読切も担当。「11/8からアニメ『藤本タツキ17-26』がプライム・ビデオ独占配信!」

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