ロングラン上映を続ける映画『エゴイスト』を経て舞台『パラサイト』に挑戦する宮沢氷魚にインタビュー

ヒット中の映画『エゴイスト』での演技が高く評価され、アジア全域版アカデミー賞「第16回アジア・フィルム・アワード」最優秀助演男優賞を受賞した宮沢氷魚さん。話題作への出演が続き、今最も目が離せない俳優の一人である宮沢さんに『エゴイスト』において演技での新たな発見や自身の成長、また次回作舞台『パラサイト』への意気込み、20代最後の年を迎える心境などを聞いた。

『エゴイスト』という作品を経て、役になること、 役と向き合って生きることの重要性を感じた

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——映画『エゴイスト』でのアジア・フィルム・アワード最優秀助演男優賞の受賞おめでとうございます。


宮沢:ありがとうございます。まさか受賞できると思っていませんでした。日本はまだしもアジアのフィルムアワードで各国の素晴らしい作品、その中でも評価されているイム・シワンさん、岡田将生さんなどそうそうたる方々がこの部門にノミネートされていて、そのなかで受賞できたことがすごく嬉しかったです。ノミネートされている以上は、スピーチを考えておこうと思って(笑)、行きの飛行機で書いてジャケットの胸ポケットに押し込んでいたんですけど、いざ賞をいただいた瞬間読まないほうがいいと思って、その場で思いついたスピーチをしました。夢のような、現実味のない感じだったので、実感がいまいち湧かず、今でも本当に香港に行ったのかと思うような不思議な時間でした。『エゴイスト』はまだまだ映画館で公開されていますし、これからますます評価されていくことを願っています。


——『エゴイスト』は公開時から大きな関心、注目からヒットを記録していますが、宮沢さんのもとに直接反響は届いていますか?


宮沢:もちろん、映画を見てくださった方々からの言葉は届いていて、嬉しく思っています。さらに同業者の方々から「『エゴイスト』最高だった」「本当によかった」って言ってもらえて、すごく嬉しかったです。


——この作品を経験して俳優として得たものは?


宮沢:本当に贅沢な現場で、この現場を経験できただけで幸せでした。監督は、本当は台本はいらないと言っていました。台本がなくても台詞や言葉が自然とでるくらい役になりきってほしい、と。そういう意味でも今回、アドリブとはまた違うんですけど…アドリブはあえて計算をして台本にない言葉を言う、突発性があるものですが、僕たちがやったのは、役になってその世界が目の前に存在して、言っていることに何一つ嘘がないものでした。思ったことを言うし、相手もその言葉を初めて聞くので、リアクションも見られるし、返ってくる言葉はこちらもわかりません。普段僕たちがしているやりとりと同じで、だからこそ描かれた物語ですし、リアリティがあったんだと思います。でも、難しいのは、それをほかの現場でもできるかといえばできないことが多いと思います。与えられている台詞もあるし、シチュエーションもありますから。なので『エゴイスト』に参加したことによって、他の作品でも参考にできるのは、役になることです。とても大変なことだけど、実は一番楽なことでもあると改めて思いました。役になると台詞は言いやすく、腑に落ちるんです。『エゴイスト』という作品を経て、役になること、役と向き合って生きることの重要性を感じました。

新作は韓国映画『パラサイト 半地下の家族』の舞台化。 自分たちができることに挑戦し新しさを見せたい

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——役になる、役を生きるという言葉を伺うと、映画『パラサイト 半地下の家族』を鄭義信さんの台本・演出で舞台化する今回の役作りも大変そうだと想像しました。


宮沢:ほんとですね(笑)。この舞台がどうなるか稽古に入ってみないとわかりませんが、僕が演じる純平は、物語の軸になっている人物で、時にはストーリーテラーのような役割があります。家族をまとめるのも純平で純平が舵を取るので、プレッシャーもありますけど、なかなかそういう役をいただくことはないですし、古田さんをはじめ共演者の方々を引っ張っていく役割を与えてもらっているので、楽しみながらやりたいです。


——共演の方々は古田新太さん、伊藤沙莉さん、江口のりこさんら、個性と実力を兼ね備えた方々が勢ぞろいですね。


宮沢:百戦錬磨の名優の方々です。だからこそ、自分がどんなアプローチをしても、お芝居をしても返してくださる方々なので、僕はあまりプレッシャーを感じすぎずにいたいと思っています。現場で思ったことをやってみて、うまくいかないこともあると思うんですけど、たくさん挑戦していって初日を迎えたいです。


——映画『パラサイト 半地下の家族』は2020年に世界の映画賞を席巻しましたが、ご覧になっていますか?


宮沢:この話をいただく前に1回見ていて、決まってからは2回見ています。舞台が韓国から日本の関西になりますが、映画からヒントをもらいつつも、僕たちだからできることをやって、新しさを見せていきたいです。

——宮沢さんの中で舞台と映像の違いはありますか?


宮沢:僕の中では違いますね。ドラマは3ヶ月、朝ドラは1年とスパンは長いんですけど、舞台ほど濃密に役と共にある時間はありません。舞台の場合は稽古の時からずっとその役のことを考えて、お芝居をして、本番が始まってからは、幕が開いた瞬間から終わるまでを3時間として、3時間の間役として生きるので、役の深さは舞台の方があるような気がして、すごく楽しいです。稽古でも発見することがたくさんあるだろうし、本番期間が始まってからも、僕が演じる純平やほかの人物との関係性がどんどんどんどん日に日に変わっていくと思うので、それを楽しみたいです。


——『豊饒の海』『ピサロ』、そして本作と重みのある作品が続いています。宮沢さんにとって、舞台に立つ魅力は?


宮沢:『BOAT』という作品が初舞台で初主演だったんですけど、ゲネプロの日に台本が上がったんです(笑)。演出家の藤田貴大さんならではみたいなんですけど、楽屋に着いたら台本があって、1、2時間かけて覚えて、ゲネプロをやってすぐ本番でした。その次に初めてパルコ劇場でやらせていただいた時は、三島由紀夫の『豊饒の海』という作品で主人公の飯沼勲役を演じました。飯沼は三島由紀夫が一番理想とする人物で、すごく長いセリフがあります。それは三島由紀夫の思いで、その時の日本に対する不満や理想としていることを語る難しい役どころでしたが、舞台では特に自分が面白いと思う役をやらせてもらっていると感じています。今回の純平もそうです。大変ですけど、やり遂げたときの達成感がものすごくありますね。

台本が当日届いた経験は、今思うと良い思い出というか、それがあったから今頑張れるし、大変なことを乗り越えたからこそ、何かあっても大丈夫、なんとかなるでしょって思えます。それを乗り越えた自分がいるので。舞台では面白い経験をたくさんしているので、きっと今回もあるでしょうね。今回も楽しみにしています(笑)」。

俳優として続いている難役への挑戦

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——ゲイの役を演じた映画『his』と『エゴイスト』や発達障がいの画家を演じた5月公開の主演作『はざまに生きる、春』など、表現が難しいと捉えられている役どころを演じることについてどういう考えをお持ちですか?


宮沢:ゲイを演じた『his』や『エゴイスト』、発達障がいの画家の役を演じた『はざまに生きる、春』も、自分が一つ表現を間違えるだけでたくさんの人を傷つけてしまうかもしれないし、差別を助長してしまう可能性もあります。作品で描かれていることが、見る人によってはある一つの正解になってしまうかもしれないので、物語の中で真実のものであるべきだと思います。そうじゃないと間違えて伝わってしまうかもしれず、それはとても怖いので、いろんな方に事前にお話を聞いて、慎重に表現できるようにしっかりと準備をして臨みたいと思っています。


——宮沢さんがそう考える背景について教えてください。


宮沢:僕の中で、一回何事も理解したいという思いがあるんです。癖というか。それは多分インターナショナルスクールに通っていた時から、いろんな国籍の人がいて、宗教や文化も違うので、価値観も違って当然。みんなぶつかるんです。それってある意味、自分勝手で、自分が正解だと思っているからなんですよね。僕はまずは相手の思いや価値観を理解しようと努めて、わからないものはわからないけど、わかろうとする思いはあります。絶対一度は相手のことを知ろうとしたり、わかろうとする思いはあります。インターには、本当に変わった人がたくさんいました(笑)。僕はその環境に13年間いて、これもインターならではなんですけど、親の仕事の都合などで生徒がコロコロ変わっていました。2、 3年日本にいてその後韓国に行って、その後中国に行くとか、入れ替わりが激しい学校だったので、いろんな人と触れ合っていました。

——今、お芝居の楽しさや大変さは感じていますか?


宮沢:どの作品も終わった時に、演じた役のことを一番理解できているのが悔しいです。それが序盤でできていたら、後半はなんて楽なんだろうって感じると思うんですけど、終わりかけとか、終わった瞬間に、この人ってこういう人だったんだってわかることが多くて。それが難しさでもあり、面白さでもあると思うし、そう感じるのは、多分僕だけではないと思います。撮影や舞台の公演を繰り返していくうちに、毎日何かしらの発見があって、全部終わった時に自分の中で一番完成度が高い。でも、どちらがいいというのはないと思います。舞台だったら、初日は初日の良さがあって、まだ探っている中での成長過程が見れます。それがどんどん成長していって、折り返し地点では安定していて、最後に向けてギアを入れたときに、また変わってくる面白さがある。舞台は何度も見てくださる方もいますが、1回の観劇という方が多いと思うので、その1回の完成度と考えると面白いですよね。演じている側は、毎日あれって気づくほど変わっていくのが、舞台の面白さであり醍醐味です。

20代最後の一年。 本当の勝負となりそうな 30代を迎えるのが楽しみ

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——4月24日に29歳の誕生日を迎え、20代最後の年となります。年齢のことは意識しますか?


宮沢:今、自分的には24歳くらいの気持ちなんです(笑)。24歳くらいから変わっていないなあって(笑)。でも、30歳を迎えるのも、楽しみです。自分の中では20代は全速力で走る体力があるし、やりたいことに対する体力もある時期。体力に見合ったやりたいことがあって、一番バランスが良い時だと思います。30代になると、多少体力や勢いが落ちていきますよね。先輩方から、30代の役者は難しいっていうことも聞いています。30代の役は20代もできるし、40代の役者さんも若く作ればできるので、30代の役者にとっては、難しい時期らしいんですよね。そこを生き抜けられればその先もやっていけるらしいので、ある意味30代が本当の勝負というような気がしています。でも、体力面もあるし、もしかしたらやりたいことやできることも絞られてくるかもしれないので、自分のペースや、自分のやるべき作品を見極めてやっていきたいと思っています。


——俳優としての現在位置や今後に向けての抱負を教えてください。


宮沢:自分がどういうタイプの役者なのかとか、今自分がどこにいるのかとか、いまいちわからなくて。周りの方からすごく成長したねとか、すごいねって言っていただけるんですけど、自分の中ではそうなのかなってわからないところがあります。でも、そのままでいいような気もしていて。周りの人がそう言ってくれるならそうなんだし、いつか自分でゆっくり振り返ったときに、自分の歩んできた道がわかる日が来ると思うようにしています。


——今一番演じたいのはどんな役ですか?


宮沢:以前はサイコパスとか、バディものや刑事ものとかやりたかったんですけど、今は前に演じた役…例えばドラマデビュー作が研修医の役(17年出演のドラマ『コウノドリ』)だったんですけど、いま医者として成長した姿を演じてみるとかやってみたいですね。過去演じた役を今またやって、どのくらい変わったのかとか、どのくらい表現が豊かになったのか、できたら面白いかも。

久しぶりにキャンプに行って 自然に囲まれてゆったりと過ごせた

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——舞台に映像に作品が絶えず続いていますが、息抜きとなるのはどんな時間ですか。プライベートでほっとできる瞬間、仕事のことを忘れられる時間を教えてください。


宮沢:最近キャンプに行って、キャンプって面白いなと思いました。子供の頃、父とよくキャンプに行っていたんですけど、久しぶりに友達と行って、自然に囲まれて、ゆったりと過ごせました。買い出しも楽しくて、調子に乗っていろいろ買うんですけど、半分ぐらいしか食べられなくて(笑)。せっかくだからいい肉を一枚と、普通の肉を買って食べ比べをしてみたんですけど、不思議なことに網で焼くと安い肉の方が美味しく感じたんですよね。こんなに違うんだ、いいお肉は一切れでいいかなって。サーロインの脂が乗っていて、全部食べきれなかったのを後悔しています(笑)。


キャンプの間は火をおこしたり、テントを張ったり、野菜を切ったり、キャンプでやること以外考えないので、仕事のことは思い出さなかったですね。個人的に好きだったのは、薪を裂いていく作業です。割り箸くらいの大きさのものをたくさん作って、それを束にして、斧で鰹節を削るように作っていくんですけど、2時間くらい無心になってやっていました(笑)。友達にもういいよ、薪がなくなちゃうからって言われて、ハッとしました(笑)。焚き火も永遠にっていうくらい見ていられます。お酒を買ったんですけど、飲まずに火をひたすら見てました」


——自分でキャンプグッズを揃える計画はありますか?


宮沢:揃えたいですね。でも、『THE LEGEND & BUTTERFLY』で共演した音尾琢真さんに揃え出すとキリがないって言われました(笑)。音尾さんはキャンプや釣りが趣味で、部屋一面がグッズで埋まってるそうです。僕も一歩踏み出したい気持ちがありつつ、今の家は置く場所がないので、気持ちを抑えています。これからキャンプをしていく中で、必要だと思うものがあったら、ちょっとずつ買っていきたいです。

——2023年はまだ半分にも満たないですが、宮沢さんにとって言葉であらわすとどんな年ですか? 


宮沢:『闘う』『fight』ですかね。人とではなく、自分自身とです。20代最後の年になりますし、自分自身と闘っていきたいです。また30代に入ったら環境も変わると思うのでモチベーションを上げるためにも、いろいろなものと闘っていきたいです。20代最後を闘い抜いて、30代をフレッシュな気持ちで迎えたいです。


THEATER MILANO-Zaオープニングシリーズ/COCOON PRODUCTION 2023『パラサイト』

日本版『パラサイト』の舞台は、90年代の関西。家内手工業の靴作りで生計を立て、川の水位より低く、一日中陽がささないトタン屋根の集落で細々と暮らす金田一家を描く。

日程・会場: <東京公演>2023年6月5日(月)~7月2日(日)THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)  <大阪公演>2023年7月7日(金)~17日(月・祝)大阪・新歌舞伎座  
公式サイト『パラサイト』

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