綾瀬はるか「その時の“当たり前”がどれだけ大きな壁だったのか」 映画『ファーストボイス』で伝えたいこと

映画『ファーストボイス』で綾瀬はるかさんが演じるのは、ピンチに直面しても声を荒げず、目の前の人に寄り添いながら、粘り強く前へ進んでいく弁護士・朝日道子。綾瀬さんは、そんな彼女を「たおやか」と表現する。その言葉からは、柔和な空気をまといながら、自分が「これだ」と信じたものを大切に貫く綾瀬さんの姿が重なって見えた。当たり前を疑うこと、そして最初の一歩を踏み出すことについて聞いた。

映画『ファーストボイス』で綾瀬はるかさんが演じるのは、ピンチに直面しても声を荒げず、目の前の人に寄り添いながら、粘り強く前へ進んでいく弁護士・朝日道子。綾瀬さんは、そんな彼女を「たおやか」と表現する。その言葉からは、柔和な空気をまといながら、自分が「これだ」と信じたものを大切に貫く綾瀬さんの姿が重なって見えた。当たり前を疑うこと、そして最初の一歩を踏み出すことについて聞いた。

INDEX

「どれだけ大きな壁だったのか」と驚かされた

綾瀬はるか「その時の“当たり前”がどれだの画像_1

――バブル期の日本を舞台とし、日本初の「ハラスメント」裁判に着想を得たフィクションである本作。職場で理不尽な嫌がらせを受けた女性と、前例のないハラスメント裁判に挑む弁護士たちの姿を描いています。この時代に、声を上げた人たちがいたことについて、どう感じましたか?

「今だと『これは普通だよね』と思うことが、当時は決してそうではなかったりして、驚かされることがたくさんありました。今だったら簡単に『やめてください』って言えることも、どれほどの勇気がいることだったんだろうって。その一方で、今の私たちを見て、数十年後の未来の人たちが『なぜ?』って、思うこともありそうです。その時代の常識や社会の空気が、どれだけ大きな壁だったのか。衣装である洋服からも分かるとおり、バブルは、すごくエネルギーがある勢いのある時代だったと思うけれど、女性が今よりも生きづらかったり、いろんな葛藤があったんだなと。そこまで昔ではなく、少し前なだけな気もするけれど、環境が全然違うのだなと、演じてみて改めて感じました」

――当時に比べれば声を上げやすい時代になりましたが、生きづらさを抱える人たちがいなくなったわけではありませんよね。

「社会の中には『普通こうだよね』『この年齢ならこうしてるよね』といった暗黙の基準があって、それによって苦しさを感じている人は、今も多くいるのかなと思います」

「目の前の人に寄り添える。その優しさが強さに変わっていく」

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――朝日道子という弁護士を、どんな人物だと捉えていましたか?

「以前にも弁護士役をやらせていただいたことはあるんですけど、時代も、人物像も全然違いました。朝日先生は、もちろん強い人ですが、それ以上に、目の前の人に寄り添える優しさや、困っている人を放っておけないところ、そして最後まで諦めずに一緒に戦い抜く強さや思いやりが魅力。だからこそ、そうした人間らしさを大切に演じました」

――朝日先生は、ピンチの時にも焦らず、いつも前向きでどっしりしていますよね。その強さはどこから来ていると思いますか?

「もちろん落ち込んだりすることも色々あるけれど、それを前向きな力に変えられるところがすごい。たおやかというか、淡々と『まあ、頑張りましょう』と言えるような人。のんびりしているようで実はすごく粘り強くて、人の気持ちを受け止める包容力もある。性格もあるのかな(笑)。損得よりも『困っている人を放っておけない』という人情味があって、最後までやり抜く力もある。すごく温かい人なんだと思います。相手を思う気持ちが次第に強さへと変わっていくからこそ、一緒に走るパートナーとしても弁護士としても、かっこよく見えるんだと思います」

――母親としての朝日先生も、とてもおおらかですよね。

「娘さんが学校に行かないところとかも、普通だったらもうちょっと心配したり、怒ったりしそうなのに、『そのうち家にいるのも飽きるわよ』みたいな感じで(笑)。仕事をしながら3人のお子さんを育てるって、実はとても大変だと思うんですけれどね」

――完成した作品を通して、改めて感じた朝日先生の魅力は?

「朝日先生は、何度でも立ち上がる起き上がり小法師みたいな人(笑)。『大丈夫よ』『やりましょう』と前を向き続けるんです。そして何より、相手の気持ちを大切にしながら向き合う真摯な姿勢がある。だから『この人なら一緒に戦える』と信頼できる先生なんだと思います」

――綾瀬さん自身と朝日先生に、重なる部分はありますか?

「難しい局面でも『少しでも何かできるんじゃないか』っていう可能性を探るところは、共感できますし、似ているところもあるのかな、と思いました」

――演じる上で、監督から印象的な言葉をかけられることはありましたか?

「『エレガントにやで~』みたいなことを言われてました(笑)。言葉としてはわかりやすいけど、演じるのはなかなか難しかったです」

「あの赤い服は、朝日先生にとっても勝負服だったと思います」

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――終盤、朝日先生と恵がボディコンのスーツを着る場面があります。朝日先生にとっても勝負服のように見えました

「普段はもう少しカチッとした、当時のきちんとしたスーツを着ているんですよね。そんな中で、あの赤いボディコンスーツは、朝日先生にとっても勝負服だったのかなと思います。恵のように自立して働く女性にとって、特別な意味を持つ服なんだと伝えるために着ているように感じました。だからこそ、私自身もあの服を着るたびに、不思議と背中を押されるようなパワーをもらえた気がしました」

「一人ではなく、いろんな人の思いを背負っている感覚」

――終盤の口頭弁論で、朝日先生が自身の経験も交えながら語るシーンは非常に印象的でした。撮影現場はどんな雰囲気でしたか?

「映ってないところでも皆さんが一緒に感情を作ってくださっているのが伝わってきて、一体感がありました。特に最後の口頭弁論のシーンでは、朝日先生はただまともさで勝負するのではなく、『想像してみてください』『自分の子どもだったら』と、心に寄り添う言葉を投げかけます。その思いを皆さんにしっかりと届けたいという気持ちと、同じ悩みを抱える人たちと共にいるような感覚がありました。何日にもわたる撮影でしたが、終始いい緊張感の中で臨むことができました。一人で立っているのではなく、多くの人の思いを背負っているような感じもありました」

撮影の間は「関西弁のテンポのよいトークで」

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――ファーストサマーウイカさん、松本穂香さんとの撮影はいかがでしたか?

「ウイカさんは、ずっと元気にしゃべっていました(笑)。ムードメーカーでしたね。松本さんと監督の間では、関西ならではのテンポのいいトークが繰り広げられていました。『みんな怒ってるのかな?』と思うくらいの勢いで(笑)。『なんだかすごく怖いんですけど』と話したら、『関西ではこういうしゃべり方なんだよ』って教えてもらいました」

――綾瀬さんは、その会話に入っていけましたか?

「だいたいツッコまれてましたね(笑)。特に松本さんとか、鋭いツッコミがサッとできるんだなと。『関西の人はすごい!』って思いました(笑)」

「長期戦の粘り強さって、すごく必要なんだと感じました」

――今回、弁護士を演じたことで「弁護士ってこういう仕事もあるんだ」と驚いたことはありましたか?

「一つの裁判に携わる期間が長い。長期戦の粘り強さが、すごく必要なんですよね。依頼者の心の揺れも受け止めなければいけないし、大変ですよね」

――支援団体との関係についても、リアルに描かれていました。

「女性支援団体との関係性の難しさも、とてもリアル。支援する側には「同じ思いで力になりたい」という気持ちがある一方で、依頼者には「これは私自身の裁判なんです」という思いがある。また、支援する側は『私たちは色んなモノを犠牲にして活動してきた』という積み重ねがある。ハラスメントの裁判そのものだけでなく、その周囲にある人間関係や葛藤までしっかり描かれている作品だと思いました」

――裁判のシーンのために、実際に傍聴したり、何か勉強されたりしましたか?

「私は実際に傍聴には行っていませんが、弁護士が登場する作品をたくさん見たり、資料を読んだりしました。現場に弁護士の先生がいらっしゃったので、いろいろお話も伺いました」

――現場の弁護士の先生から聞いた話で、印象に残っていることはありますか?

「裁判は心理戦でもあるので、戦いながらどこか演じているような部分があるのかなと思いました。「演技してる感覚に近いですよね」と聞いたら、「そうなんですよ」とおっしゃっていて。どう見せるかを意識することもあるようです。弁護士という仕事は奥が深いなと改めて感じました」

「怖くても、今できる小さな一つをやる」

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――最初の一歩を踏み出すことは、本当に勇気が必要ですよね。綾瀬さん自身は、初めてのことや大きなチャレンジに向き合う時、どんな心構えで臨んでいますか?

「作品のクランクインの時や、大変そうなシーンで不安なことはよくあります。自分がやったことのないことに挑戦する時は、『怖いな』とか、『嫌だな』とか、『明日が来なきゃいいのに』と思うことがあって(笑)。だからこそ、今の自分にできることを一つずつ積み重ねるようにしています。どんなに小さいことでも、それが少しずつ自信や勇気につながっていく気がします」

――これだけたくさんの現場を経験されていても、緊張しますか?

「長い弁論シーンなど、やはり緊張します。経験を重ねても、作品ごとにスタッフやキャストは違いますし、現場には『初めまして』の人がたくさんいます。実際にその場へ行ってみないと、その日の空気感や天候、ロケーションもわからない。そんな小さな要素一つで気持ちがすごく揺れることもある。見えない部分だからこそ、『怖いな』と感じることはよくあります」

――今回のクランクインはいかがでしたか?

「初日から皆さんが場を和ませてくださって。書店のシーンでご一緒したファーストサマーウイカさんも、現場をぱっと明るくしてくれました。今回は監督がいつもカメラのすぐ横で見ていて、こんなに近くにいるんだ!と思うほど(笑)。その近さが逆に安心感につながって、ずっと見守られているような心強さがありました」

「まず、自分の違和感を否定せずに、自分の声を信じること」

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――この映画を観る方に、どんなことを感じてもらえたらうれしいですか?

「何か大きなことをしようとするのではなく、まずは自分の中に生まれた違和感に『あれ?』と気づくこと。そして、その感覚を大切にすることが第一歩になるのだと思います。私自身、この作品を通じてその大切さを改めて感じました。また、朝日先生たちが信じるもののために勇気を持って一歩を踏み出し、最後まで諦めずに戦い続ける姿には、きっと背中を押される方も多いと思います。そんなところにも注目していただけたら嬉しいです。

――この作品の着想のもとになった、当時実際に声を上げて戦った女性たちには、どんな思いがありますか?

「勝敗に関係なく、誰か一人が一歩踏み出すことで、同じ思いをしていた人たちが一緒に力になって、動いていく。動き出すことで、いろんなことが多少なりとも変わっていったと思うので、その方たちの勇気があることで、今の時代がよりよくなっているんだと思うと、ありがたいです。そういう気持ちを大事にしながら演じました」

――今年は3本の出演作が公開されるなど、忙しい日々の中で、気持ちをリセットするためにしていることはありますか?

「いい香りのお風呂ですね。アロマオイルを入れて、その日の気分で香りを変えたりしています。最近はラベンダーが多いかな。長くても10分ほどですが、その時間だけでも香りを堪能しながら、『はぁ~』とひと息ついてます(笑)。もともと冷え性なので、下半身が温まるだけでも全然違うんです。撮影期間中も、短い時間でもなるべく湯船につかるようにしています。寒い時期は厚手の靴下を履いたり、足裏にカイロを貼ったり。夏も冷房で意外と体が冷えるので、季節を問わず体を温めることは意識しています」

――最近ハマっていることはありますか?

「断捨離です。何日か前にも、朝からビニール袋と段ボールを用意して、家の中を見渡しながら頑張りました(笑)。定期的に行っているんですけど、毎回どうしても越えられない壁があるんです。長年持っているのに着ていない服や、紙袋、箱(笑)。特に紙袋と箱はなかなか捨てられなくて。『よくできてるなあ、この箱』って見入ってしまうんですよね。かわいいものも多いですし。断捨離してるはずなのに、紙袋と箱だけはなかなか減らない。そこは昔からずっと変わっていない気がします」

『ファーストボイス』全国ロードショー!

日本初のハラスメント裁判に挑んだ女性たちの実話に着想を得た痛快リーガルエンターテイメント。職場で執拗な嫌がらせを受け、仕事を奪われた上原恵(ファーストサマーウイカ)が、弁護士・朝日道子(綾瀬はるか)のもとを訪れる。当時はまだ「ハラスメント」という概念すら一般的ではなく、新人弁護士・藤野栞(松本穂香)は勝ち目がないと反対するが、朝日は「この裁判は必ず未来につながる」と立ち上がる。監督は前田哲、脚本は橋本裕志。
配給:松竹/ワーナー・ブラザース映画
©2026「ファーストボイス」製作委員会

https://movies.shochiku.co.jp/firstvoicemovie/

綾瀬はるか あやせ・はるか
1985年3月24日生まれ、広島県出身。2000年、芸能界デビュー。以降、出演作に大河ドラマ「八重の桜」、「義母と娘のブルース」シリーズ、「天国と地獄~サイコな2人~」「元彼の遺言状」「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(語り)「ひとりでしにたい」、映画『はい、泳げません』『レジェンド&バタフライ』『リボルバー・リリー』『ルート29』などがある。2026年は、本作と『人はなぜラブレターを書くのか』、『箱の中の羊』の3本が公開。