幸せとは? 正しさとは? 運命とは何か? 人は何のために生きるのか?どこまでも深く、根源にまで問いかける『不思議な少年』の物語。 ベテラン作家の“マンガ力”に酔いしれる! 時空を超えて、人間を見つめるオムニバス 『不思議な少年』 山下和美 著 講談社モーニングKC 既刊9巻・755円〜 「良質なショートムービーを何本も観たような満足感に浸れます」と林士平さん。原始から未来、東京から遠い宇宙まで。時間も空間も超えて各地を飛び回り、無数の人間を見つめる少年を狂言回しに紡がれるオムニバス。2001年から不定期で連載されている、山下和美の代表作のひとつが『不思議な少年』だ。 「天使とも、悪魔とも、《永遠に捜しつづける人》とも呼ばれる少年は目撃者。積極的に関与して誰かの人生を変えてしまうのではなく、“ありえたはずの未来”を見せて選択肢を明示したり、人類史を走馬灯のように見せたり、観察対象にヒントを与える存在です。人間に感情移入する瞬間もたびたびあって、第4話『鉄雄』のように感情をむき出しにする場面も。人間は愚かで、業にまみれて救いようもない。だが、それでもなお美しい。多様な人生の多彩なドラマを、ファンタジーもリアルもシリアスも交えながら描く途方もない作品です」 Ⓒ山下和美/講談社 西洋哲学の礎を築いたソクラテスに人類史を俯瞰させ、“普遍の正義”の存在について考察する「ソクラテス」。(第2巻p.90〜91より) 「ソクラテス」「タマラとドミトリ」「リチャード・ウイルソン卿とグラハム・ベッカー」「NX-521236号」など忘れ難いエピソードは数多い。 「無差別殺人をテーマにしながら、こんな形で希望を描くことができるのか、と驚いたのが第11話『由利香』です。これまでの人生で触れたことのなかった感情も、この作品を読むことで少しだけ理解できるようになった。そう思わされるエピソードがいくつもありました。山下和美先生は、歴史の知識が豊富で、さらにその奥にあったかもしれない知られざる物語を思いついてしまうんでしょうね。寓話性と泥くささが盛り込まれた、時代も設定も長さも異なる物語の多彩さ! 少年が見つめる景色と時間軸の広大さ! それを少ないページ数で表現し切る“マンガ力”の強さ! カメラワーク、目に焼きつくようなカットと、逆にするする読み進めさせるコマ割り、吹き出しの位置、どれもがすごいことになっています」 Ⓒ山下和美/講談社 神に愛された声を持つ男を描く「鉄雄」。男を前に、いくつもの感情がないまぜになった少年の表情。(第2巻p.51より) 弩(ド)級の“マンガ力”はセリフ運びにも。 「言葉と絵の意味を重ね合わせたうえで、テンポも完璧に計測。言葉の省略も名人級です。濃度の高い絵を置いて読み手の想像力も活用しながら展開するので、言葉で書かれていないものも体に入ってくるんですね。読み直してみて、歌という概念への強い信頼感も感じました。『鉄雄』『ベラとカリバリ』『THE MAN』『マリー・ロンドン』など、歌を軸にしたエピソードもいくつかあって、どれも素晴らしいんですよ」 Ⓒ山下和美/講談社 灯台の光が墓地を照らす。シチュエーションと感情の符合に震える「タマラとドミトリ」の1ページ。(第2巻p.209より) 作家にインスピレーションを与えたであろうマーク・トウェインの同名小説がある。その中で不思議な力を持つ少年は「サタン」を名乗るが、このマンガでは名前を持っていない。一方、少年に観察される人間たちには具体的な名前がつけられていて、それがキャラクターのイメージを広げ、モデルとなったであろう人物たちを想起させる。 「実在の人物も登場します。“無知の知”を説いた哲学者を主人公にした第5話『ソクラテス』では、少年が見せる人類史の表現、ソクラテスの最期に現代日本のリストラの話が重ねられるという構造もすごい。《君の命がもしも永遠なら 君は永遠に死を知ることは出来ない》というセリフも効いています。これを読んで以来、僕の中でのソクラテスはこの作品のイメージになってしまいました」 マンガ編集者林士平 マンガ編集者。「少年ジャンプ+」で『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『幼稚園WARS』などの人気作品、新連載や読切も担当する。「『ダンダダン』TVアニメの第2期が7月3日からスタートします! ぜひ!」 マンガに関する記事はこちら! 『不思議な少年』 時空を超えて、人間を見つめるオムニバス【マンガ編集者のおすすめ】 【ユニクロ】UTが、漫画家・矢沢あいの名作とコラボレーション! UT限定の描き下ろしデザインもお見逃しなく 『乙嫁語り』 緻密に描き込まれた絵と物語に震える長編【マンガ編集者のおすすめ】 『よつばと!』そこにドラマがあってもなくても、丁寧に描けば日常はこんなに輝く!【マンガ編集者のおすすめ】 『昭和元禄落語心中』プロットにも絵にも演技にも感嘆する一作【マンガ編集者のおすすめ】 『寄生獣』不変的なテーマと高密度の物語に震える、ド級の名作 【マンガ編集者のおすすめ】