誕生、再生、海の神秘、世界の秘密。自然科学的想像力が炸裂する壮大な世界に没入しながら、じっくり読みたい海洋冒険譚。 圧倒的な絵に魅せられる、未知の世界。地球と宇宙とすべての生き物の誕生の物語 『海獣の子供』 五十嵐大介 著 小学館 IKKI COMIX 全5巻・858円〜 ジュゴンに育てられた二人の少年・海と空。海女だった母と暮らす少女・琉花。「同じモノを見たり、同じコトを考えたりする人のニオイ」がすると、海は琉花を誘い、二人は夜空に不思議な光を見る。海辺の小さな街から海中へ、外洋へ、さらには宇宙へと舞台を広げながら進むひと夏の物語。『海獣の子供』は、五十嵐大介にとって初めての長篇マンガにして代表作だ。 世界の始まりに“原初の水”があるとする創世神話。二人の少年をめぐる大人たちの思惑が少しずつ明らかになる。(3巻p.305より) 「少女と少年の冒険譚であり、海と宇宙と人体が重ねられた“誕生の物語”でもある。生物の迫力と美しさを味わえる傑作、『海獣の子供』。細胞を拡大するとまるで宇宙みたいだ、世界って誰かの体の一部なのかもしれない、と小学生の頃に考えていたことを思い出しながら読み返しました。神話や伝説、生命起源論などをベースにした難解なストーリーを、圧倒的な画力と表現力で描く! これは五十嵐先生にしか生み出せない芸術作品、であると同時にエンタメでもある、ものすごいマンガです」 長く海中で暮らしていた少年たちは自在に水中を動き回り、海の生き物たちが泳ぎ回る場所へ琉花を招き入れる。彼らに呼応するように、地上には雨が降り、植物がざわめき、夜空を隕石が横切っていく。魚が光になって消える事件が頻発し、世界各地でミステリアスな事象が目撃されるようになり、これらが誕生祭という大きな出来事に帰結してゆく。 鯨が歌い、アザラシが泳ぐ世界で、人間や言語の特権性を否定する。「この作品を象徴するセリフです」(4巻p.324より) 「自然を描くことは五十嵐先生のメインテーマだと思います。緻密に描写するだけではなく、コマ割りとコマ運びで連続性を持たせた独特の美しさ。作家が見ている世界をどう切り取って見せるか。その選択肢は無数にあるわけですが、読み手の脳がどう間を埋めるかまで理解して描かれているから、ひとつながりのシーンとして頭に残るんですね。 コマ運びで一番印象的だったのが、5巻収録の第36話『瞼』の数ページです。『君の役割は、/終わったんだよ……』と言われて琉花が瞼を閉じ、暗闇がやってくる。そこに浮かぶ『…でも、』でコマを破り、『見てみたい。/このあと何が起こるのか。』という意思とともに景色が戻ってくる。コマ割りには意図や計算ももちろんあるけれど、作家の美学がじかに出る。五十嵐先生の作品の心地よさは格別です。ここまで振り切った表現とストーリー展開でも読者を離さない。ボールペンで描かれた絵の独特の手ざわりはクセになるし、これが表現に奥行きと説得力を持たせているのもすごい! 『IKKI』という伝説の雑誌だからこそ実現した、唯一無二の連載です!」 琉花の体内の隕石が記憶を引き出しあふれ出す。「水の表現も圧巻! 5巻のエネルギーはすごい!」(5巻p.32〜33より) 2019年には渡辺歩監督、STUDIO4℃によってアニメ化もされた。 「この絵を動かすって、嘘だろ⁉と思いながら映画館に行き、尋常じゃない映像美に打ちのめされました。渡辺監督、STUDIO4℃に加えて、キャラクターデザインと総作画監督、演出を手がけた小西賢一さんの仕事ぶりにもふるえます。マンガ原作の映画としてだけでなく、アニメーション映画として、日本の最高峰のひとつに数えられる作品です。物語や作品の世界観への理解も深まるので、これから『海獣の子供』に出合う人には、マンガを読んでから映画を観て、再びマンガを読み返すのがおすすめです! 一方にしかないエピソードやディテールがあるので、指さし確認しながら鑑賞するのが楽しいですよ」 マンガ編集者林士平 マンガ編集者。『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『ダンダダン』などの人気作品のほか、「少年ジャンプ+」の新連載や読切も担当する。「寮長を務めるマンガアパートメントVUY2期生募集中です!」 マンガに関する記事はこちら! 『海獣の子供』 地球と宇宙とすべての生き物の誕生の物語【マンガ編集者のおすすめ】 脚色は一切なし! 清野とおる【壇蜜】は、極めて面白い、世にも奇妙なラブストーリー漫画だ 『不思議な少年』 時空を超えて、人間を見つめるオムニバス【マンガ編集者のおすすめ】 【ユニクロ】UTが、漫画家・矢沢あいの名作とコラボレーション! UT限定の描き下ろしデザインもお見逃しなく 『乙嫁語り』 緻密に描き込まれた絵と物語に震える長編【マンガ編集者のおすすめ】 『よつばと!』そこにドラマがあってもなくても、丁寧に描けば日常はこんなに輝く!【マンガ編集者のおすすめ】