【林士平の推しマンガ道】新しい生活と決断を応援してくれる3作品『ランジェリー・ブルース』『天狗の台所』『スーパースターを唄って。』

2024年はどんな年? 仕事や学校、人間関係、生活のさまざまな場面で新しいことにチャレンジしたい!と考える人を勇気づけてくれるマンガをセレクト

林士平の推しマンガ道

『ランジェリー・ブルース』ツルリンゴスター著

『ランジェリー・ブルース』ツルリンゴスター著
KADOKAWA/全1巻・1,485円

派遣社員として働く主人公が、ランジェリー専門店で出合ったぴったりの下着と新しい仕事。転職し、恋人に別れを告げ、悩みながらも自らの人生の舵をとる姿を描く。

春でも、夏でも、どんな季節でも、新しく何かを始めたい人の背中を押してくれるマンガとして、まっさきに思い浮かんだのがツルリンゴスター先生の『ランジェリー・ブルース』です。ランジェリーとの出合いによって「私が私をつかまえた感覚」を抱いた主人公が、その日のうちに転職を決意する。人生におけるエポックメイキングな瞬間と、その気づきに職業ごと預ける勇気に拍手! やがて、7年つき合っていた彼との別れがやってきます。自ら選択したとはいえ、決断には痛みや犠牲も伴う。心理や状況の描写が丁寧になされるので、絵空事でもなく大げさでもなく人生は自分の手で変えられるのだ、と読み手に実感させてくれます。身につける物によって自分を表現するというテーマ、SPUR読者には特に刺さる人が多いのでは。実写ドラマ化されてほしいです!

『天狗の台所』田中 相著

『天狗の台所』田中 相著
講談社アフタヌーンコミックス/既刊3巻・748円〜

「14の歳は人目につかず生きよ」というしきたりに従い、NYから東京郊外へ引っ越したオン。田畑を耕し、鶏をしめ、兄と犬との暮らしのなかで四季折々の美に出合う。

29歳の兄が暮らす東京郊外に、NYから14歳の弟がやってきて始まる、スローな二人暮らしを描く『天狗の台所』。天狗の末裔というファンタジー設定に、主人公の少年が驚いたり、天狗パワーを期待してしまったり、読者と同じ目線が盛り込まれているのがいい! 日常、特に料理パートの丹念かつ巧みな描写もすごい。田中相先生ならではの絵の美しさとも相まって、作品の背骨を強くしています。そして新生活をポジティブに受け入れて、新しい慣習や人間関係を楽しむ主人公が可愛い! 二人以外にも登場する末裔たち、兄の背中にある羽や、家系に伝わるしきたりなど、気になる背景や人物がまだまだあるので、巻数たっぷりで長く読み続けたい作品です。

『スーパースターを唄って。』薄場 圭著

『スーパースターを唄って。』薄場 圭著
小学館ビッグコミックス/既刊1巻・715円

大阪の路上に立ち、売人として生活する17歳の少年。天涯孤独の身と哀しみを抱えた心からあふれる言葉がノートに書きつけられ、いつしか音楽となって流れ始める。

「人生を変える」というテーマは『ランジェリー・ブルース』と共通ですが、『スーパースターを唄って。』の舞台はかなりヘビーです。借金を返すため薬物の売人をしている17歳の主人公が、ヒップホップミュージックで自らの境遇を跳ね返していくことになるであろう物語。ライブシーンから始まるものの、1巻では音楽表現はほとんど開放されていません。登場人物が抱えるものや、背景もまだあまり明かされておらず、情報をここまで伏せたまま面白く読ませるのもすごい。ここからの展開がとにかく楽しみです。記号化された絵柄を選びながら、表情はとてもリアル。このバランスによって、エグみを飲み込ませてしまう薄場圭先生の手腕に震えます。

林士平プロフィール画像
マンガ編集者林士平

マンガ編集者。「少年ジャンプ+」連載中の担当作に『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『ダンダダン』『幼稚園WARS』『BEAT&MOTION』『ディアスポレイザー』。「『ダンダダン』アニメ化します!」

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