最後には普段のムードに近いリラクシングなルックを選んでもらった。身につけたのは八木さんがアンバサダーを務めているジュエリーブランド「アイリービーチ」だ。「シンプルなデザインなので、シーンを選ばずにつけられるのも魅力ですよね。ゴールドが上品な輝きを放つところも好き。男女問わず、自分のファッションに合わせられるのもストロングポイントだと思います」。
グループも個人も一段上に!すべての経験を糧にする
約1年半ぶりにSPURに再登場したFANTASTICSのボーカルの八木勇征さん。前回は俳優・萩原利久さんとのダブル主演のドラマ「美しい彼」で俳優としても一躍注目を集めた頃だった。その後は主演を務めるドラマに映画、グループ初となるアリーナツアーや舞台を精力的にこなすなど、環境は激変したのだそう。
「1日に26媒体ほどの取材を受けたこともありましたが、だんだんと慣れてきました。今日はこのあとメンバーと合流するので、うれしい」とほほえんだ。
今回の撮影のために与えられた時間は、早朝の数時間。歌手として、俳優として、さまざまな顔を持つ彼に多様な衣装を用意したが、時間内にすべてを撮りきるのは難しいかもしれないと説明すると「全部、着ましょう」と力強いひと言。状況を少しでも前向きに受け止めようとする姿勢は、多忙な日々から得たものだろう。
1カット目、サンローランのルックを着ると、瞬時に洋服のムードを的確に捉える。最上級のシルクブラウスをまとった彼を見て、カメラマンも「デヴィッド・ボウイのようだね」と評した。カメラの前での圧倒的な存在感や表情の豊かさはどこから発露したのだろう?
「昨年は、グループ全体として俳優の現場が増えました。お芝居を通じて、感性が磨かれたことにより、キャラクターの心情を深く読み取れるようになりました。その経験は舞台で歌うときにも作用していて、歌詞に対する理解度が深まったり、ステージでの表情の作り方を変えてみたり。自分の中で表現のバリエーションが増えてきた気がしますね。いろいろな経験によって充実した時間を過ごせています」
昨年2月からスタートしたグループ初のアリーナツアーは念願の舞台。千葉・幕張メッセでのファイナル公演は2日間で5万人を動員し、DVD・Blu-ray『FANTASTICS LIVE TOUR 2024 ”INTERSTELLATIC FANTASTIC” -THE FINAL-』がこの2月にリリースされる。
「2020年に新型コロナウイルスの影響でアリーナツアーがキャンセルになってしまったんです。ツアーのファイナルで幕張メッセのステージに立ったときは、やっと僕たちもこの舞台まで来たんだ、と喜びを感じました。公演が決まった頃、Hey! Say! JUMPの山田涼介くんと話す機会があったんです。山田くんから、幕張メッセは奥行きがあるにもかかわらず舞台と観客席に高低差がないので、見せ方が難しい、と聞いたんです。僕らもリハーサルをやりながら、どうしたらファンの人たちに少しでも寄り添えるんだろうと悩みました。そこで行なったのが、サブステージを作り、自転車で会場中を駆けめぐる〝ゼロ距離で会える〟演出です。僕らからみんなに近づこうって。全員に満足してもらえたかはわからないけど、一瞬たりともファンの皆さんのことを忘れていないし、やってみてよかったというステージになりました。これを映像に残せたのはうれしいです」
ツアー映像と同時に発売されるのはミニアルバム『Dimensional Bridge』。八木さんが単独初主演を務めた映画『矢野くんの普通の日々』(’24 )の主題歌「Yellow Yellow」や2月21日から公開される映画『僕らは人生で一回だけ魔法が使える』に関連する曲や新作アニメのテーマソングなど全6曲が収録されている。
「ミニアルバムを聴いて、爽やかな曲やダンサブルな曲など、我ながらバリエーションに富んだラインナップだなと思いました。デビュー当初はLDHのグループらしくないと言われたこともあったのですが、最近はただ爽快なだけ、ポップなだけじゃなくて、どの楽曲にも可愛くて、おしゃれなポイントが必ず入っている。音楽性に、僕たちだけの色が出てきたんじゃないかと思います」
ふたりの歌心を込めた、誰にも負けないバラード
ミニアルバムの中でも八木さんがぜひ聴いてほしいというのが、美しいピアノの調べから始まる楽曲だ。
「『僕らは人生で一回だけ魔法が使える』の主題歌『春舞う空に願うのは』とエンディングテーマ『魔法みたいな日々』はFANTASTICSとしては久々のバラード曲。先日、映画の最終版を見たのですが、この2曲が劇中でかかるタイミングがあまりにもぴったりで。映画を観てから聴くと、より好きになってもらえるんじゃないかな。バラードはじっくりと歌を聴いてもらえるし、心に染みわたる力を持っていると改めて実感しました。もうひとりのボーカル担当である中島颯太とともに、バラードを大切にしているのもそこなんです。これからライブで歌うのも楽しみです」
ネックレス¥13,800・ピアス(片耳)¥7,900・リング¥5,550・ブレスレット¥20,250/アイリービーチ シルクブラウス¥38,500/グラフペーパー 東京(グラフペーパー)
映画で思い切り泣いて人生の豊かさに触れて
映画『僕らは人生で一回だけ魔法が使える』は鈴木おさむ原作による同名の人気朗読劇を映画化した作品。〝18歳から20歳になるまでの2年間、一度だけ魔法を使うことができる〟という村の言い伝えを知らされた男子高校生たちの物語だ。八木さんは音大を目指すアキト役を演じる。ショートドラマアプリ「UniReel」で公開された「最期の授業」で演じた音楽教師に続き、ピアノを演奏する役柄だ。
「本格的なクラシック曲を弾いたことがなかったので、映画のなかでは姿勢や足の使い方、鍵盤を弾くタイミングなどすべてを覚えて挑みました。当て振りなんですが、結構難しいんです。ピアノは今も練習中。いつかステージで皆さんに見てもらうというのは絶対にやってみたいことのひとつなので、頑張ります」
昨年公開の映画『矢野くんの普通の日々』では不運体質の高校生が初めての恋を通して不器用ながら成長する姿を繊細な感情描写で魅せた。新作映画でも、観る者の感情に訴えかけてくる役柄に挑んでいる。役者としての八木さんは一筋縄ではいかない人物たちに寄り添い、丁寧に演じる。
「『僕らは人生で一回だけ魔法が使える』はタイトルから、ファンタジー要素が強い印象を持たれるかもしれません。もちろんそういった要素もあるけれど、登場人物の繊細な心理描写もしっかりなされたヒューマンドラマ。大切な人を失う経験により、4人の青年たちが命と向き合うことがテーマですが、役を通して命とは何か、どのように見送るのがいいかということを考えさせられました」
アキトを演じた際に、同じ年齢の頃の自分と心境を重ねたかと聞くと、こう答えた。
「僕は20歳で受けたオーディションを経てFANTASTICSに加入しました。受けたからこそ、今ここにいるので、まさに人生の分岐点です。オーディションが開催されることは友達から知らされたので、偶然にもたらされたもの。今の自分がうれしいと思ったり、幸せだと感じられているのは、もしかしたら、どこかで誰かが僕の幸運を願って、唱えてくれた魔法が導いてくれたことかもしれないですよね。この映画はそんな想像力を持てる作品なんです。映画を観終わったあとに、少しでも感じてもらえるところがあったらうれしいです。人生を豊かにする作品だと信じています」
何にでも挑戦してみる 食わず嫌いは卒業したい
深い共感力を武器にさまざまなキャラクターを演じ分ける八木さん。今号のテーマに沿って〝大人になること〟について聞いてみるとおちゃめなキャラクターをのぞかせる、意外なエピソードを教えてくれた。
「最近、白子が食べられるようになったんですよ。もうずっとあのビジュアルが受け入れられなくて、絶対に無理!と思っていたのですが、食べてみたらすごくおいしくて(笑)。食わず嫌いってもったいないなと。機会があったら、何でも挑戦したいと思えるようになったのは大人へのステップかもしれません」
27歳になった八木さんが思い描くカッコいい大人のロールモデルは特にいないとしながらも、周囲で見守ってくれている大人の存在には絶大な信頼を寄せている。
「人間としてこんなふうになりたい! と感じるのはLDHの先輩であるHIROさんやAKIRAさん。おふたりとも人格者で、HIROさんは僕だけではなくて、所属アーティストみんなに気を配っていて、家族のように接してくれる。言葉を交わすたびに、情の深さを感じます。AKIRAさんは、前から僕がアジア圏で活躍できるようにといろいろな準備をしてくれていると、周りのスタッフさんから聞いていたんです。昨年、ひとりでファンミーティングのために台北を訪れた際に、そのことを肌で感じることができて、すごくうれしかった。広い視野を持ち、誰かにそっと寄り添って、支えられるような大人に憧れています」