【パラアスリートが見つめる未来 vol.05】パラ陸上競技・やり投げ(F46)/山﨑晃裕さん

自らの挑戦を通じて、誰かに希望を与えるアスリートを目指す

SPUR8月号 山﨑晃裕

パラやり投げ選手として活躍する山﨑晃裕さんは、生まれつき右手関節部の欠損という障がいと向き合いながら、高校まで健常者の仲間とともに野球に打ち込んできた。

「家族でプロ野球の試合を見に行ったときに『楽しそう! 自分も野球選手のようにプレーしてみたい』と思い、小学校3年生で地元の少年野球チームに入りました。単純に野球が好きだということもありましたが、障がいを持っていることで周りと違うプレースタイルや魅せ方ができるのが楽しく、やりがいを感じていました。周りからの目が気になることはゼロではないのですが、スポーツをやる上で障がいがあることをプラスに捉え、ハンデがあるほうが面白いと思っていました」

そんな山﨑選手のアスリート人生の中で、大きな転機となったのは大学生のときだ。

「大学1年生で、身体障害者野球の世界大会に出場しました。そこで準優勝し、優秀選手にも選ばれましたが、メディアや世間の人たちに注目されず、すごく悔しかった。自分が挑戦する姿を見せることで、誰かに希望を与えられるアスリートになりたいと思っていました。それを糧にきつい練習にも打ち込めていましたが、見てもらえなければ意味がない。そこでこの先、本気で競技に取り組むのであれば、多くの方に見てもらえるパラリンピックの種目に挑戦して、東京大会を目指したいと思うように。やり投げなら野球で培った技術を生かせるのではと、転向を決めました」

SPUR8月号 山﨑晃裕
写真:小川和行

野球仕込みの地肩の強さとスローイングを存分に生かし、すぐに頭角を現した山﨑さん。どちらも遠投を求められる競技だが、野球とやり投げは似て非なるものだという。

「男子は約2.7m、女子は約2.3mある長いやりに、助走を使ってエネルギーをしっかりと伝えることが難しい。助走のリズムや流れ、投げるタイミングなど、パワーだけでなく細かい技術も意外と求められます。ただ、それがうまくいったときに、自分のような身体の小さい選手でも、体格のいい海外の選手に勝てる可能性を秘めた種目なのが大きな魅力です」

パラリンピックを目指す4年間の過程を大切にする彼は、技術やフィジカルの強化はもちろんのこと、メンタル面の向上も怠らない。

「もともと悪いイメージをするとそこに浸ってしまうタイプでした。脳で考えたことが、パフォーマンスにも影響することがわかり、目に見えない部分を探っていくことに興味が湧き、メンタルケアの独学を始めました。今の目標は、6月の日本選手権でパリ五輪への出場権を獲得し、パリの舞台で最高の結果を残すこと。また、自分の経験を生かして、誰かの心に寄り添い、サポートができるアスリートを目指しています」

山﨑晃裕プロフィール画像
山﨑晃裕

やまざき あきひろ●1995年12月23日、埼玉県生まれ。先天性疾患により右手関節部に欠損障がいを持つ。小学3年生から高校生までは野球部に所属。大学1年生のときに出場した身体障害者野球の世界大会で準優勝に輝き、勝利に大きく貢献。その後、2015年にパラ陸上のやり投げを始め、翌年には当時の日本記録を更新した。現在の自己ベストは61m24㎝。東京パラリンピックでは7位入賞を果たし、2023年の世界パラ陸上競技選手権大会では5位に入賞。2018年より順天堂大学職員に。

山﨑さんを読み解く3つのS

Society

記録だけを追い求めるのではなく、社会に還元できるアスリートを目指し、講演活動にも力を入れています。障がいの有無にかかわらず、人に勇気を与えて、自分も頑張ろうと思ってもらえたらすごくうれしいですね。こういう僕にしかできない活動にはやりがいを感じています。

Sleep

しっかり寝ないと回復しないので、よく寝るように心がけています。多いときは、10時間くらい寝ることも。寝る前には瞑想をしています。試合でうまくいったときやいい記録が出たときをイメージし、自分自身に意識を向けて、目標を実現に導くために取り入れています。

Smile

自然が豊かな場所や、遠征などで訪れた土地の神社に行くのが好きです。リラックスできるのはもちろん、自分と向き合える大切な時間ですね。長崎遠征に行った際、森の中にある岩戸神社に行ってきました。そこはジブリの世界に入ったような幻想的な場所でした。

 

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