『半分姉弟』 ミックスルーツのキャラに光を当てる話題作【マンガ編集者のおすすめ】

林士平の推しマンガ道

描かれてこなかったいくつもの感情と日常。ミックスルーツのキャラに光を当てる話題作

『半分姉弟』 藤見よいこ 著

『半分姉弟』 藤見よいこ 著

リイド社 トーチコミックス 既刊1巻・880円

「姉ちゃん、俺、改名したけん」という告白から始まる『半分姉弟』。日本人の母&フランス人の父を持つ主人公はWEBメディアを運営するライター。その弟、そしてアメリカ、中国、フィリピンと日本とのミックスルーツを持つ友人たち。友人の一人が働く美容室の常連客、友人たちの家族も登場する。“ハーフ”と呼ばれる人や日本で暮らす外国人がたびたびぶち当たる差別と、彼らの心の動きが鮮やかに描かれた、オムニバス形式の物語だ。

『半分姉弟』 藤見よいこ 著

Ⓒ藤見よいこ/トーチweb

美容室での世間話でつるりと飛び出した“悪意のない”差別の言葉が人を刺す。刺した相手が中国人の母を持つと知った発言者が取る行動は。

「マンガを読むときに、描き手はどこに視点を置いているか、キャラクターなら誰に近いんだろう、と考えるのがクセになっています。藤見よいこ先生は“ハーフ”と呼ばれる当事者だろうかと思いながら読んだのですが、主人公の友人のシバタかもしれない。そう思えるほど、差別を目にしたときの反応や感情の揺らぎまできっちり描き込まれていました。

美容室での会話で『中国人いっぱいいて』と口に出してしまう女性の話では、彼女の反省や後悔までを丹念に描写。差別される側の怒りや苦しみだけじゃなく、差別をしてしまったり、スルーしてしまった人たちの苦悩もすくい上げてみせるのが、この作品の素晴らしいところだと思います。このリアリティ、いったいどれだけ取材をされたんだろうかと驚きます」

『半分姉弟』 藤見よいこ 著

Ⓒ藤見よいこ/トーチweb

自分の苦しみを知らなかった友人シバタを、「わかるわけない‼」「どっか行けよ」と突き放した主人公への、友の返答がスパーク。

作品の冒頭には「この作品には、人種や民族に基づく偏見や差別の描写があります。」という一文が置かれている。ミックスルーツを表す“ハーフ”という呼称も、実態の反映と「半分」という言葉の意味合いを改めて問い直すために意図的に作中で使用する、と説明が続く。

「こういう気遣い、言葉の選び方にも誠実さが見て取れますよね。まだ1巻しか出ていないのですが、早く続きが読みたい! まずカバーがすごいんですよ。怒りと哀しみがない交ぜになった主人公の顔のアップ。髪型や肌の色も見せ、逆にタイトルの4文字は見切れて読みづらいほど。絵に力があるからこそ成立する勇気あるデザインです。

僕自身は両親とも台湾からの移民だからミックスではなくて、登場人物とは近いようでまた違う環境にあります。それでも、共感しすぎてしまうくらい共感しながら読みました」

『半分姉弟』 藤見よいこ 著

Ⓒ藤見よいこ/トーチweb

顔合わせの日に姿を現さなかった、かつての恋人の母。差別の記憶は消えない怒りとなって、人の100倍幸せになるという決意に火をつける。

外に出れば「見た目は違う」「日本語上手」と言われ、家に帰っても、「生まれ育った地で死ぬまで異物として扱われる」ミックスゆえの悩みを、親とそのまま共有することはできない。「相互理解ってある程度諦めてくしかない」「コミュニケーションにかける労力が多数派と少数派で明らかにつり合ってない」と愚痴をこぼし合う相手は、少なからず似た境遇にある〝ハーフ〟の友人たちだ。

「1巻に登場するキャラクターたちに共通するのは、日本で生まれ育った、文化においても言語においてもネイティブな日本人だということ。それなのに異物として捉えられる。見かけに差がなかったとしても、むしろそれゆえに、何げなく発せられた差別的な言葉をくらってしまうという経験は僕もたくさんありますよ」

子どもの苦悩の一方には親の苦悩も。

「どの言語で育てるのか、どこで生きていくのか。移民や2世、3世、ミックスルーツの人たちの人生は選択の連続です。親子の衝突という当たり前にある出来事にだって、背景となる文化や言語の違いが絡んでくる。人類史上最も人が移動している今の時代、マンガを読むことで、この社会に現実にある問題について知ることができたらいいですよね」

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マンガ編集者林士平

マンガ編集者。『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『ダンダダン』など「少年ジャンプ+」の人気作品を担当。「劇場版『チェンソーマン レゼ篇』で米津玄師さん×宇多田ヒカルさんがコラボします!」

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