台湾の過去、現在、未来と青春の日々。若手作家の2作に没入! 「『緑の歌 — 収集群風 —』上下巻と『隙間』全4巻。日本ではまだ6冊しか世に出していないとは思えない巧さでぐいぐい読ませる高妍(ガオ イェン)先生。最初に惹かれたのは、なんといっても絵の美しさでした!」 『隙間』 高妍(ガオ イェン) 著 KADOKAWA ビームコミックス 全4巻・880円〜 台湾と日本でイラストレーターとして活動し、2021年にマンガ家デビューした高妍が、次なる作品『隙間』の主題に選んだのは台湾の歴史と政治。台北で一緒に暮らした祖母との別れに始まり、主人公・の、沖縄県立芸術大学への留学を経て帰国するまでの約1年間。その中に過去の出来事や記憶が挟みこまれ、土地の歴史を学びながら物語が進んでいく。 Ⓒ高妍/KADOKAWA 「臺北二二八記念館」で楊洋は新しい視点を得る。(『隙間』1巻p.222〜223) 「“台湾問題”とも呼ばれる難しいテーマをマンガという形式で描ききった作家を称えたい! 大国間の綱引きに巻き込まれるように揺れ動いてきた土地で起きていること、過去に起きたことについては、台湾出身の両親を持つ僕自身、実感を持って理解できるところがあります。1996年生まれの高妍先生の世代でも、これほどの歴史観と現状への危機感を持っていることに驚きました。2024年にあった総統選挙を見ても、台湾における投票率って70%を超えているんです。ここに描かれたように政治に参加して自分たちの未来は自分たちで決める、という意志が台湾を強くしているんですね」 Ⓒ高妍/KADOKAWA 戒厳令下の台湾で、民主主義と言論の自由のために戦った鄭南榕が遺した言葉。(同2巻p.174〜175) 作中、「台湾人権議題」の授業をきっかけに近現代の歴史の一面に触れた楊洋は、デモに参加して青年Jと出会う。 「若者たちが恋をして、夢を語り、音楽を聴き、本を読んで、映画を観る。台湾も日本も同じですね。そんな日常の中に政治的なテーマが置かれているというのが、台湾の若者たちのリアリティなのだと思います。前作はまさに青春と音楽の物語でした」 Ⓒ高妍/KADOKAWA 台湾に帰国して、初めて投票に参加する楊洋。(同4巻p.252〜253) 『緑の歌 - 収集群風 -』 高妍(ガオ イェン) 著 KADOKAWA ビームコミックス 全2巻・946円〜 はっぴいえんどの楽曲「風をあつめて」を耳にした少女が、音楽を通して人に出会い、小説を読み、自分をみつめ、夢を見つける。『緑の歌』の舞台は台湾の海辺の町と台北、そして東京だ。 「この作品は、音楽で人生が変わったひとりの女の子から細野晴臣さんへのラブレターですね。2作それぞれに出てくる音楽は、古い曲や知らないアーティストの作品でも、指先を動かせばすぐに聴くことができる。主人公と同じ音を聴きながら読む、幸せな読書体験ができます」 Ⓒ高妍/KADOKAWA 「感情が乗った、生きている表情が素晴らしい!」。別れの悲しみを描く2コマ。(『緑の歌』下巻p.237) エドワード・ヤン、岩井俊二、村上春樹、YMOといった映画監督、小説家、ミュージシャンの名や作品名もたびたび顔をだす。 「細野晴臣さんのライブシーンがすごくいいんです。細野さんの顔が何コマにもわたって描かれないんですが、この演出もマンガだからこそスムースにいく。対象への憧れや、音に夢中であるがゆえにこれくらいの情報量で入ってくる、という表現なのかもしれません。高妍先生は、情報量のコントロールというか、緩急のつけ方が巧みで、それが読みやすさに直結しています。『隙間』でも、実在の人物や歴史上の人物の顔が描かれない場面がいくつもあります。この描く/描かないという判断は、作家自身の感覚に根ざしているんだろう。そう思わせられるのは、旅や留学などの出来事だけではなく、細かい描写にも実感がこもっているから。個人的体験を切り出すようにしてフィクションを構築する、私小説的なスタイルをとってきた高妍先生が次に何を描くのか、今から楽しみです!」 マンガ編集者林士平 マンガ編集者。『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『ダンダダン』などの人気作品、「少年ジャンプ+」の新連載や読切も担当。「劇場版『チェンソーマン レゼ篇』9月19日全国公開予定です!」 マンガに関する記事はこちら! 『隙間』『緑の歌 -収集群風-』 台湾の若手作家・高妍(ガオ イェン)の2作に没入!【マンガ編集者のおすすめ】 身も心も冷やす作戦! おすすめ【ホラー】小説&マンガで暑さを忘れる体験を #深夜のこっそり話 #2281 『りぼん』が創刊70周年! 『ときめきトゥナイト』、『ご近所物語』など、憧れの主人公に変身 『海獣の子供』 地球と宇宙とすべての生き物の誕生の物語【マンガ編集者のおすすめ】 脚色は一切なし! 清野とおる【壇蜜】は、極めて面白い、世にも奇妙なラブストーリー漫画だ 『不思議な少年』 時空を超えて、人間を見つめるオムニバス【マンガ編集者のおすすめ】