【林士平の推しマンガ道】本を作り、刷り、売る現場を描いた作品に密着!

物語が生まれてから読み手に届けられるまでの間に、どこで何が起きているのか。本を作る人と売る人の仕事から、知られざる世界に触れられる名作を紹介

林士平の推しマンガ道

物語がどのように生まれ、本になり、読者の手もとに届けられるのか。その流れを体感できる作品を紹介します。個人的に、読者としてだけでなく、編集者としても楽しみながら読みました。

『重版出来!』松田奈緒子著

『重版出来!』松田奈緒子著
小学館ビッグコミックス/全20巻・各715円

マンガ家と編集者。営業、宣伝、印刷、校閲、取次に書店員、そして読者。出版業界を舞台にマンガ作りの現場で繰り広げられる人間ドラマの数々が詰まった、胸打たれる感動作。

マンガ編集者を主人公にした『重版出来!』は、2016年にドラマ化もされた、松田奈緒子先生の代表作のひとつ。まさしく同じ業界に身を置いているので、わかるわかる、と頷きながら堪能しました。マンガ家さんたちの描き方が好きなんです。成功だけじゃなく、追い詰められたりメンタルにダメージを受けてしまった作家さんも丁寧に描かれている。出版社のいち編集部を舞台に、マンガ家やアシスタントや書店との関係だけでなく、販売部、宣伝部、校閲部の仕事にもスポットを当てています。WEBマンガへの言及、ディスレクシアの描写などもあり、業界が抱える課題を広く扱っているのがすごい。全20巻にさまざまなエピソードが詰まっていますが、個人的に好きなのが5巻の「美の巨人たち!」。マンガ家さんの美と装丁へのこだわりや、思い出の青空がいい。そうそう、このマンガ家さんがカール・ラガーフェルドにそっくりなんです。

『刷ったもんだ!』染谷みのる著

『刷ったもんだ!』染谷みのる著
講談社モーニングKC/既刊11巻・704円〜

地元でヤンキーとして名を馳せていた主人公が一念発起、東京の印刷会社に入社する。ニッチな知識と専門用語が飛び交う現場で、同僚や取引先と言葉を交わし心を通わせていく。

マンガが描かれ、編集されたら次は印刷。染谷みのる先生の『刷ったもんだ!』は、取材しただけでここまで描けるの⁉と驚くレベルの密度です。実際に働かれていたのかな。舞台は、同人誌や卒業アルバムなどを多く手がける印刷所。企画デザイン課の面々をメインに据えつつ、印刷や生産管理の現場にもみっちり迫る。日頃当たり前のように見ている印刷物を生み出す、知られざる職人仕事に魅せられます。特色インクを練ったり、印刷機のローラーを調整したり、多種多様の紙を使い分けたり。デジタルが主流になったといっても、人が動かなければどうにもならないこの世界。印刷も、マンガ作りも、きっとどの仕事も一緒だよなと改めて思います。

『書店員 波山個間子』黒谷知也著

『書店員 波山個間子』黒谷知也著
KADOKAWA it COMICS/全2巻・各715円

自宅は本棚だらけ本だらけ。通勤、休憩、書店仕事の後にも本を開き、図書館にも通う。書店のブックアドバイザーである波山さんの、本をおすすめする熱さが心地よい一作。

そして刷り上がった本を、読者に手渡してくれるのが書店員さんです。書店マンガのイチ押しは『書店員 波山個間子』。ブックアドバイザーとして本の面白さを伝え、物語を広めてくれる主人公を通して、向田邦子、ヘルマン・ヘッセ、梨木香歩などの実在の作品も紹介。黒谷知也先生、心底本を愛しているんだろうなという思いは、この作品と番外編を読んでますます強くなりました。

林士平プロフィール画像
マンガ編集者林士平

マンガ編集者。「少年ジャンプ+」連載中の担当作に『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『ダンダダン』『幼稚園WARS』『BEAT&MOTION』『ディアスポレイザー』。『幼稚園WARS』がフランスに上陸!

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