そのアクションが未来を変える「投票する」ということは PART 2

今秋に実施される第49回衆議院議員総選挙に向けて、大事な"一票"を投じるために。基本的な選挙の仕組みや制度を改めて学びたい。世代を超えてのクロストークや政治をより身近に感じる新たな視点を通していま一度その意義を考える。望む未来のために、私たちの声を届けよう

世代を超えて話す、政治のこと

世代が違えば政治に対する見方や思いは変わる?異なる立場の3人がいまの政治や選挙について、思うことを語り合った

(左から)

長野智子さん

ながの ともこ●1962年生まれ。フジテレビジョンに入社し、アナウンサーとして数々の人気番組を担当。退社後、渡米し、ニューヨーク大学大学院でメディア環境学を専攻。帰国後は報道番組を中心に活躍している。

清田隆之さん

きよた たかゆき●1980年生まれ。文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。恋愛とジェンダーをテーマにコラムなどで発信。著書に『よかれと思ってやったのに』(晶文社)や『さよなら、俺たち』(スタンド・ブックス)など。

能條桃子さん

のうじょう ももこ●1998年生まれ。一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN代表理事。『YOUTHQUAKE U30世代がつくる政治と社会の教科書』(よはく舎)を出版するなど若者の政治参加を促進する活動を展開している。

これって実は政治の問題? 私が関心を持つきっかけ

長野さん(以下、長野) 私は1985年、男女雇用機会均等法成立年に就職したんです。そのとき初めて女性アナウンサーが男性と同じ正社員になりました。この経験が自分の中でとても大きく、“女性の先輩たちが頑張ってくれたから、いま私はここにいる”と強く感じて、下の世代につなげなければと思うように。それが政治やジェンダーの意識が芽生えたきっかけです。2人は政治の関心はどこから?

能條さん(以下、能條) 私も政治には早くから興味があって、大学時代は市民の政治参加が盛んなデンマークに留学しました。最近は日本の同世代を見ても、社会に疑問を抱いている人は結構いると思います。たとえば、なぜ日本では選択的夫婦別姓や同性婚について認められないのか。これから結婚する人って20〜40代の人が多いはずなのに、70、80代の人の意見が優先されて、実現しない。制度を使いたい人が求めていることを実現するのが政治の基本だけど、日本では暴動も起きなければ、みんな粛々と生きている感じがします。

清田さん(以下、清田) 僕は恥ずかしい話、30歳を過ぎるくらいまで政治をよく知らなかったんです。ただ、学生の頃から女性の話を聞くことが多く、女性が抱える悩み、セクハラや性暴力、結婚や子育てなどの諸問題は社会制度につながっていると気づき始めて。僕は就職氷河期にあたり、いわゆる“草食男子”と呼ばれた世代で、“少子高齢化は男性が積極的にならないことが原因だ”ともいわれました。当時はそうなのかと真に受けていたんですが、経済、福祉や教育など、制度が整っていないから結婚を選べなかったり、子どもを持てない人も多いんじゃないかと。就職できない、結婚できない、子どもを持てないのも自己責任論で片づけられていたけど、違うんじゃないかって。

長野 本当にそうですよね。私は最近、超党派の女性国会議員でクオータ制を実現するための勉強会を立ち上げました。少子高齢化や労働人口の減少、福祉や年金など日本の問題はすべて政治のジェンダーギャップに通底している。女性の活躍は、男性のライフワークバランスの改善にもつながるはず。そのためには女性の政治家を増やして私たちの声を国政に届けないといけない。政治の話をするとき、若年層の投票率の低さも指摘されるけれど、これについてはどう思います?

能條 同世代の知人と選挙の話をすると「政治に詳しくない人が投票するより、ちゃんと考えてる人が行ったほうがいい」とよく聞きます。私たちの世代は18歳のときに18歳選挙権が導入されて、高校生で主権者教育を学びました。責任を持って選挙に行かなくてはならないことは知っていて、行くなら調べなきゃいけないと思っている。でも、忙しいし面倒くさいから行かない、という人が多いんじゃないかと。だから、私はU-30世代がとりあえず、自分の投票先をどこかに決められる状況をつくろうと思って、Instagramを中心に政治・社会の教科書メディアを立ち上げて運営しています。

清田 10年前の東日本大震災も政治に関心を持つきっかけになりました。当時の国の対応に対して、Twitterでいろんな意見を目にしたり、自分でも発信したり、自分主体で政治を考えるようになって。最近は同世代の男性に話を聞く機会も増えたんですけど、「男は仕事」というジェンダー規範はまだまだ根強く、目先のことで精いっぱいで「政治は偉い人がうまくやったらいいんじゃない?」と思っている印象を受けます。日々仕事で忙しく、家事は妻に任せっぱなしで、問題を問題と認識すらしていない。政治がどこか他人事というか。

長野 リスクに直面したとき、初めて自分に政治を引き寄せて考えられますよね。たとえばコロナ禍の大学生だったら、どうして大学に行けないんだろうって思うはず。理由の1つとしてワクチン接種が思い当たり、じゃあなんで若い人はワクチンがまだ打てないのか、と考える。

能條 私が留学していたデンマークでは若い人の投票率が80%を超えていたんです。そもそも選挙に行くのが当たり前という認識で社会が動いている。選挙はお祭りみたいに楽しむもので、私も友人とポップコーンを食べながら党首討論を見ていました。デンマークは比例代表制なので死票が少ないんですが、「前回、◯◯党に入れたんだけどあれはマジでなかったわ」というような会話をよくしましたね。面白おかしく自分の投票経験を話し、自身の政治観を語る言葉を持っている。

長野 素晴らしい。日本でも自分たちの投票によって政治を変えたという経験をしたいですよね。かつて2009年には政権交代を経験したけれども、結果的にはうまくいかなかった。だからといって、ここで政治を諦めてしまってはダメで、若い世代が住みやすい社会をつくるために、自分たちで政治を変えたという経験ができたらと心から思う。だから、どうしたら下の世代が政治に興味を持ってくれるのかな、といつも考えます。

自分の手で政治は変えられる。よりよい未来に向けて

清田 僕たちの世代が学校教育できちんと政治を学んでいたら、もう少し変わっていたのかなとも思うんですよね。

長野 清田さんが30代になって初めて政治に興味を持ったと言っていましたが、多くの人がそうなのかも。年を重ねるにつれ、社会との接点が増えるから、政治がおのずと身近に感じられる。

能條 確かに私たちの世代は未婚の人も多く、社会とのつながりが薄いので政治を身近に感じにくいというのはあると思います。ただ、若い世代の投票率が上がれば、政治家が若い世代のほうを向いてくれるかというと、それは緩やかな相関関係でしかないと思っていて。たとえばいまの20代の投票率が100%になっても60代には勝てない。若い世代の投票率が上がっていく過程の中で、ほかの世代の問題意識も変わっていくことが同時に成立しないと難しいんじゃないかと。

長野 確かに。でも、選挙に行かない人たちが政治に関心を持ってくれたら、政治家も変わるのではと期待もあります。

清田 それで言うと、僕よりちょっと上の世代、団塊ジュニア世代って人口が多いですよね。彼らは不況のどん底で社会に出た不遇の世代で、非正規雇用も多く、経済力も自信も主体性も持ちにくい。だから政治に対しても諦めムードといわれることも多いですが、この世代が動けば相当変わるかもしれないなって。

長野 なるほど。デンマークでは30、40代の人も政治に関心はあるんですか?

能條 労働時間が短いのでみんな時間に余裕があるんですよね。だから、世代の違いにかかわらず、政治について考える。日本はどうしても考える余裕がない。

長野 ワークライフバランスが改善されることで、政治に関心を向ける余裕もできるのは日本も学びたいですね。

能條 同世代の中には、“政治に期待できないから、自分でどうにかしなきゃ”と思う人も増えてきました。社会の中で生きるというよりも、自分と周りの人が幸せならいいよねっていう。でも、私は政治を完全に諦めると自分たちが損することになるから、やっぱり選挙は行ったほうがいいと思っています。そして、選挙に行くことはダサいことではなく、かっこいいことなんだと伝えていきたい。

清田 政治の話をするのはなんとなくタブーという風潮も変えたいですよね。

能條 そうですよね。同世代の友達と、なぜ自分たちは投票に行くようになったのかと話をすると、親や学校の先生が“選挙は大事”と話していたからかなと。選挙に行くこと、政治について語り合うことは当たり前という雰囲気づくりができたらもっと変わると思う。あと、“選挙には正解がある”と思い込みを持つ人もいるけど、投票先に正解はなく自分の価値観で決めていいということも伝えたい。

長野 それは教育の問題でもある。異なる意見もまずは認めて、その上で自分の意見を言う。そういう議論を繰り返して、よりよい答えにたどり着く。正解か不正解かの二択でつまずいている人には「いやいや、あなたの言ってることも合ってるんだよ」って言いたくなってしまいます。私はいま、日本の政治は世代交代の大事な時期に来ていると思っていて。でも、このままでは日本の未来に希望が持てない。これは政治だけの話ではなく、民間企業もメディアも含めて、過去の成功体験だけを信じて、それがいまでも通用すると思っている人がトップにい続ければ、成長が止まってしまう。だったら下の世代が舵取りをしたほうがいい。そのほうがワクワクするし、明るい社会が見えそうじゃないですか。私たちは下の世代をお手伝いする世代として、みんなで楽しい未来をつくりたいんです。

能條 そうですね。私たちの世代からも政治家が出てほしいなと思います。そういえば、私が通っていたデンマークの学校では選挙のときBBQをする習慣があるんですよ。すごく楽しくて毎日選挙がいいって思ってました。

清田 それ、最高ですね!

COLUMN

プチ鹿島さんに聞く
「野次馬精神も大切だ!」

“硬い”“社会派”と思われがちな政治問題に軽やかにツッコみ、笑いに変える芸人のプチ鹿島さん。政治を楽しむために必要なのは“野次馬精神”だという。

「みなさんの周りにはいろんな噂話が飛び交いますよね。誰と誰がつき合ってる? 誰が昇進しそう? 僕はその野次馬精神を政治に応用しているだけなんです。政治は政策も大事ですが、政治家だって人間。政界ではいろんなドラマが繰り広げられている。韓国ドラマよりも面白い話がたくさんあるんですよ」

鹿島さんが政治を面白がるために欠かせないというのが新聞。14紙を購読し、読み比べをしている。

「なぜならいろんな角度の情報が知りたいから。僕の主観ですが、ホーム側=政権側に近いのは読売、産経。アウェー側は朝日、毎日、東京。日経新聞は基本的に中立で、政界の動向とリンクしている。1つの出来事に対しても新聞各社扱いが全然違うことがあり、面白いですね。あと、スポーツ新聞の社会面は要領よくまとまっていてとても読みやすい。ネットでも気軽に読めるのでオススメです。ちなみに日刊スポーツには『政界地獄耳』という下世話丸出しの匿名コラムがあるんですが、実際に永田町で取材して書かれている記事なので、確証の高いゴシップとして楽しめます。ウェブの記事も面白いけれど、どういう立場の人が書いてるのか? 情報ソースはどこにあるのか? と不安になることがある。その点、新聞は論調の違いはあれど、プロの記者が5W1Hの裏づけを取ってくる。事実確認として利用すればいいんです」

そして、政治のハイライトは選挙特番にアリ! とも。

「政(まつりごと)はお祭りとして楽しむのがいい。選挙特番なんて生放送の面白さが詰まっている。候補者の人生をかけた大勝負、その結果が出る瞬間に立ち会えるわけですから。自分の選挙区はもちろん、激戦区や有名人が出る区を事前に調べておくと俄然盛り上がります。しかも、僕たちはこのショーを観客として傍観するのではなく、一票を投じられるプラチナチケットを持っている。これは参加したほうが絶対に楽しいです」

プチ鹿島

ぷち かしま●お笑い芸人。1970年長野県生まれ。時事ネタと新聞読み比べを得意とする芸風で、ラジオ、テレビ多数レギュラー出演中。著書『芸人式新聞の読み方』(幻冬舎)。

SOURCE:SPUR 2021年11月号「『投票する』ということは」
photography: Masanori Kaneshita  illustration: Emi Ozaki edit: Mariko Uramoto