フェルメールの絵、いくつ見たことがありますか? #01


ヨハネス・フェルメール《水差しを持つ女》メトロポリタン美術館
The Metropolitan Museum of Art, New York
Marquand Collection, Gift of Henry G. Marquand,1889 (89.15.21)
Photo Credit: Image copyright©The Metropolitan Museum of Art. Image source: Art Resource, NY

17世紀のオランダで活躍したヨハネス・フェルメール。43年の人生を送り、現存する彼の作品は30数点である。美術ファンの中には一生のうちにフェルメールの作品すべてを見ようと計画している人も少なくないだろう。

そんなフェルメール巡礼者たちはオランダはじめヨーロッパ各地、アメリカ何か所へ向かう。アートと旅の切っても切れない関係。美術作品は人の心と体を動かすのだ。一方、絵画作品自体も旅をする。たとえば、2000年以降だけでも日本にはのべ20数点(くり返し来た作品もある)のフェルメール作品がやってきている。日本で待ち構え、見逃さないよう心がければこの寡作画家が遺した作品の過半数が見られたことになる。

旅をして会いに行く楽しみ、あるいは逆に相手が旅をして会いに来てくれる喜び。そのときの状況はどうか、自分は成長しているだろうか。人と会うことと美術作品とそ対面すること。出会いや再会ということではまるで同じである。

今もニューヨークのメトロポリタン美術館所蔵のフェルメール作品《水差しを持つ女》が日本にやってきている(森アーツセンターギャラリーで3月31日まで。そのあと4月6日から5月8日まで福島県立美術館)。

シンプルな室内。やわらかい朝の光が差し込む。身繕いの準備をする清楚な女性は水差しを掴んでいる。素朴な日常風景をとらえ、こういう平凡な毎日こそが幸福なのだと教えてくれているのかもしれない。

さらに絵画的な解釈をすれば、水差しと洗面器は純潔を示す伝統的な象徴であり、宝石箱は虚栄の記号、それらの対比。テーブルを覆う敷物は中近東かアジアからのものだ。質素ではあるが豊かな暮らしがここにある。壁にかかっている地図は彼女が恋人と離ればなれに暮らしていることを暗示している。メールも電話もない時代、地図を眺め、離れたところにいる人を思っていたのであろう。

展覧会には同時代、ひとつの国で活躍した対照的な2人の画家、フェルメールとレンブラントを中心に17世紀のオランダの画家たちの作品が並ぶ。スペイン支配からの独立戦争に伴い経済が急成長し、またアジアへの貿易で世界に名だたる強国、富裕国となって発展したオランダ。一般家庭でも絵を飾るのが一般的になり、多くの画家を輩出した。

 


レンブラント・ファン・レイン《ベローナ》メトロポリタン美術館
The Metropolitan Museum of Art, New York
The Friedsam Collection, Bequest of Michael Friedsam, 1931 (32.100.23)
Photo Credit: Image copyright©The Metropolitan Museum of Art.
Image source: Art Resource, NY

神話や聖書の物語を説く絵ばかりでなく、人々の生活や文化を写した様子をよりすぐった名作絵画で見られる貴重な展覧会である。


アールベルト・カイプ《牛と羊飼いの少年のいる風景》アムステルダム国立美術館
Rijksmuseum, Amsterdam
Purchased with the support of the Stichting tot Bevordering van de Belangen van het Rijksmuseum

「フェルメールとレンブラント 17世紀オランダ黄金時代の巨匠たち」展

会期 2016年1月14日(木)〜3月31日(木)
場所 森アーツセンターギャラリー
(東京・六本木ヒルズ森タワー52階)
〒106-6150東京都港区六本木6-10-1
時間 10:00〜20:00
※1月26日(火)、2月2日(火)・9日(火)・16日(火)・23日(火) は17:00までの開館
※入館は閉館の30分前まで
問い合わせ 03-5777-8600(ハローダイヤル)
http://www.tbs.co.jp/vermeer2016/tokyo/

鈴木芳雄プロフィール画像
鈴木芳雄

美術ジャーナリスト/編集者。ライフスタイル誌編集者時代から国内外各地の美術館・美術展、有名アーティストを取材する。共編著に『光琳ART 光琳と現代美術』『チームラボって、何者?』など。愛知県立芸術大学客員教授。