レオナルドの描いた聖母子像、いくつ知ってますか?#04

科学、工学、解剖学、建築、軍事などなど多様なジャンルで足跡を遺した万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチ。彼にとって絵画は才能を発揮する一部であったのかもしれないけれども500年の時間を超えて今なお私たちの興味をかきたてる。

手稿やデッサン、設計図のようなものも含めると彼の描いたもの、書いたものはいろいろ残っているが、絵画は15点ほどと言われ、モナリザなど女性の肖像とあとは聖母子を描いたものがほとんどである。

今、東京に彼の《糸巻きの聖母》が来て公開されている。英国の貴族の所蔵で美術館に寄託されている作品だが、18世紀にフランスからイギリスに来て、2009年に美術館に寄託されるまでほとんど公開されなかった。英国とイタリア以外に出るのも今回が初めてだという。

レオナルド・ダ・ヴィンチ《糸巻きの聖母》1501年頃
バクルー・リビング・ヘリテージ・トラスト
(エディンバラ、スコットランド・ナショナル・ギャラリー寄託)
ⓒThe Buccleuch Living Heritage Trust

イエス・キリストが手に持つ糸巻き棒(桛木[かせぎ])を十字架に見立て、やがて訪れる受難を予感させているというのがわかりやすい解釈だが、あるいは人生を織りなす布に例え、その糸を巻く糸車を見ながら自分の身にこれからやってくる人生を、さらに人々の人生を思っているのだという読み方もある。

聖母マリアとイエス・キリストを描いた「聖母子像」。2人に加え、洗礼者ヨハネが同じ画面に描かれることもある。さまざまな画家により描き継がれてきた「聖母子像」だが実はこの3人が集う場面は聖書にはない。

そもそも聖母マリアの聖書での登場シーンは意外に少なくて、受胎告知、イエスの降誕、十字架のシーンなど数か所だけで、一家だんらんや親子の情愛を具体的に描写したりはしていない。しかし、母と子の愛情を表現した絵は永遠のテーマとして描かれるのだ。キリストの場合、たいへんな受難が待っているわけだが、その部分は差し引いて。

レオナルドが描く聖母子像には《糸巻きの聖母》のほかに以下がある。
(《糸巻きの聖母(糸車の聖母)》ももうひとつ個人蔵のものがあり、2種類存在すると言われる)。

母と子だけが描かれているのは

《カーネーションを持つ聖母》1478〜1480年頃、アルテ・ピナコテーク、ミュンヘン
これはカーネーションの赤い花がキリストの血を予感させるとよく言われる。
(母の日にカーネーションを贈るというのはずっと後の時代のことで、当然ここにはその意味はない)。
背景のアーチ型の窓の向うに見える風景もいかにもレオナルドらしい描写だ。
《花を持つ聖母(ブノワの聖母)》1478年頃、エルミタージュ美術館、サンクトペテルブルク
聖母マリアが持つ小さな花をつかもうとする子イエス。
マリアの顔はやや幼さが残るように見えるのに対して、イエスは子どもなのに威厳に満ちている。
《リッタの聖母》1489〜91年、エルミタージュ美術館、サンクトペテルブルク
19世紀にミラノ貴族のリッタ家が所有していたことからこう呼ばれる。
別名《授乳の聖母》。子イエスが左手で握っている小鳥は受難を示している。

登場人物が2人よりも多いのは以下で洗礼者ヨハネと大天使ガブリエルがいる。

《岩窟の聖母》1483年頃、ルーヴル美術館、パリ
ルーヴルの方がロンドンのものよりも先に描かれたといわれている。
《岩窟の聖母》1495〜99年頃、ナショナル・ギャラリー、ロンドン

さらに聖アンナ(聖母マリアの母親)も一緒に描かれているのが
《聖アンナと聖母子》1510年頃、ルーヴル美術館、パリ

このほか、下絵や素描に聖母や子どもが描かれているものが存在する。


レオナルド・ダ・ヴィンチ《子どもの研究》アカデミア美術館素描版画室
Su concessione del Ministero per i Beni e le Attività Culturali-Venezia Gallerie dell’Accademia
(「レオナルド・ダ・ヴィンチ 天才の挑戦」展で公開中)

レオナルドの聖母子像鑑賞をこれからの旅のテーマにすることを提案しておこう。
現在、東京で公開中の《糸巻きの聖母》を見ておけばあとの目的地はパリ、ロンドン、ミュンヘン、サンクトペテルブルクだ。1度の旅で回ることも無理ではないかもしれない。

日伊国交樹立150周年記念 特別展「レオナルド・ダ・ヴィンチ 天才の挑戦」

会期:2016年4月10日(日)まで
会場:江戸東京博物館 1階特別展示室
    東京都墨田区横網1-4-1
電話:03-3626-9974(代表)
http://www.davinci2016.jp/

時間:午前9時30分~午後5時30分(土曜日は午後7時30分まで)
※入館は閉館の30分前まで
休館日:毎週月曜日(ただし、3月21日・28日は開館、3月22日(火)は休館)

鈴木芳雄プロフィール画像
鈴木芳雄

美術ジャーナリスト/編集者。ライフスタイル誌編集者時代から国内外各地の美術館・美術展、有名アーティストを取材する。共編著に『光琳ART 光琳と現代美術』『チームラボって、何者?』など。愛知県立芸術大学客員教授。