アンドリュー・ガーフィールド #12

『ハクソー・リッジ(原題)』(2017年夏日本公開) ©Allstar/amanaimages

太平洋戦争末期の沖縄戦線における日米の死闘を描いたメル・ギブソン監督『ハクソー・リッジ(原題)』。これに参戦したドスは、幼い頃のある二つの出来事がきっかけで絶対に銃を持たない主義を貫き通した実在の人物だ。でも誰よりも勇敢に前線に飛び出していったのはなぜ?というストーリーもアンドリュー・ガーフィールドが演じると説得力を持つ。戦争に行く前の初恋の女の子との初々しいやりとりも、ちゃんとあの時代の若者らしくて、監督たちからの人気が高いのも当然だろう。異様とも言えるくらいに長い首が泥まみれになると、まるで戦時中の白黒写真にある名もない兵士のようで、スーパーヒーロー物よりやっぱりこっちだな。

アンドリューの長い首と言えば、スコセッシ監督の『沈黙』でも主人公の苦難を象徴していた。17世紀、キリスト教が禁じられた日米に密かに渡って来たポルトガル人宣教師ロドリゴ。当初ベルシオ・デル・トロが演じるはずだった役だが、アンドリューに代わったことでいい意味での若さ、未熟さが感じられるように。

「僕は、ハリウッド映画はあまり見ないんだけど、アンドリューはいつも物静かで集中力があって、素晴らしかったよ」とは82歳の共演者、笈田ヨシの発言。俳優として出演した塚本晋也監督も褒めていたし、俳優なら誰もが仕事をしたがるスコセッシ監督の期待に、見事に応えたと言えるだろう。

「ジョンは日本でも舞台の演出をしているんだよね。日本人の俳優を使って。僕もなるべく早く舞台をやりたいんだ」

BOY A('07)で強烈な印象を残したアンドリュー。同作の監督ジョン・クローリーは、サム・メンデスやスティーブン・ダルドリー等と同じ英国の舞台演出家でシアーシャ・ローナンの『ブルックリン』でも絶賛された。

「人間の洞察力が秀れているから、ジョンの演出は物凄く細やかな部分も納得して演ることが出来る。今度は舞台でも組んでみたいよ」

こうアンドリューも惚れ込んでいた、クローリーの才能は『BOY A』でぜひ確認して!

『ソーシャル・ネットワーク』('10)ではジェシー・アイゼンバーグと共に、いかにも今(ちょっと前?)風の若者を演じていたアンドリュー。でも念願のブロードウェイの舞台『セールスマンの死』では、アーサー・ミラーが描いた古きよき時代のアメリカ青年を好演していた。

「アーサー・ミラーはテネシー・ウィリアムズやユージン・オニールなどと共にアメリカ演劇史の巨人。それをマイク・ニコルズの演出でフィリップ・シーモア・ホフマンと父子の役がやれるなんて!」とアメリカのメディアに喜びを語っていた彼。ニコルズもホフマンも、これが遺作となってしまったから、感慨もひとしおだろう。

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ジャーナリスト佐藤友紀

映画や舞台、ダンスに造詣が深く、独自の視点で鋭く切り込むインタビューに定評が。ジョニー・デップから指名されることも多々。