2016.04.01

メゾン マルタン マルジェラと遠くにある店

 当コラムの更新を放置していたら春になっていた。3月上旬にコレクション出張でパリから戻って以来、時差ボケのせいか眠くて原稿が書けない。ようやく時差ボケが治癒してきた最近も、コラム更新から逃避しつつ酔って帰宅し「パトラッシュ、もう疲れたよ。なんだかとっても眠いんだ……」とボヤきながら、非実在の大型犬を抱いたつもりで、気持よく寝てしまっていた。

 『フランダースの犬』と言えば、アントワープ大聖堂にあるルーベンスの絵。2000年頃、アントワープを訪れたついでに幼少期のアニメの思い出を掘り起こし、あの絵を見に行きました。とはいえ、実際のルーベンスの諸作品がどうだったかは完全に忘れてしまっています。アントワープ滞在で覚えているのは、ホテルが教会に近くて鐘の音で眠れなかったこと、食べ過ぎたムール貝、そしてフラっと立ち寄ったブティックで買ったマルジェラのニット。

 メゾン マルタン マルジェラは普段いちばんよく着ているブランドですが、自分にとってのファースト・マルジェラは、このアントワープのブティックで買ったニットベストです。自宅には、ずっと着続けているものからクロゼットに押し込んでいるものまで、マルジェラの服が相当数ありますが、なかでも特にヘビーユースしてるのはネイビーのコットン製ステンカラーコート。冬以外のスリー・シーズン着られるし、袖も適当に折り返したり、脱いだらぐるぐる丸めてバッグに入れたりしていて、愛用しているわりに気の毒なほど厳しい扱いをしています。で、そのコートをあらためて仔細に眺めると、かなりボロボロ。どうにかしてリフレッシュさせねばなりません。

 そんなことを考えていた折、ちょうど馴染みのヴィンテージショップで古着を物色している最中に、ふと気付きました。ここの古着ってありがちなホコリっぽさや、変な匂いがまったくないな、と。そこでスタッフに「商品はどこのクリーニング屋に出してるんですか?」と質問したところ、教えてもらったのが、高い技術と仕上げのセンスに定評があるという中央線沿線の某店。これまでも麻布の超有名高級クリーニング店やスタイリスト愛用の店等、洗濯に関してはいろいろ試しましたが、やはり人が勧める店は、値段は高くともそれなりの効果があるもの。早速、その中央線のクリーニング店にコートを預けに行くことに。

 自宅からかなり離れているため、休日にクルマを飛ばして近くまで赴き、おしゃれクリーニング店にたどり着くまでグーグルマップとにらめっこして歩いていたら……

 本当にここなのか? 看板の「ファッションクリーニング」の書体は、まるっきり『ハクション大魔王』タイトルのそれ。わざわざ遠くから来た自分は、看板のユルユル具合に心が折れそうになる。いや、でも逆にこれがいい。むしろ瑞兆である。そうポジティブに信じて入店しました。

 第一印象こそ不安でしたが、クリーニング店のスタッフは大変感じがよく、持って行ったコートについても素材を確認しながら的確なアドバイスと対応策を教えてくれました。この店は乾燥機を使わないことがモットー。自然乾燥後、アイロン技術を駆使して服のシルエットを美しく整えることにこだわりを持っているとのこと。諸事情により店名を公表できないのが残念ですが。

 一週間後に引き取ったコートは、使い込んだ風合いは残るものの、10年程度は若返った印象。頼るべきはプロのインサイダー情報と、技術のある店だとあらためて実感しました。

 ちなみにこのコットンのステンカラーコートは、SPURに異動して初めてパリコレを取材した2003年の春、リシュリュー通りにあるマルジェラのメンズブティックで買ったものです。毎年分厚いコートをしまい、この軽いコートに袖を通すたび、やっと冬が終わったんだなと感じます。「Herald of Spring」(春を告げるもの)という言葉がありますが、自分にとってはこのマルジェラのコートこそが春の訪れの象徴。発売中のSPUR最新号では、「明日から着るコート Best30」という特集を組んでいますので、そちらもぜひ御覧ください。読者の皆様にも、ファッションが楽しい素敵な春が訪れますように。

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takayuki yamasaki

服は迷ったら買う派。そして色違いで揃える派。車はFR派。ジョジョは四部派。夜は糖質オフでハイボール派。圧倒的イヌ派。

 

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