バレンシアガと「STOP MAKING SENSE」

 前に向けてイカった肩と、砂時計のようなウエスト。SPUR10月号表紙で、見る人にモードの意味を問いかけるエクストリームなジャケットは、バレンシアガ秋冬コレクションのファーストルックです。デムナ・ヴァザリア手掛ける新生バレンシアガのショーは、今年3月6日にパリで行われましたが、発表された服の数々を見て会場を出るときには、このコレクションで秋の最初の号の表紙を撮りたいと考えていました。


 「Cカーブ」を描くジャケットのパッドはどういう作りなのか。衣紋を抜いて着るダウンジャケットやライダースは、なぜあの形をキープできるのか。頭に浮かぶ「なぜ?」という疑問を、実際に袖を通して確かめてみたくなる。そして得心してなるほどと膝を打つ。服に対して疑問を持たせ、その答えを知りたいと思わせる力があるのが、新しいバレンシアガの強みです。

 いっぽうバレンシアガのメンズも7月にコレクションを発表。こちらはネットで見ましたが、ウィメンズ同様、ファーストルックからして物議を醸す攻めっぷり。

PHOTO by:iMAXTREE/Zeta image

 アホほど広い肩幅。自分はピンときました。「これ、『ストップ・メイキング・センス』やないか…」。1984年の映画『ストップ・メイキング・センス』は、パンク&ファンクバンド、トーキング・ヘッズのコンサートツアーを撮影したドキュメンタリーフィルム。監督は『羊たちの沈黙』でおなじみのジョナサン・デミ。巨大な肩幅のスーツを着て歌い踊るボーカル、デビッド・バーンの異形のビジュアルで有名です。

 デヴィッド・バーンは自分と誕生日が同じだってことだけで勝手に親近感を覚えており、代表的な何曲かは聴いていたものの、この映画は未見。このたびDVDを買ってちゃんと見たらば、笑えるし、すごくかっこいい。そして当然、曲も奇妙な踊りのパフォーマンスも素晴らしい。同じく80年代に一世を風靡した「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」で高田純次がたびたび見せていた痙攣的ダンスは、トーキング・ヘッズが元ネタに違いない。
 件のビッグスーツは映画後半に登場するものですが、くねくねダンスが綺麗に見えるようドレープが出る素材を使ってるなとか、パンツも同じく横幅をフラットに見せるためにウエストに大量の詰め物をしてるなとか、映画を観ながらいろいろ気づきがあります。きっとバレンシアガのメンズジャケットも実際に袖を通すと「ほほう」と納得するところが多々あるんじゃないでしょうか。

 DVD特典映像で「なぜこんなに大きなスーツを着ているの?」と問われたデヴィッド・バーンは、「僕は頭を小さく見せたいんだ。そのためには体を大きくすればいいでしょ。音楽って肉体的なものだし、頭より先に体で理解するからね」と真面目に語っています。しかし実はその質問をしていたインタビュアーもデヴィッド・バーン自身が扮装をしているという自作自演の仕掛けであり、観ている者をどこまでも煙に巻くフザけた作りです。まさに「STOP MAKING SENSE」。意味を問うな、着て感じろ!ってことですかね。

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takayuki yamasaki

服は迷ったら買う派。そして色違いで揃える派。車はFR派。ジョジョは四部派。夜は糖質オフでハイボール派。圧倒的イヌ派。

 

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