SPOと『翻訳できない世界のことば』

 いきなりだが「SPO」「IKTSUARPOK」について書いてみたい。何のことやらわからない。

 まずSPO。これはSPUR2月号掲載のネット通販特集「SPOのしあわせショッピング」を企画した際、編集部で作った略語です。「SPO」、すなわち「すぐ・ポチる・オンナ」の意。息をするような自然さで何でもすぐにポチってしまう自分をはじめ、編集部スタッフの多くはネット通販の沼に首まで浸かっているわけで、そんな行き過ぎた通販マニアを「SPO」と命名してみました。
 現在発売中のSPUR6月号からは、そのSPOが連載化。「チームSPO結成! しあわせショッピングへの道」と題し、「すぐ・ポチる・オンナ」たちが選んだAmazon Fashionでのおすすめアイテムを紹介しています。

 軽い気持ちで作った言葉が連載にまで育つのは大変嬉しいことですが、こういう単語があるにはあったで「どうせ俺もSPOだからな……」とSPOを言い訳にしてしまい、さらにネット通販に拍車がかかるという、内需拡大には貢献するが家計的には大変厳しい状況に陥ってしまいました。

 さて、例えばネットで買ったスニーカーが自宅に届く日。朝起きると「あれ、今日だよな。届いたらすぐ会社に履いていこうかな」とワクワクする。もう靴以外は出かける準備もできてるのに、玄関でそわそわとスニーカーを待ち続ける。こういうときに「あー、いま“IKTUARPOK”だな…」って感じます。

 「IKTUARPOK(イクトゥアルポク)」とはイヌイット語で、「だれか来ているのではないかと期待して、何度も何度も外に出て見てみること」。上のスニーカーの話とはちょっと違い、おそらく本来は、来るかどうかもわからない人を待っている状況を指すのかと思います。この言葉は『翻訳できない世界のことば』(エラ・フランシス・サンダース著・前田まゆみ訳/創元社)で知りました。


 様々な言語のニッチな単語を集めたこの本には、「イクトゥアルポク」の他にも聞いたこともない言葉が満載。タガログ語の「キリグ」(おなかの中に蝶が舞っている気分。たいてい、ロマンチックなことや、すてきなことが起きたときに感じる)や、フィンランド語の「ポロンクセマ」(トナカイが休憩なしで疲れず移動できる距離)など、その国の環境や生活様式に基づいた表現、考え方や単位に膝を打ちます。スウェーデン語の「モーンガータ」は、水面にうつった道のように見える月明かりを指す言葉。夜の澄み切った一瞬の景色を切り取るためだけに一つの言葉を持つというのは、なんと豊かなことでしょう。ちなみに日本語からも「モーンガータ」に匹敵する、美しい情景を表す言葉が選ばれています。
 この本に所収された言葉の数々を読んで不思議に思うのは、まったく馴染みのない言語の中のさらに特殊な言葉であるにも関わらず、日本人の自分にも「あるある!」「確かに、わかるわー」と納得してしまうところ。

 イヌイット語の「イクトゥアルポク」は特に得心した言葉で、極度にせっかちな自分は常日頃から何かを待つときの所在ない時間を表す言葉がたくさんあればいいなと思っているのです。蜂蜜を瓶からすくうとき、スプーンからゆっくり垂れる蜜の糸が突然途切れてバネのように縮む瞬間に名前をつけたい。ものの例えが上から下に振れて大変恐縮だが、トイレで水を流したり、ウォシュレットのボタンをいじくり回したりした結果、ノズルから水が放出されるまでウィンウイン鳴ってるのを待つぼんやりした時間に名前をつけたい。
 現在、大型連休の真っ只中ではありますが、実はとっくに入稿していなければならない原稿を待っています。この「締切を過ぎてもなお原稿を待つ間」にも名前をつけてやりたい。皆様はよいゴールデンウィークを!

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takayuki yamasaki

服は迷ったら買う派。そして色違いで揃える派。車はFR派。ジョジョは四部派。夜は糖質オフでハイボール派。圧倒的イヌ派。

 

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