甘くほろ苦い、ウィーンの街並みと伝統菓子

ウィーンといえば、帝政時代という過去と華やかなお菓子。このふたつは、無関係ではない

 白いリネンに包まれたテーブルに、チョコレートケーキがボーンチャイナの皿に盛られて運ばれてきた。ピアニストがシューベルトからハイドンへと切り替えるように、タキシード姿の上品ぶったウェイターは、リースリングのスパークリングを会釈しながらこちらに向けた。隣席には毛皮のコートを着たご婦人、その足もとにはプードル。 2月のある日、午前11時。オーストリアほど自分が場違いなところはないし、おひとりさまでウィーンのお菓子とワイン三昧......。これほど異様な行動もあるまい。

PASTRIES PROVIDED BY EDUARD FRAUNEDER, CHEF & OWNER AT FREUD, SCHILLING, EDI & THE WOLF AND THE THIRD MAN, AND CAFÉ SABARSKY, LOCATED IN THE NEUE GALERIE. PROP ASSISTANT: CHARLIE KILGORE  PHOTOGRAPH BY MARI MAEDA AND YUJI OBOSHI
PASTRIES PROVIDED BY EDUARD FRAUNEDER, CHEF & OWNER AT FREUD, SCHILLING, EDI & THE WOLF AND THE THIRD MAN, AND CAFÉ SABARSKY, LOCATED IN THE NEUE GALERIE. PROP ASSISTANT: CHARLIE KILGORE  PHOTOGRAPH BY MARI MAEDA AND YUJI OBOSHI

 地面に雪はないものの、それ以外は宮殿も小馬も行き交う人々もすべて、白一色。舞踏会シーズンとあって、ベルベットを敷いた宝飾店のショーウィンドウでは、ティアラが輝きを放っていた。オーストリアといえば、その過度の感傷主義やナチスとの過去のつながりを認めない姿勢で知られるものだが、首都ウィーンのほうはハプスブルク家が君臨した時代のデカダンスが色濃く残ることで有名だろう。街自体がモニュメントという印象である。

 帝政時代という過去が最大の資産である街が、文化的ノスタルジアにどっぷりつかっているというのも、考えてみれば妙な話だ。それはさておき、私はケーキを食べ続けた。さすがウィーン、王侯貴族のために工夫されたレシピをもとに作るケーキが多い。チョコレートとアプリコットのザッハトルテ、目が覚めるようなピンク色でヌガーが詰まったプンシュクラプフェン、スポンジ生地とメレンゲで作るカルディナルシュニッテン。アプフェルシュトゥルーデルにはホイップクリームが添えられ、丸いワッフルには、にょろにょろしたマロンクリームがのっていた。リキュールとバタークリームを使うエスターハージートルテ、ジンジャーをきかせたドーム型のレーリュッケン(これは「鹿肉の厚切り」に見えるようにデザインされている)。私がたびたび注文したのはマジパン、ケシの実、ピスタチオ、チェリーの砂糖漬けだ。(続きを読む)

SOURCE:「Let Them Eat Cake」By T JAPAN New York Times Style Magazine
BY ALICE GREGORY, STYLED BY CARIN SCHE, TRANSLATED BY MAKIKO HARAGA JULY 20, 2017

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