ナタリー・ポートマンの往復書簡

 オスカー女優のナタリー・ポートマンと、作家のジョナサン・サフラン・フォアは、10年以上もの間、家族や、創造すること、そして「アングリー・コアラ」(※ネット上で有名になったコアラの写真)に至るまで、さまざまなトピックについて、数えきれないほどたくさんのメールをやりとりし、語り合ってきた。そして、今年の初めに、その膨大なメールのファイルの記録が、不思議にも、忽然とこのようから消滅してしまったのだった。ポートマンの野心に満ちた監督デビューが目前に迫った今、古い友達であるこのふたりが、ネット上で再会した。過ぎゆく時の流れと、その中で、お互いがどう変わってきたかを、心機一転、再び語り合うために。

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2016年5月24日(火)午前4時31分 ジョナサン・サフラン・フォアより

 僕は、世界中でもう誰も使っていないホットメールのアドレスをいまだに使っている 最後のひとりだと思う。他にメールアドレスは持っていない。そして、まるで罰ゲームのように、このメールアドレスを取得してから長年書いて保存してきたメールを全部、数カ月前に失ってしまった。 君は僕が初めて書いた小説の、最初の頃の朗読会に来てくれたよね。その後の僕たちの15年間におよぶ友情を通して、お互いの初めての体験を数多く見守ってきた。そんな中、僕たちはものすごくたくさんの数のメールを送り合ったね。話題は、お互いの仕事のことから、親になること、宗教、そして政治まで、さまざまだ。そして、君は今、また初めてのことに挑戦し、監督としての初の映画作品『A Tale of Love and Darkness(原題)』を世に送り出そうとしている。英国支配下にあった委任統治領パレスチナ時代の末期に、エルサレムで育った少年について克明に描いた映画だ。だが、この映画の主人公は、この少年だけではない。彼を取りまく母親たち、息子たち、夫たち、妻たち、夢や失望や、ユダヤ人であること、そしてヘブライ語という言語も描ききった作品だ。
『ニューヨーク・タイムズ』が、今回の記事の企画を持ちかけてきたとき、いわゆる普通のプロフィール記事を書くには、僕たちが物理的に同じ場所で、取材のために十分な時間を過ごすことができないのは、明らかだった。―― たとえば、君がファーマーズ・ マーケットで買い物をしている様子を、僕が観察して書くなんて、バカげてるしね―― だから、消滅してしまった僕たちの過去のメールのかわりに、これから新しくメールを交換することで、埋め合わせができるような、または、さらに前進できるような気がして僕は、うれしかったんだ。


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>>2016年5月24日(火)午前10時47分 ナタリー・ポートマンより

 私たちのメールのやりとりが(少なくとも私の書いたぶんが)デジタル空間のブラックホールに吸い込まれたと聞いて、すごくほっとした。だって、私たちがメールのやりとりを始めた最初の頃、私は、自分を、賢くて、面白い人間だと思ってもらいたくて、力みすぎてたに違いないから。今はもうあなたに「サックスを吹くセイウチのビデオ」をメールで送りつけるのも全然平気だけど。でも、確かに、私たちの話の中心はもちろん宗教と政治よね。あ、それと、芸術も忘れないで! 私たち、アートの話もするじゃない!(続きを読む)

SOURCE:「Natalie, in Correspondence」By T JAPAN New York Times Style Magazin
PHOTOGRAPHS BY CRAIG MCDEAN, STYLED BY MAX PEARMAIN AND TRANSLATED BY MIHO NAGANO

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