2017.06.14

"私のかご"を見つけたところから、偏愛への道は始まった

青竹細工作家の桐山浩実による竹かご。当初は青々としていたが、4 年間使ってこのアメ色に。持ち手はオオツヅラフジ。椎名さんの私物。〈H26×W40×D18〉

横長浅形のかごバッグに夢中になる理由

 普段使いのバッグから野菜を載せるざるまで、椎名直子さんの家にはたくさんのかごがある。かごを愛しすぎて、一時はあらゆるかごを持っていたが、現在はことのほか好きなものだけを身の回りに残している。特にバッグはほぼトート形のみに。
「かごに限らず、大好きなんですよね、トートバッグが。"横長の四角"が前世かもと勘違いするくらい(笑)。なぜなら、横長で浅形のトートバッグはシンプルかつ機能的で、横着な私に合っているから、でしょうか。外出するときの荷物はA4書類ケース、財布、いろいろですが、横長浅形にはそれが全部入るし、必要なものが簡単に探せて取り出しやすいんです。あと、見た目も好き。縦長だとモダンさに欠ける気がするし、あまり浅いとほっこりしすぎる。この形が理想です」と、椎名さんは愛用のぶどうのかごバッグをゆっくりとなでる。濃い茶色で細かい編み地、そして横長浅形のフォルム。そもそも横長浅形の偏愛ストーリーはこのぶどうのバッグが端緒だった。
 約10年前のこと。ふらりと出かけた旅の途中、立ち寄った青森の弘前で、運命の出会いが待っていた。伝統工芸品を扱う〈みかみ工芸〉で、このぶどうのバッグを見た瞬間「私のかごだ」と何かに打たれたように手に取った。
「高価だったし興奮してもいたので、いったん宿に戻って考えたのですが、やはり連れて帰るべきと、翌日買い求めました。横長浅形で細い持ち手とのバランスも気に入っています」。すでにあけびやラフィアのかごなどたくさん持ってはいた。けれどこの"私のかご"に出会って以降、かごバッグ選びの基準が定まり、それからはずれるものは買わないし、使わないことになった。
 もうひとつ、椎名さんが愛を注ぐかごがある。竹製でもちろん横長浅形だ。ライフスタイルショップの立ち上げに関わっていた4年前に、長野の松本で偶然目にした竹かごにときめいて、大分の工房まで作家に会いに行った。
「青竹細工作家の桐山浩実さんとはそのときにいろいろな話をしました。作品の取り扱いを申し出たところ、『かごは農具から始まって生活用品となり、美しいといわれてファッションとしても取り上げられる。そうやって自由になり進化していくのは僕もいいと思う』とおっしゃって。かごは道具でありつつ、その先が感じられるものなんだと胸打たれました」。そのときに譲ってもらったのが青竹のバッグ(写真上)。竹の強さ、しなやかさ、経年変化していくさまに"その先"が見えるようだ。

ものというのは使ってこそ存在する意味がある

 かごは世界中で人の生活を支え、彩りを添えてきた。アフリカ、エストニア、ナンタケット島。各地で作られているものにも、椎名さんは目を向ける。
「昨年、念願のケニアに行くことができました。そこでもかごはたくさん作られ、使われていて、籐の皿や箱などを買い求めました。どれも大らかで、同じものはひとつもない。ゆがんでいたり凸凹があったり、それがむしろいいんです。その自由さに癒やされます」
 人の暮らしに寄り添ってきたかごだが、時代の変化で材料や技術が稀少化し、高価な伝統工芸品となっているものもある。それでも"使う"ことが本来の役割なのでは、と考える。
「作る人に会って、こんなに真剣に作っているのだから使わないといけない、そうでないと失礼だと思うようになりました。本当に好きなものだけを買うのは、きちんと使いたいという気持ちからでもあります。大切に使われているものこそ美しい。ものの存在は使ってこそ意味があるし、輝くんです」

アフリカ南部ジンバブエのトンガ族のトレー。現地ではイララと呼ばれるパーム椰子で編まれている。トレー¥3,000(参考価格)/カゴアミドリ

Naoko Shiina

長野県出身。桜の美しい町で育つ。本誌など数々のファッション誌のほか、広告などにも活躍の場を広げ、最新刊の綾瀬はるか写真集『BREATH』(集英社)のスタイリングも務めた。部屋を整えることが好きで、最近ではライフスタイルへの興味を生かした仕事にも取り組む。