2017.12.15

ジョナサン・アンダーソンと原田マハの情熱対談 Part.1

クラフトにはロマンがあり、そのプロセスに魅せられる

2013年秋のクリエイティブ ディレクター就任以来、メゾンの神髄ともいえるクラフトという伝統を守りつつ、ロエベをモダンに蘇らせたジョナサン・アンダーソン。クラフト プライズという工芸作家に与えられる賞も設立し、モードとカルチャーの融合を図る。
一方、一年の半分近くをパリで過ごすという作家の原田マハ。バーナード・リーチに関する小説『リーチ先生』を上梓し、アートだけではなく民藝やクラフトにも知見を広げる。そんなふたりがクラフトについて、その魅力から将来まで熱く語り合った。

リーチは日本で“モダン”という概念を学んだ ―Jonathan Anderson

イギリスと日本のクラフトは、文化的なつながりが深い ―Maha Harada

――どうしてクラフトに魅せられるのか、その理由をお聞かせください。

ジョナサン(以下J) クラフトは人が作るものであり、人の生活にまつわる何か。そこにはロマンがあって、それは引き継がれていくものです。そしてクラフトはいろいろな分野で見いだされます。フード、テクノロジー、ファッションと。そこで重要となるのがプロセス。多くの工程を経て、クラフトワークは完成するものですが、いつもそのプロセスに僕は魅せられます。

原田マハ(以下M) 人が手で作る、ということがクラフトワークの醍醐味ですね。

 人はいつも手で作られたものに惹かれます。物に触れて、感じることは大切なこと。今の時代はかつてないほどクラフトに関して可能性があると思うんです。

 それはどうしてだと思いますか?

 デジタルが発達した今、我々はデジタルメディアの深い海の中にいるような感覚に陥っています。現実と乖離し、現実感というものを見失いつつある時代だとも言える。だから実際に人の手によって作られたものに触れることで、人々は現実とのつながりが実感できるのです。

 

デジタル化された現代でクラフトは人々に求められる

 ロエベを見ても、すごくハンドメイドにこだわっているというのがわかります。触れてみるとレザーの質感と手しごとならではの作りのよさが伝わりますよね。

 僕はロエベに伝わるクラフトの“知恵”を人々に見せたいんです。それはプロセスの物語でもあり、人の物語でもある。ひとつの鞄がただのオブジェではなく、多くの工程を経て、人の手によって作られているというのを消費者に実感してもらいたい。手を介して作られているにもかかわらず、それを実感できないのはある意味、現実とのつながりを見失った状態ですから。

――原田さんはイギリスのクラフトに多大なる貢献を果たしたバーナード・リーチに関する小説を出版されました。

 『リーチ先生』というタイトルの本なのですが、クラフトの歴史を踏まえながら、フィクションの形を取っています。でもリーチをはじめ、濱田庄司や柳宗悦など実在したアーティストも出てきて、史実をかなりの部分で尊重しています。

 僕も(濱田がリーチとともに窯を作った)イギリスのセント・アイヴスに行ったことがあります。

 そうなんですね! 私も取材で足を運びましたが、実際行かれてどうでしたか?

 それ以来陶芸に憑りつかれている、と言ってもいいほどに魅せられました! バーナード・リーチと濱田庄司のふたりがコラボレートして、イギリスに窯を作ったというストーリーは歴史的にみても素晴らしいことだと思います。1920年代は、そう簡単に旅行できる時代でもない。そんな時代に海を隔てたふたりが出会い、それぞれの知識を共有できたというのが何よりも興味深い。

 バーナード・リーチは戦後、再び日本の新聞社のスポンサーシップを得て日本に来るのですが、その際にほかの工芸家に与えた影響は計りしれません。その当時のリーチのことを知っている作家の方にも会ったのですが、みんな彼のことを今でも「先生」と呼んで尊敬しているんですよ。そんなことから今回の本のタイトルを思いつきました。イギリスと日本の文化的つながりはその時代だけにとどまらず、その後も脈々と続いていますし。

 イギリスと日本は、物事に対する繊細な感受性がリンクしますよね。三宅一生が監修した『U-Tsu-Wa/うつわ』展(2009年)などは、その好例です。

 では、工芸に関して双方の違いは何でしょうか?

 日本はイギリスに比べて、工芸や文化を守るノウハウがいろいろとありますよね。

 工芸家を国の宝として守る人間国宝という制度も。

 人の手による工芸は技術が必要であり、それは受け継がれていくべきものです。

 そのとおりですね。実際リーチの作品を見て、どういう印象を持たれましたか?

 魚が描かれたリーチの陶器をひとつ持っているのですが、最初の印象は何て重いんだ! と(笑)。とても密度が高く、だから重い。しかも楽焼などの影響が強くとても日本的だと。それでいて、彼の絵付けには日本とは違う趣と詩情を感じました。

 そこまでの審美眼をお持ちとは、もうリーチの専門家ですね!

 リーチは日本から多くのことを学んだと思うのですが、彼の モダン”という概念は日本から発祥したんじゃないかな? 建築物や日本庭園を見ていて思うことですが、どのようにしてあるものを減らしていくのか、そしてそれを洗練させていくのか、ということに非常に重きを置いている。もし、日本に伝統的にあるミニマリズム的な考えがなければ、ル・コルビュジエもミース・ファン・デル・ローエも存在しなかったはずです。

 日本文化にそこまで造詣が深い方とお話しできて本当に光栄です。日本に行かれるときはリサーチも兼ね、いろいろな場所に行かれますか?

 はい。旅程のうち、2日はリサーチにあてるようにしています。どこかほかの国に行く際は、いつもそこの国にある知識をより吸収したいと考えていて。また僕自身が持っている知識も現地でシェアしたい。双方が持ち寄り、分かち合うことによって、何か新しい好奇心が呼び起こされ、さらに新しいものが生まれる。

 まさにバーナード・リーチがしたことですね。

ロエベと濱田窯
濱田窯の3代目・濱田友緒とロエベがコラボレーションして特別に作成、販売されている陶芸作品『TIE』(右)と『CUBE』(左)©LOEWE

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