ジョナサン・アンダーソンと原田マハの情熱対談 Part.2

工芸もモードも、大切なのはその背景にある体験 ―Jonathan Anderson

誰かの“手”で達成された技は受け継がれていくべきもの

――今、日本では若い世代が伝統に興味を持ち始め、工芸においてもどんどん才能のある若いアーティストが出てきています。そのことについてはどう思いますか?

ジョナサン(以下J) 若い世代には、どんどん工芸に興味を持ってもらいたい。どの文化にもモダンさは存在していて、それを見いだすことは素晴らしいことだから。自分たちのルーツを知ることはとても大切なことですよね。そのことは今の中国やインドについても言えることだと思います。

原田マハ(以下M) 消費文化が成熟し、次のステージに来ていると。

 何かを継承するということはとても重要です。消費に熱中しているときは新しいものを求めて古いものを忘れる傾向にありますが、それが成熟してくると、歴史に学ぶべきことがあるということに気づく。自分たちが新しいと思ったことも、歴史を見ていくとすでに存在していることも。たとえば19世紀の印象派の絵画は何世紀も前に日本で描かれた絵の影響があったり。誰かの“手”で達成されたことはひとつの財産であり、その財産は世代を超えて受け継がれるべきもの。国の歴史を見てみても、一度自分たちの歴史を捨て、そしてまたそこに戻るという過程を経る。今の中国がまさにその例かと。日本も、自らの文化に立ち返り、さらにそれを発展させていますよね。

 工芸について、とても多くの知識をお持ちですが、どうしてそこまで?

 僕は工芸に執着してます。もはや中毒と言ってもいいくらい(笑)。自分では工芸作品を作ることができないというのをわかっているので、それを知識で埋めているのかも知れません。「知は力なり」という(哲学者フランシス・ベーコンの)言葉を信じているんです。また祖父が陶器の熱心なコレクターだったのも影響しているかな。新しい才能を見つけるキュレーションの面白さは祖父から学んだものなんです。

知る喜びと、その体験が消費文化を変えていく

――ロエベのコレクションは伝統を踏まえながらもモダンなエッセンスがある。伝統に裏打ちされたものは、場合によっては歴史を守ることで精一杯になってしまい、時代性というものがついてこないこともありますが、ロエベのモダニティはどこから来ると思いますか?

 手しごとの精神を大切にし、それをベースにクリエーションをし続け、さらにそこにコンテンポラリーな感覚もあるからではないでしょうか? “モダン”と“コンテンポラリー”という概念を分けて考えたほうがよいと思うのですが、モダンとは伝統に対峙して生まれるもの。そしてコンテンポラリーは「同時代」という意味があるように、今の時代を表します。ロエベには今の時代を感じるもの、コンテンポラリーな感性があるからこそ人々がモダンと感じるのではないかと。

 そこで重要なのが、コンテクスト(文脈、背景)です。たとえば絵は壁に掛けるだけのものではなく、人がそのオブジェとどう生きるのかということが大切になる。

 明確なビジョンを持ってクリエーションをなさっているのですね。

 消費文化というものを変えたいという願いが根底にあるんです。かつて存在したラグジュアリーの公式を、もはや信じていません。人がロエベの商品を買うとき、“体験する”という感覚も味わってもらいたい。考えるという時間を費やして、買うと決断してもらいたい。僕が工芸を買うときのように。工芸を知る喜びを味わい、時間を使う、そんな体験をしてもらえたらと。それこそが物を超えて存在するコンテクストだと思います。

 クラフト プライズという試みをロエベでなさっていますが、どうしてそれを始めようと思いましたか?

 アートの世界ではいろいろな賞がありますが、工芸の分野ではそこまでない。クラフトにおいてもそれを推進できるようなプラットフォームを作りたかった。世界中に優秀な工芸作家がいるなかで、どうすれば作家たちの手助けになるかと考えたとき、賞を作ろうと思いました。

 工芸やアートの造詣をどのように深めているのですか? 足で回って? ウェブサイトで?

 ウェブサイトや本から。もちろんギャラリーや美術館、アトリエにも行きます。ひとり好きなアーティストを見つけると、その人に関連のある別の作家を見つけ、さらにまた別の人を見つけてといった具合に。雪だるまが転げながら、どんどん大きくなる感じでしょうか。

 よい嗅覚をお持ちですね! 日本には多くの窯もありますし、優れた工芸作家が多くいるので、日本に来る際にはぜひ彼らのアトリエに行ってください。今私が注目しているのはこの作家なのですが(と言って包みを差し出す)。

 何だろう。(包みを開いて)すごい!

 とても若い木工作家で、中西洋人という人です。木を使って食器や花器を作成していて。

 素晴らしい。こんな作品、見たことがない。テクスチャーも素晴らしい。アトリエにもぜひ行ってみたいな。日本へ行く楽しみがまたひとつ増えました!

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