2018.09.09

荒木飛呂彦インタビュー! JOJO30年のヒロインの裏側

マンガ『ジョジョの奇妙な冒険』に登場する女性キャラクターは、だから面白い!

強い意志を持っていて、やさしさがあって、ちょっとゲス。それが理想のヒロインです。

あらき ひろひこ
1960年宮城県仙台市生まれ。’80年、『武装ポーカー』が第20回手塚賞で準入選を果たし、マンガ家としてデビュー。その後、『魔少年ビーティー』『バオー来訪者』『ゴージャス☆アイリン』などの作品を発表し、「週刊少年ジャンプ」’87年1・2合併号より『ジョジョの奇妙な冒険』の連載をスタート。現在、第8部『ジョジョリオン』を「ウルトラジャンプ」誌上にて連載中。

 

ちょっと世の中からはみ出ているところがかっこいい

―― 今回は「JOJOの奇妙なヒロインたち」というテーマで、『ジョジョ』シリーズにおける女性キャラクターの魅力などについてお話を伺っていきたいと思います。荒木さんが女性キャラクターを描くにあたって、何か意識していることやこだわっていることはあるのですか?

荒木 特にないんですよね。女性だからとか、男性だからとか、そういった形では区別していなくて、しいて言えば、可愛いか、かっこいいかぐらいの意識の違いかな。ただ、僕はいわゆる可愛いがあまり得意じゃないから、どうしてもかっこよさを意識して描くことが多いですね。かっこいいといっても、そこにはいろいろな定義があって、僕の場合はまず孤独であることだと思っています。社会から認められていないけれど、自分の信じる正義を貫いている。それがヒーローであり、ヒロインなんですよ。ちょっと世の中からはみ出ているところがかっこいいんです。

―― 前のページで、エリナ、スージーQ、徐倫、康穂の4名の女性キャラクターをイメージしてファッションシューティングを行なっているのですが、それぞれのキャラクターをひと言で表現するとしたらどんな感じになりますか?

荒木 この4人を対比させるのであれば、エリナはやっぱり誠実で、スージーQは明るくておっちょこちょいで、徐倫はポップではつらつとしていて、康穂はいちばん現代的な子という感じですかね。

―― この中でいちばん思い入れがあるのは誰ですか?

荒木 僕は今描いているのがいちばん好きなので、この中だと康穂ですね。康穂ってちょっと病んでいる感じがあって、それが何かいいんですよ(笑)。

―― 徐倫はどうですか?『ジョジョ』シリーズで初めての女性の主人公でした。

荒木 もちろん、思い入れはあります。女性にパンチを食らわしたり、腕を切られたり、そういうバイオレンス描写ができるようになったのはやっぱり徐倫からなので。それまではなかなかできなかったですからね。『ジョジョ』を描く前に、『ゴージャス☆アイリン』(,85 年)という女性が主人公の作品を描いたことがあるんですよ。今でこそ女性が戦う作品はたくさんありますけど、当時の少年誌ではあり得なくて、描いていて気持ち悪くなるし、「これはダメだ」と思って長編にするのをやめました。

―― 自分の作品なのに、描いていて気持ち悪くなったんですか?

荒木 アクションシーンを描くのがダメでしたね。当時は『エイリアン2』が公開された頃で、シガニー・ウィーバー演じるリプリーが強い女性でかっこいいなと思ったから、僕もマンガでトライしてみたんだけど、やっぱり女の子が殴られたりするのはちょっと残酷すぎて描けませんでした。それに、当時は細い眉も描けなかったんですよ。あの頃の少年誌の男の主人公はみんな眉が太くて、それが普通だったので、細い眉のキャラクターって何か悪役に見えてくるんですよね。そういう時代だったから、少年誌で女性の主人公を描くのはまだ早かった。まだスタローンとシュワルツェネッガーの時代だったんですよ(笑)。ただ、それから15年近くたつと時代も変わって、女の子がパンチを食らったりするシーンを描いても平気な感じになった。これならちゃんとタフな女の子が描けると思って、第6部は徐倫を主人公にしたんです。

 

ファッションでファンタジーを表現する

―― たとえば、女性キャラクターを描くときは目から描き始めるとか、男性キャラクターのときと手順が違ったりするのですか?

荒木 そういった描き方の違いも特にないですね。というより、絵を描くときは基本的に女性のポージングを参考にして描いています。なので、男性のキャラクターも女性ファッション誌に登場するモデルとかを見ながら描いているんですよ。男性ファッション誌のモデルはただ立っているだけというのが多いんですけど、女性誌のモデルは腰をぐっとひねったり、首をぐいっと曲げたり、ポージングがいろいろあって面白いんですよね。輪郭とか骨格みたいなところはさすがにそれぞれ別のものを参考にしますが、ポージングに関しては男と女のキャラクターで違いはなくて、どちらもだいたい女性ファッション誌を参考にして描いています。

―― 
では、ファッションはいかがでしょう。男女のキャラクターを描くうえで、ファッションの違いは大きいですか?

荒木
 そうですね。男女で大きく違ってくるのは、ファッションの部分だと思います。僕は、キャラクターを考えるときは身上調査書みたいなものをつくるんですよ。全部で60項目ぐらいあるんですけど、性格とか口癖とか好きな食べ物とか、いろいろと細かく設定していくことで、キャラクターがどんどん立体的になっていくというか、実在の人物のように生き生きしてくるんです。そうやって設定を考えるときでも、ほとんど男とか女ということは意識しないのですが、やっぱりファッションだけはどうしても違いが出てきますね。

――
『ジョジョ』シリーズのファッションは、読者からの注目度も非常に高いです。康穂のスカートについている花だったり、承太郎の学ランについている太いチェーンだったり、ああいう独創的なディテールはどうやって生まれるのですか?

荒木
 ファッション誌とかを見て、参考にすることが多いですね。チェーンをつけたりするのは、要するにファンタジーなんですよ。学生服にチェーンをつけることってまずないじゃないですか。だから、そうすることで、ファンタジーになっていくというか、「これはマンガなんです」ってことを表現しているんです。スカートに花がたくさんついているのもそう。それがわかりやすくできるところが、ファッションを描いていて面白い部分ですね。

 

女性は女神。世の中を幸せにする存在

―― 理想のヒロイン像というのはあったりするのですか?

荒木
 目的に向かって強い意志を持っていて、そのうえでどこかにやさしさがあるというのが理想ですよね。あとは、ちょっとゲスな部分があるのもいいかな(笑)。男のゲスな部分は許せないけど、女性のゲスな部分は許せます。その背景に何か理由があるのかなって思っちゃうんですよね。今の時代状況を考えると、品行方正なキャラクターよりも、どこかに欠点があったり、悩みを抱えているキャラクターのほうが読んでいて共感する部分が多いと思います。聖母マリアみたいなエリナよりも、ちょっと病んだ感じの康穂のほうが間違いなく面白くなるんだろうなって。

―― 
漠然とした質問になりますけど、荒木さんにとって女性とはいったいどういう存在ですか?

荒木
 女神ですね。世の中を幸せにする存在。ダメですかね(笑)。

―― ダメではないですよ(笑)。

荒木
 だからといって、過剰に崇め奉るということではなく、マナーを守り、きちんと敬意をもって接するという意味合いでの女神なので、レディファーストみたいな考え方に近いのかな。だから、何かもめ事が起きたときも、よほどのことがない限り、女性を上に置くようにしています。女性という存在を女神だと思って生活していると、大抵のことはうまくいくんです。少なくとも、わが家はそうですね(笑)。

―― 女神なのに、ゲスな部分があってもいいんですか?

荒木 いいんです。だって、ギリシャ神話に登場する女性たちはヤバいじゃないですか(笑)。ゼウスの奥さんとか、ものすごく怒るし、嫉妬深いですよね。でも、そういうところが話を面白くしていると思うので、ゲスな部分ってやっぱりあったほうがいいんですよ(笑)。

interview & text:Masayuki Sawada photography:Satoshi Kuronuma〈aosora〉

今回登場したヒロインを紹介

エリナ・ペンドルトン

第1部のヒロイン。礼儀と教養を身につけた良家のレディであり、のちの夫となるジョナサンの宿敵ディオにむりやり唇を奪われたときは、あえて泥水で口をすすいで見せるなど、気丈夫な一面もある。

空条徐倫

『ジョジョ』シリーズ初の女性主人公として第6部に登場。父親は、第3部の主人公、空条承太郎。奪われた承太郎の記憶とスタンド能力を取り戻すため、強大な敵と戦う。タフで勇敢、そのうえ冷静。

スージーQ

第2部のヒロイン。主人公のジョセフに波紋の能力を伝授するリサリサの使用人として登場。ノリはいいが、おっちょこちょいな性格。最強の敵カーズとの死闘を制し、無事に生還したジョセフと結婚。

広瀬康穂

第8部のヒロイン。記憶喪失の主人公、東方定助を助けたことがきっかけで、定助の正体を突き止める調査に協力する。不思議なおさげ髪と、花のついたスカートがトレードマーク。やや情緒不安定⁉

 

『荒木飛呂彦原画展 JOJO 冒険の波紋』開催!

1987年から連載がスタートした『ジョジョの奇妙な冒険』。誕生30年の集大成として行われるこの展覧会は、初公開を含む豊富な肉筆原画をはじめ、ここでしか見ることのできない多彩な展示物とともに、『ジョジョ』シリーズの壮大な歩みと歴史を解き明かしていく。完全新作となる大型描き下ろし原画12枚のほか、彫刻、ファッション、映像の第一線で活躍するアーティストとのコラボレーションも展示。史上空前の〈JOJO〉の祭典をお見逃しなくッ!

〈東京会場〉国立新美術館
東京都港区六本木7の22の2

会期:8月24日~10月1日
開館:10時~18時(金・土は21時まで)
休館:火曜 03-5777-8600(ハローダイヤル)

〈大阪会場〉大阪文化館・天保山

大阪府大阪市港区海岸通1の5の10
会期:11月25日~2019年1月14日
開館:10時~20時 
無休 050-5542-8600(ハローダイヤル)

 

 

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