2018.12.16

“ジル・サンダーを着たいのは誰より自分たちなんだ”/ルーシー・メイヤー&ルーク・メイヤー

Interview with

LUCIE MEIER & LUKE MEIER

JIL SANDER

LUCIE MEIER & LUKE MEIERルーク・メイヤー(右)はシュプリームのヘッドデザイナーを務めた後、メンズウェアブランドOAMCを設立。ルーシー・メイヤー(左)はルイ・ヴィトンやバレンシアガで経験を積み、ラフ・シモンズ率いるディオールのウィメンズ・コレクションとオートクチュール・コレクションのヘッドデザイナーを務めた。2017年4月に夫妻でジル・サンダーのクリエイティブ・ディレクターに就任し、’18年春夏シーズンより本格的にデビュー。

1 ペールグリーンと直線的なライン、ユニークなカッティングが目を引いたファーストルック
2 ガーメントダイのシリーズ。ムラのある風合いとアシンメトリーなシルエットがカギ
3 「ハンドニットなどの手仕事と、新しい素材の融合は常に意識している」とルーク
4 ルーシーのもっともお気に入りのルック。「端正なシャツにあえて手刺しゅうを施したの」
5 存在感を放つカフスが印象的。体をゆるやかに包み込むボックスシルエット

ブランディングというコンセプトへの反骨精神

 クチュールとストリート。異なるルーツを持つ夫妻がジル・サンダーのクリエイティブ・ディレクターに就任したのは、昨年春のこと。そぎ落としたデザインながら、ピュアで若々しいコレクションに、人々はすぐ魅了された。

 3シーズン目となる今回の舞台は、イタリアの銘菓、パネトーネの元工場。数カ月前から自生させていた植物が、素朴な花を咲かせている。吹き抜けから爽やかな光が差す9月、2019年春夏コレクションが披露された。

リアルクローズを作りたかったの」と語るのは、ルーシー・メイヤー。「私たちは服を着て生きている。根本的なところを追求したいと思いました」。続けてルーク・メイヤーはこう答える。「特に今、ブランディングという考え方に対しての反骨精神もあったんだ。『どこのブランドの服か』ということを置いておいて、服と着る人との関係性に立ち返りたかったんだ。服が人を着るんじゃなく、人が服を着るということにね」

 それはもっともシンプルな出発点。二人は“ユニフォーム”をテーマに定めた。「ダンサーやボクサーは常にユニフォームを着ているよね。規律ある練習を積み重ねて、舞台に立つ。その瞬間にエネルギーが解放されるんだ。それは僕たちが服を作りランウェイで解き放つこととも通じている」

 端正なファーストルック(1)はとても象徴的だ。通常はジャケットで仕立てられるパターンを、シャツに落とし込んだ。「ありきたりでないテーラリングを試してみたくて。気軽なスーツとして提案したの」と、ルーシー。手に取ると、驚くほど立体的な設計で、やさしく体に寄り添うことがわかる。

 パターンに加えて、素材選びもブランドの重要なファクターだ。ショーは構築的なルックから、やがてニット、コットン素材が成す柔らかな服へ。特に、はっと心奪われたのは、淡い青のガーメントダイのシリーズ(2)。「前半の抑制された装いに比べて、人の手で染められていてアンコントロールなもの。そのコントラストに惹かれている」とルーク。天然素材と化学繊維を交ぜるアイデアは、創始者ジル・サンダー本人の試みに通じる。「たとえばニットドレス(3)はウールとナイロンを組み合わせている。光を当てると立体感が生まれてモダンに見えるんだ」。"対比”は細部にも息づく。今季、ルーシーがデザインした女性の体を模したハンドエンブロイダリーもそうだ(4)。「衣服と肌は切り離せないわ。ふたつがひとつになるということだから。工業的なイメージに繊細な人のぬくもりを加えたかったの」

 そしてクリエーションは、日常への着地を目指す。生活の中で息づき、愛されることを。それをまず誰より実践しているのが二人自身。リーバイスやシュプリーム、コム デ ギャルソンなどに加え二人の日常のワードローブには、ジル・サンダーが欠かせない。「自分たちが着ることで、理解が深まるんだ。実際にルーシーは、今季のコレクションの同じシャツ(5)を4枚も持っているんだよ!」

 もちろん、ただ着られることだけがすべてではない。「ある側面として実用性がある。けれどまた同時に、単なる服を超える存在であってほしいんだ。魂のこもった、着る人の感情を呼び起こすものに。だから僕たちのジル・サンダーはとてもパーソナル。心が動かされたピースを、誰かに着てほしいと思っているから」

「私たちは正反対な性格だけど、いつも同じ方向を見ているの」

 公私ともにパートナーである二人は、アトリエと自宅をミラノに構え、ほぼすべての時間を共有している。「明確な役割分担はないの。すべてを一緒に作っているわ。私は魚座なのだけれど、とても直感的。ルークは乙女座で、深く分析をする人」。ルークも続けて「僕たち二人はまったく違う人間で、だからこそうまくいくのだと思う」と答えた。最後に、激務である仕事の息抜きは?と尋ねると「時間ができたら海や山など自然の多い場所に、二人で旅行に出かけるね」とルーク。「私たち、24時間ずっと一緒なのよ」。そうルーシーも笑った。

 心の内に強い信念を抱きながら、まとう空気は穏やかで、気品が漂う。正反対だという二人はよく似ていて、今のジル・サンダーそのものを体現しているようにも見えた。

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