端正でなめらかなウールキャンバスのコンビネゾン。タブリエ(エプロン)という日常にあるワークウェアのディテールを、ノワール(黒)のイブニングウェアとして提案するひねりがメゾンらしい。ネックリボンのシルクの仕立てが、エレガントな空気を醸す。
ジャンプスーツ¥416,000(予定価格)/エルメスジャポン(エルメス)
この数年、ランウェイシーンを席巻してきたロゴマニアブーム。そのカウンターパートとして、今ブラックスタイルに熱い視線が注がれています。ひと目でそれとわかるステートメントに疲れてしまった、という見方もできますが、果たしてそれだけでしょうか。
黒という色の持つ静謐さ、知性、そして奥行き。ニュートラルだからこそ、シルエットやディテール、素材のこだわりが際立つ。ひいては着る人のパーソナリティが浮き彫りになる。言うなれば、ブラックのワードローブには、真のモードラバーとしての矜持が投影されているように感じるのです。
かくいう私自身、ブラック信者の一人。ワードローブの過半数は黒い洋服で埋め尽くされています。シンプルなブラックドレス、テーラードジャケット、ボンデージ風のレザーブラ。そして黒を選ぶときは決まって、身が引き締まるような気持ちです。
そんな私が、改めてブラックスタイルの魅力に惹きつけられたのが、今回の2019年春夏コレクション。なかでもエルメスのランウェイでフィナーレに登場したウールのジャンプスーツが印象的でした。見事な晴天のロケーションのもとで発表された今季コレクションには、ナデージュ・ヴァンヘ=シビュルスキーのモダンな感性、そしてファッションというカテゴリーを超越したライフスタイルメゾンとしてのエルメスのDNAが、これまで以上に鮮明に映し出されていました。ラグジュアリーを極めた末に行き着いた、ブラックという原点。こんな服を、気負わずマイ・ユニフォームとして着られる女性がいたらなんて素敵なんだろう。そんな妄想が膨らむ一着です。
ティファニー・ゴドイファッションジャーナリスト。自ら創刊した『The Reality Show Magazine』の編集長兼クリエイティブ・ディレクターも務めるほか、数多くのメディアにも寄稿。