黒いニュー・ヒロイン by ティファニー・ゴドイ

"Destroy Beauty(美の破壊)"を掲げた今季、ミウッチャ・プラダは美やクラシックに改めて向き合った。デニム素材やリボン、ビジュー、50年代のスタイルなどメゾンらしいコードにあえてシワやダメージの加工を施して"壊す"ことで、本来の美を問いかける。カラーパレットも黒やスキントーンなどミニマルに絞った。

ドレス¥306,000・ショーツ¥32,000・カチューシャ¥72,000・ベルト¥66,000・ソックス¥20,000・靴¥120,000(すべて予定価格)/ミュウミュウ クライアントサービス(ミュウミュウ)

 こんなミュウミュウ、見たことない! ミウッチャ・プラダが得意とするレトロモダンな世界観が、今季2019年春夏コレクションではぐっとシャープに、強く感じられました。その理由の一つは、ファーストルックで登場したバズカットのモデル。アンドロジナスな風貌は、新たなトレンドの息吹を予期させる鮮烈なプロローグでした。

 同じく今回のコレクションで象徴的だったのが、全身ブラックのルック。マイクロミニ丈のガーリーなスタイルが、ビターなブラックデニムでぐっとフレッシュに。ちょうど最近、コートニー・ラブのような90年代のグランジスタイルが脚光を浴びていることもあり、まるで新世代のバーチャルヒロインのようなパワフルな印象を受けました。柔軟な感性を持った若い世代なら、性別を問わずこの人物像に共感できるはず。こんなスタイルのメンズをもし見かけたら、間違いなく街で声をかけてしまうでしょう。

 若い世代といえば、パリに住んでいて最近感じることがあります。それは、街中で目を引くスタイリッシュな子が、こぞって黒い洋服を着ているということ。その背景には、先行きが見えない社会情勢が関係しています。日常的に起こるデモ。外に目を向けても、混迷する政治や経済、環境問題など、明るいニュースばかりではありません。こうした状況の中で、黒という色はある種のステートメントとしての役割を果たしています。少し前まで、新世代を象徴する色として「ミレニアル・ピンク」や「ジェンZイエロー」というキーワードを耳にしました。これらに続き、今のモードシーンを最もリアルに反映した色は、やはり黒をおいてほかにないと思います。

ティファニー・ゴドイファッションジャーナリスト。自ら創刊した『The Reality Show Magazine』の編集長兼クリエイティブ・ディレクターも務めるほか、数多くのメディアにも寄稿。

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