黒い自由 by ピエールパオロ・ピッチョーリ

上質なシルクタフタ素材を、たっぷりとしたボリュームで贅沢に仕立てたドレスは、やさしく体を包み込む。足もとはヒールではなくあえて素足で。ランウェイでも、地を踏みしめながら女性が心地よく歩けるようなフラットシューズが選ばれた。

ドレス¥952,000/ヴァレンティノ インフォメーションデスク(ヴァレンティノ)

 今シーズンのコレクションで問いかけたいテーマとして「贅沢」とは何か? ということがあります。出発点は一つのエピソード。かつてアーティストたちが“エスケープ”していた楽園がある。彼らはどこにいてもつきまとう「自分が何者か」というアイデンティティに対する模索から解放されるため、彼の地を訪れていました。贅沢とは、この「自分はほかでもない自分」という感覚を得ることにこそあると思うんです。何者かでいなくては、という圧を逃れてありのままでいること。そんな願いをかなえる楽園を、私は服で表現したかった。

 答えへたどり着くためのアプローチは「黒」でした。ブラックはすべてが混ざり合ってエネルギーにあふれる色でもあり、特定のイメージに絞れない色でもある。女性だけでなく、男性だって、人は誰しもさまざまな側面や表情を抱えて生きていますよね。その多様な人間像を、何体かの黒のルックに落とし込んだのです。特に、ありのままで美しく、私が思う贅沢を体現する女性、クリスティン・マクメナミー。彼女が纏ったファーストルックの黒は象徴的です。たっぷりと豊かなボリュームに包まれて、あなたはただのあなたとして心地よくいられる。それが最高に「贅沢」で自由なのだと、私は考えるのです。

PIER PAOLO PICCIOLI/ピエールパオロ・ピッチョーリ1999年にヴァレンティノに入社。2008年からマリア・グラツィア・キウリとクリエイティブ・ディレクターデュオとして活躍し、2016年より一人で率いる。

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