2020年のムードを先取る上で見えてきたポスト・サイケデリックとは、いったいどういうスタイルなのだろう? スタイリスト浜田英枝さんに聞いた。
「半年くらい前から、インドのムードがファッション界に来ているな、というのを肌で感じていました。国のパワーってありますよね。経済的、社会的に注目されている国のモデルって、ランウェイやキャンペーンでも多く起用される傾向があるんです。インドはそういう意味では今、最もエネルギーが渦巻いている国だと思います。伝統的な祭りHoliの、激しい色彩であったり、カオスに見えて実は秩序のある曼荼羅であったり。そういった古くから残っている文化も刺激的ですよね」
それに加えて、ヒッピーのスタイルもファッション界に再燃し始めていると実感。ヒッピーはもともと、太古の仏教やヒンズー教の哲学などを幻覚体験に取り込んでいったムーブメント。そこから派生した、サイケデリック・アートや、1990年代にヒッピーの聖地であるゴアで生まれたゴアトランス、サイケトランスの音楽性も、この「ポストサイケ」の世界観に反映されている。
「このムーブメントの呼び水となったのは、1~2年前から大流行しているタイダイでしょうね。おなじくここ何年かはやっているセカンドスキントップスも、疑似タトゥーをまとうような感覚で共通したムードがあるな、と思います。レイブや、トランスに着ていくようなスタイルがすでに土台にあったということですね。そういう夢を見せてくれるもの、解放的な文化ってすごく魅力的に映るじゃないですか。今は社会が分断され、不穏な空気が漂っているので、この流行は当然の流れだと思います。『あそこにエリートがいるけれど、関係ないよ』というような、競争と距離を置く姿勢。自分の幸福を求めて、自己解放していくヒッピーの精神を、服を身にまとうことで感じられるのです」
幻覚を見せるかのような、色と色のぶつかり合い、カオスな柄。一見無秩序なそのサイケデリックな衝突を、裏では緻密に計算して表でモダンに着地させる。それが、ポスト・サイケデリックの考え方だ。
彼女の頭の中ではいろんなものが渦巻いている
浜田さんが今回このスタイルを構築していくにあたって一番ときめいたのが、2009年にLAでローンチしたブランド、コリーナ ストラーダ。何がこのブランドの魅力なのだろう。
「ブランドの哲学『着想源は通り道をはずれた場所にある』を知って、ハッとしたんです。今はマーケティングで服を作る人が勝ち組、みたいなところがあるけれど、デザイナーのヒラリー・テイモアはもっと感情で作っていると思います。彼女のデザインには自由を感じるんです。頭の中を見てみたい。きっといろんなものがぐるぐる渦巻いているんでしょうね。ストリート感がありながらも、品と清潔感がある。それでいて、みんなに手の届く値段も魅力のひとつ。この一着で、なりたい自分になれるかもしれない、自分を解放できるかもしれないと思わせてくれる。洋服にそんな力があるって素晴らしくないですか」
コリーナ ストラーダはコレクションの75%でデッドストック生地を使用するなどサステイナビリティの意識も高いブランド。今回のスタイリングでは、そのコリーナストラーダの’19年秋冬コレクションから3着をピックアップ。水彩画のようなブルーグリーンのジャケットと黄色いレースのセカンドスキントップス、そして赤いフロッキープリントのロングスカートだ。
「このスタイルは、宇宙とか、覚醒とか、波動とか、そういう言葉にしづらい感覚で組み立てました。全部が引っ張り合うような目に焼きつく3色と柄をあえて掛け合わせる。そこにもうひとつ違和感を入れたいと思ったときに、ルイ・ヴィトンのモノグラムが、全体の引き締め役になってくれたんです。圧倒的にクラシカルな名品が逆にモダンな味つけをする。ベルト部分がピンクだったり、ミニポーチがついていたりと、進化し続けるクラシック、というのも素敵。ネックレス掛けしたのは、バッグに実用性を持たせず、『好きなものを身につけて気の向くままにいたい』という肩の力の抜けた姿勢を表現したかったから。レトロなピンやイヤリングで仕上げの違和感をプラスしました」