T プラダとラフはこれまでに見たことのないものになる。気取った感じもしないし、ファッションのエリートイズムでもないと思う。ふたりとも知的だし、ハイ・カルチャーにも造詣が深い。ファッションオタクのふたりが作る、次のレベルのアーティスティックなコレクションならビジネスに特化したものだとも思えず、希望の光になるはず。
Y 確かにビジネスは考えてないかも。今季はロンドンもだいぶ影響が出始めていたけど、ミラノとパリは本当に新型コロナウイルスに翻弄されたね。
T セリーヌ(1)は、今のファッションのシステムにとらわれない、ワードローブの主要アイテムを作っているでしょ。急にそれがすごくリアルに見えてきた。70年代のテーラリングにモダンなツイストを加えた、ジャケットやスーツは、すごく今の気分。
Y セリーヌのクリエーションは基本的に変わらないけど、今は変わらないことに安心できる時期なのかも。それを言ったら今でも#oldcelineを見かけるけど、さまよえるフィービー(・ファイロ)ファンはどこへ行ったらいいのかな?
T ザ・ロウ(7)やピーター ドゥはやっぱりいい。あと、エルメス(6)もおすすめ。ショーもすごくよかった。ショートヘアのモデルがフレッシュで、スタイルにも多様性があった。
Y モードの潮流でいうと、ニナ リッチ(5)が旬なムードだと思う。
T それは同感! 知的かつコンセプチュアル。クリーンで美しいだけでなく、仕立ても面白い。
Y 当時アントワープ王立芸術学院を卒業したばかりのボッターのデュオに高級メゾンのクリエイティブ・ディレクターが務まるのか、心配だったけど。
T 確かに。でも彼らの持ち味を生かしながらラグジュアリーに合ったクリエーションを提案しているよね。
Y 新しいエネルギーやアイデアだけでなく、’20年春夏のバケツハットやバッグのような楽しい要素もある。
T ケンゾーも新しいオプション。
Y 新クリエイティブ・ディレクターのフェリペ・オリベイラ・バプティスタは高田賢三さんのアーカイブをすごく研究した感があった。でも、どのあたりの並びにおさまるんだろう?
T そうね。ルメールあたりを着る人たちが好きそう。コレクション全体が以前に比べると大人っぽかった。でもプリントはクールでストリートの要素も兼ね備えている。大ぶりなシルエットもユニセックスな感じで今っぽい。
T 新型コロナウイルスの影響で、みんなが今のシステムについて真剣に考えるようになったと思う。ラグジュアリーが大きくなりすぎて、「see now buy now」みたいな、サステイナブルとはほど遠い現行のビジネスモデルの問題点にやっと気づいたんじゃないかな。
Y リモデルを考えるいい機会かも。
T 皮肉だね。生産が集中していることによる危うさも露呈した。たとえば、ラグジュアリーはひとつひとつの大陸に工場を設けて、メゾンの持つアルチザンの技を教え込むことも必要になるのかもね。サプライチェーンを変えることで今回のようなパニックは避けられると思う。物流の無駄や、二酸化炭素の排出量を減らす効果もありそう。
Y でも、ラグジュアリーの価値観ってなんだろう。昔はアルチザンによる一点物が重宝されたけど、今は質やクラフトが多少劣っていても、若いデザイナーが作る一点物のほうが特別に感じる。ヴィンテージ人気もその流れかも。
T 物を交換するマーケットプレイスだって、昔からある考え方だよね。着なくなったり、着られなくなったり、お金が必要なときでも、次の人に託すことができると思ったら、ファッションカルチャーとして価値のある服に投資するようになる可能性も。これぞエコノミーよ。すごくポジティブな動き。
Y ケアをしながら長く着る、そして着なくなったら次の人に託す。一般消費者がいつでも始めることのできる、いちばん簡単なサステイナブル。
T 今シーズン、ふたつのビッグメゾンが紙の使用を減らす取り組みをしていた。グッチ(9)の招待状は音声でミケーレのメッセージを送信していて、面白かった。シャネルもコードをスキャンするとルックブックのリンクが送られてくる仕組みに。シートの上に印刷物を置く代わりにね。
Y ほかも今後はそうなっていきそう。
T ディオールやサンローラン、アクネまで手がける、業界トップのショープロデュース会社のビューロー・ベタックがサステイナブル化を宣言したのは知ってる? たとえばケンゾー(10)は、リサイクル素材を使った再利用可能な会場で、太陽光も取り入れて照明も節約していた。
Y 00年代はインターネットで世界が変わった。10年代にはサステイナブルを知ることに。不十分だという人たちもいるけど、大企業がPRとして使ったおかげで一般消費者にまで言葉は浸透。それはそれで結果オーライだったと思う。でも20年代はアクションのとき。見せかけではなく本当のサステイナブルに取り組むことが求められるよね。今の若手は意識したり、宣伝したりせずとも環境に配慮した服作りがスタンダードになっている。やっぱりそんなデザイナーを応援したい。特にベサニー・ウィリアムズ(3)は社会問題にも取り組んでいる。彼女は毎シーズン違うチャリティプロジェクトとコラボレートし、ワークショップを開いたりして、収益の一部を寄付しているよ。
T 今年のLVMHプライズにいたアルド・マーティンズ(2)はメンズウェアのデザイナーなんだけど、すごくユニセックス。すべてニットウェアで、同じヤーンを使って、同じ工場で作っているから二酸化炭素排出量も少なくサステイナブルと言える。今後リサイクルヤーンなどを使ってくれたらもっといいと思う。
Y 今回のプライズだとヘルムシュテット(4)も好きだな。毎回ショーの冒頭でポエムを読み上げるストーリーテリングもいい。温かみのあるコミュニケーション。
T それってソーシャルメディアで発信できるしね。今の若手のつくり出すカルチャーはすごく魅力的だけど、大きなリテーラーのラックだと服が埋もれてしまうし、話題になりにくい。そんなときにSNSが役に立つ。
Y 既存のシステムがいかに儚いものかを思い知ったから、誰もが先行きに不安を感じているのも事実だよね。
T これまですべてが “fast” になっていたから、今は過剰に対する健康な時間であり、合理化の方法を考えるときにするべき。上海ファッションウィークの“クラウド・ファッションウィーク”ではアリババのEコマースプラットフォームのTmallとの連携で、ショーだけでなく前後のインタラクティブなコンテンツやライブブロードキャストを行なっていた。もしかしたらこういった取り組みに、未来のファッションのヒントがあるかもしれない。