全身で表現するドラムにスポーツ愛が重なった!

コーデュロイ素材のボールドなトレンチコートを主役に。表面にはワックス加工が施され、ヴィンテージのような佇まい。爽やかな笑顔は、出演した「オオカミくんには騙されない」でも多くの人を魅了した。「正直、昔はどこか恋愛リアリティーショーって薄っぺらいイメージがあったんです。でも実際は想像を絶する感動があって、毎日が学びと刺激の連続でした。何ごとも偏見や想像で判断してはいけないと改めて感じましたね」。
コート¥268,000、シャツ¥68,000、パンツ¥73,000/マルニ 表参道(マルニ)タイ¥19,000/アングローバル(マーガレット・ハウエル)ベルト/スタイリスト私物

楽しさや愛は音楽にのって伝播する。それを忘れずにいたい

「えっ、いいんですか?」

 ドラムを叩いてみてよ、と言うフォトグラファーを不安げな表情で見つめ、そうつぶやいた少年。しかし瞳の奥からは、隠しきれぬ喜びが眩く放たれる。

 見事なまでの快晴に恵まれた、11月上旬の葉山。富士山を望む高台のスタジオに、自前のドラムセットを持って現れたKaito。バンド、インナージャーニーのドラマーである彼を一躍有名にしたのは、夏に放送された恋愛リアリティーショー「オオカミくんには騙されない」だ。

「バンドが本格始動! というタイミングに新型コロナウイルスによる自粛期間が重なってしまい、ライブはもちろん、EPのリリースも延期に。10代最後の年に何も達成できぬもどかしさを感じていたとき、“オオカミくん”のオファーをいただきました。音楽とは違った、いい刺激をたくさん受けられ、感謝しています」

 ドラムセットの撮影場所が決まると、手際よく組み立て作業を開始。数センチ単位の微調整を幾度となく繰り返す、その手つきと表情は、まるで恋人を愛でるよう。そんな彼がドラムに初めて触れたのは、中学2年生のとき。

「小さい頃から抱いている、人生の目標があるんですよ。当初は大好きだったサッカーで達成したいと考えていたのですが、中学生のときに、自分の実力では無理だと気づいて。同時に、ずっと身近な存在であった音楽への関心がぐんと大きくなったんです。そしてたくさんのライブ映像を観るうち、自然と、ドラムに惹かれていた。両手両足を使ったアクロバティックな表現方法が、スポーツに対するパッションと合致したんだと思います」

 生活の中心にあったサッカーをやめ、軽音部に移籍。その潔さもさることながら、なんとドラムは独学のみで習得したというのだから、驚きはひとしお。

「サッカーで伸び悩んだ原因のひとつが、規則に縛られて、楽しめなくなってしまったこと。幸い、僕の学校の軽音部はかなりゆるくて。自分のペースで練習できる環境が心地よく、どんどんのめり込んでいきました」

 好きな音楽をかけて、と言われ、すかさず流したのはスピッツ。彼が最も尊敬し、影響を受けたというバンドだ。

「ラウドロックというジャンルが好きで、本場で学ぶべくボストンへ短期留学したのですが……まったく聞き取れない英語で、これまた一度も学んだことのない音楽理論を叩き込まれまして。英詩を聴くのも苦痛になったときに、たまたま聴いたのがスピッツの『シロクマ』でした。近くでそっと寄り添ってくれるような曲調に、心底、救われましたね。彼らのような存在になりたいし、いつか、共演できる日を夢見ています」

 以降、カバーバンドでの活動が続くも、18歳の誕生日を前に、このままでいいのか?と疑問を抱くように。そんなとき、インナージャーニーのボーカルで、高校の先輩だったカモシタサラからレコーディングのサポート依頼が舞い込む。

「彼女は当時、ソロで弾き語りをしていて。ギターの本多、ベースのとものしん、僕の3人が集められました。一度限りの演奏だったはずが、その音源が、バンドの甲子園として知られる『未確認フェスティバル』で最終審査まで残ったんです。それを機に、たくさんのライブハウスから招待していただくようになり。ライブをこなしながら、なんとなく活動が続き……だから、誰一人としてバンドを組もう! と明言していないんですよ(笑)。ちなみにバンド名は、練習の帰り道に、誰かがふと思い出したandymoriの曲名。流れに任せてきた僕たちだけど、共通しているのは、ボーカルを誇りに思う気持ち。彼女の作る曲と歌声を届けたい、という絆で結ばれているからこそ、ついにファーストEPをリリースできることが心の底からうれしい!」

 撮影終了後、微かに息を吸い、しなやかに揺れる腕からスティックが振り下ろされると、我々を包む空気が瞬時に澄み渡る。波動に重なった彼のドラム愛が全身に刺さるのを感じたとき、フォトグラファーの手に再び、カメラが握られた。

「僕にとっての音楽は、シンプルに、最高に楽しいもの。メッセージ性ももちろん大事だけど……それ以前に自分たちが楽しめていないと、伝えたいことも伝わらないと思うので。その信念だけは、いつまでも忘れずにいたいですね」

楽しさや愛は音楽にのって伝播する。それを忘れずにいたい。

 

Profile

Kaito
かいと●2001年4月13日、東京都生まれ。14歳のときにドラムを始め、2019年にバンド、インナージャーニーを結成。2020年12月、ファーストEP『片手に花束を』をリリース。また11月にNHK連続テレビ小説「エール」へ出演したほか、モデルなど多方面で活躍中。

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