Interview with Kenta Maeda

意識し合える相手との真剣勝負が一番燃えるし楽しい

もともと赤は好きな色。幸運を招くと言われたことも

 アスリートは人間としての限界、つまり自然という神に挑戦する存在だ。肉体的にも精神的にもギリギリのラインを越えようと挑み続ける情熱は、一流のアスリートなら必ず胸に秘めている。野球選手の前田健太さんもそのひとり。広島東洋カープでエースになり、2016年にロサンゼルス・ドジャースと契約してアメリカのメジャーリーグに挑戦。2020年からはミネソタ・ツインズでプレイ。海を渡っても変わらず燃やし続けている魂を、SPURのために赤い色で表現した。

―ふだん赤い色の服は着ますか?
「カープに入ったときに野球人生で初めて赤いユニフォームを着ました。しかも用具まで全部赤で、赤い色が身の回りにありすぎたから、逆にプライベートでは違う色を身につけていました。でもドジャースに入って青いユニフォームを着たら、最初すごく違和感があったんですよ。すっかり赤に慣れていたから『うわ、青か!』みたいな。野球で赤を着なくなると、日常に赤いものを少しずつ持つようになりました。もともと赤は好きなんです」

―赤を身につけるとテンションが上がり気持ちが入る、と言われています。
「赤を着ると自然とそういう気持ちになります。以前ある人から、赤が僕に合っているというか、ラッキーカラーだから身につけるといいことが起きる、みたいなことを言われたことがあって。だから後から考えると、カープは僕に合っていたし、いい結果を残せたのかなと。ドジャースのときも今もグローブやスパイクに赤色を入れていますし、野球をするときは基本的にどこかに赤を身につけるようにしています」

 

燃える気持ちと冷静さをうまくコントロール

 子どもの頃からスポーツが好きだった前田健太選手。当時の高校野球の名門PL学園で甲子園大会に出場し、ドラフト1位指名を受けてカープに入団した。ピンチでバッターを抑えたときは、マウンド上で「どうだ!」とばかりに声を上げて、熱い気持ちをあふれさせるのは、ファンにはおなじみの姿だ。

―試合に臨むとき、どのタイミングで気合を入れますか?
「試合が始まってマウンドに上がるときに一回気持ちが入ります。試合モードになるので闘争心が出てきますが、そこではまだ100%ではありません。ピンチの場面とか、ここは絶対に抑えないといけないというときに100%になります。で、抑えた直後にもっと出る。だから吠えたりガッツポーズしたりするじゃないですか。それが最高潮のときですね。そういう熱い気持ちは本能のようなもので、勝手に出てくることも、コントロールするときもある。僕は闘争心のコントロールがうまいほうだと思っています。感情を出すなと言われることもありましたが、個人的には出したほうがいいと思う。自分を鼓舞できるし、チームメートや見ている人にもそれが伝わる。子どもの頃からそういうピッチャーが好きだったし、自分もそうありたいと思います」

―メンタルコントロールの方法はどうやって会得したのでしょうか。
「自分が一番やりやすい方法がいいので、誰かのやり方は参考にしません。カープで一軍に上がった頃、試合当日は誰ともしゃべらないと決めていたことがありました。ピリピリ感を出しているのがカッコいいと勘違いしていたから。でも一軍に慣れてきたら、やりたくてやっていたわけではないし、しんどくなってやめました。その後は試合まではリラックスして、試合に入ったら自然とモードが切り替わるように」

―どうしてもスイッチが入らないときはどう対処していますか?
「わざと吠えたりして無理矢理入れます。ピンチじゃないのにガッと声を出して、それで乗っていけるように仕向ける。ほとんどないことですが、体に活を入れるために脚を思いっきりつねることもあります。最初だけ気持ちの入り方が弱いときに、自分を鼓舞する意味で。僕はスタジアムにお客さんがたくさん入っているほうが緊張感があるし燃えます。昨年は無観客でしたがそこは割り切って、スタンドの向こうにたくさんのファンの人が見てくれている、と思いながら投げていました」

―でも冷静さも必要です。
「試合中はできるだけ冷静でいようとします。気持ちが乱れたり諦めたりすると取り返しがつかないので。イライラするのは試合日以外でメディアとかに批判されたとき。絶対見返してやると思って練習します。落ち込むより、なにくそ精神で跳ね返すタイプです」

 

調子が悪いときほど頭脳を動かして集中

 4年間在籍したドジャースではワールドシリーズにも登板したが、先発投手に専念したいという強い希望から、昨年ミネソタ・ツインズに移籍した。どのチームでも勝利を目指すことに変わりはない。自分の納得のいく成績を残せば、チームも勝てると信じて、ひとりマウンドに立ち続ける。

―投手人生で最も燃えた試合は?
「たくさんあって思い出せませんが、日本時代だとやっぱり初勝利のときかな(2008年の北海道日本ハムファイターズ戦)。アメリカではワールドシリーズの場面。ピンチを抑えたときは吠えすぎて翌日喉が痛かった。そのくらい気合が入っていました」

―燃えすぎて失敗したことは?
「あります。体がキレているから『よし、今日はいける!』と調子に乗ると失敗します。その感情に任せて乗っていくと冷静さも失っていく。すると打たれたり負けたりする。だからそういうときほど冷静でいようとします」

―好不調はいつわかるものですか?
「試合に入ってからですね。ブルペンでいい感触のときもありますが、試合に入るとまた違うんです。気持ちの面でも、試合に入って『あれ? さっきまでよかったのに違う』となったら軌道修正に時間がかかってしまう。だから試合前の調子のよしあしはあまり気にせず、試合に入ってからの状態を一番参考にしています。ブルペンはブルペン、試合は試合と切り替えて」

―それは昔からできていましたか?
「昔は気にしていました。ただ勘違いもあります。気持ちよく投げていても、キャッチャーは駄目と思っているときがあるので難しい。キャッチャーがバシッといい音でキャッチングしてくれると、調子いいなと誤解してしまう。僕は勘違いしたくないので、キャッチャーに『悪いときは悪いと言ってほしい』と伝えています。悪いときは悪いなりのピッチングがあるので」

―不調のとき、メンタルはどう整えていますか?
「メンタル面は不調のときのほうがいいんです。調子が悪いと思っていたら打たれてもダメージが少ない。割り切って投げられるし、作戦を練ったり工夫をしたりして、そっちに頭が集中しているから逆に楽しい。悪いときのほうが燃えながらも冷静に考えています」

―体を動かしながら頭も動かすのは至難の業です。
「体を動かすのも頭です。頭でこうやって動かそうと考えているので。基本的には勝手に体が動くんですが、悪いときはそこにずれが出るわけじゃないですか。いつもどおりにやっているのにできないというのが不調のとき。狙ったところにボールがいかない、今日はいつもと違うとなったら頭で考え
て、『こういうふうに体を動かしたらあそこに投げられるかな』とか、少しずつ感覚を変えながらやっています」

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熱く燃えながら楽しむライバルとの勝負

 前田選手は1988年生まれ。同世代には田中将大や坂本勇人(巨人)、柳田悠岐(ソフトバンク)、秋山翔吾(シンシナティ・レッズ)、大野雄大(中日)など球界を代表するような、著名な選手が数多くいる。彼らと「88年会」を結成しチャリティ活動なども企画。最近では前田選手のYouTube Channel「マエケン チャンネル」にも、秋山や坂本がゲスト出演している。

―アスリートはライバルがいると燃えると言われますが、前田選手のライバルは誰でしょうか。
「まずは田中ですね。同級生で、僕より早く、プロ入り1年目から一軍で投げていて、メジャーに挑戦するのも先でした。常に先を越されてはいますが、彼や、ライバルという感じではありませんがふたつ上のダルビッシュさんがいたから、僕もアメリカに行きたくなったので。やっぱりライバルはいたほうがいいと思います。ふたりのことは長く知っているし、プライベートのつながりもあって、意識し合える存在です。彼らの試合は中継があったら必ず見るし、自分の試合と重なるときは後でハイライトを見ます。ふたりのピッチングは面白くて勉強になるんです」

―田中選手のことは子どもの頃から知っていたのですか?
「はい。僕は大阪出身で、彼は兵庫で最初はキャッチャーをしていました。中学時代に対戦したのを覚えています。ダルビッシュさんも大阪出身で中学のときから知っていました。すごく背が高くて球も速く、当時から有名でした」

―打たれたくないバッターは?
「やっぱり同級生は意識します。日本人選手だと坂本勇人です。同い年でデビューも近く、対戦も多かった。そういう特別な思いがないと、絶対打たれたくないという気持ちにはなりづらい。気合が入るしめちゃくちゃ楽しい。対戦後に『あの球はよかった』『あのバッティングはすごかった』という話もできる。新しい球種を覚えたら最初に投げたりもします。『あのボール、どうだった?』って聞きたいから」

―思い出の勝負を教えてください。
「カープ時代にダルビッシュさんと一度投げ合ったことがあるんです。2010年の交流戦でダルビッシュさんのいたファイターズと対戦しました。ふたりとも先発で、ダルビッシュさんが8回まで無失点、僕は9回までゼロに抑えました。ところが、その裏に代わったファイターズの別のピッチャーから、味方がヒットを打ってカープがサヨナラ勝ちしました。その試合は、ダルビッシュさんが失点しないので自分もゼロでいくしかないという気持ちで投げていて、その勝負がすごく楽しかった。いつもなら味方に点を取ってほしいと思うんですが、もう0対0でいいし、ずっと投げ合っていたい、と願っていました。そんな気持ちになったのは、後にも先にもこの試合だけです」

 

無駄な落ち込みはやめて自分の未来の姿を想像して

 気合の入った燃える場面自体を楽しむ。ギリギリの勝負の経験を積んだからこそ出てくる楽しいという言葉には、計り知れない重みがある。きっと卓越したアスリートという選ばれた人間だけが感じ取れる、神へ近づくような楽しさなのだろう。昨年はツインズで日米通算150勝を達成した前田選手。今季もチームの優勝、そしてワールドチャンピオンを目指して全力で戦う。マウンド上で冷静と情熱を行き来しながら。

―モチベーションが上がらないという人にどんなアドバイスをしますか?
「僕は落ち込んだときも決断するときも、自分の未来を想像するんです。モチベーションが上がらなくてダラダラした1年後と、気持ちを切り替えて充実した1年後の自分だったら、絶対後者のほうがいいじゃないですか。だからもったいないことをしないでほしい、と伝えたいです。僕自身、20歳くらいの頃に試合で打たれたり、練習に身が入らなかったりした状態が1カ月くらい続いたことがありました。負の連鎖でどんどんうまくいかなくなったとき、こんな気持ちで1日が終わるのはもったいないと気づいたんです。それ以来、反省はしますが無駄な落ち込みはせずに切り替えます。先を見て、よい自分を想像してほしいですね」

―今年の抱負を教えてください。
「もちろん、ワールドチャンピオンです。野球以外だと……僕も32歳なのでそろそろ渋い大人の男になりたいです。あと、モード誌初出演という新しい経験ができたので、みなさんに野球以外の面もお見せできるとうれしいです」

 

PROFILE
まえだ けんた●プロ野球選手。1988年大阪府生まれ。広島東洋カープ時代に投手三冠タイトルを受賞、沢村賞も2度受賞した。現在ミネソタ・ツインズに所属。背番号は18。得意球はスライダー。マエケン体操も有名。

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