時代の開拓者がまとう情熱の色
昨年の秋冬シーズンより、トッズのクリエイティブディレクターに就任したヴァルター・キアッポーニ。2021-’22年の秋冬コレクションではクラシックなボウタイブラウスも、モダンにアップデートされた。大胆に揺れる長めのボウが備わり、生命力あふれる"赤"に染められた一枚は新しい時代を強く生き抜くための鎧となる。
緋色が照らす新時代
好奇心旺盛で、インディペンデントなマインドに。エナジェティックな色をクローゼットに投入して
「個性的な女性が身にまとう中世の赤」
スーティン《赤いブラウスの女》
Chaïm Soutine "Woman in Red Blouse"
シャイム・スーティンも「エコール・ド・パリ」派の画家で、モディリアーニの親友だった。スーティンは独創的で力強い作風で知られ、アメリカの抽象表現主義に強い影響を与えた画家として有名だ。人物、静物、風景など、どれも絵柄がゆがんでおり、荒々しいタッチで描かれているが、そこにはすべてを突き抜けた美しさとユーモアがある。
スーティンは1893年にロシア帝国(現在のベラルーシ共和国)の貧困家庭に生まれ、20歳でパリへやってきて、モンパルナスのボヘミアン画家の仲間入りをした。モディリアーニの紹介で絵を見にきたアメリカ人富豪でコレクターであるアルバート・C・バーンズが「ゴッホより遥かに重要な画家」と60点をまとめ買いしたことから、一気に成功の階段を駆け上がった。
彼は強烈な色を好んだが、特に赤には特別な想いを持っており、風景画にも赤い家や赤い階段などをよく登場させた。この《赤いブラウスの女》からもわかるように、スーティンの赤はからっと快活な赤ではなく、中世世界の絵画を連想させる少し濁った深い赤だ。口紅もブラウスの色にマッチしている。さらに不思議なことに、スーティンが描く絵は、たとえモデルが男性で顔がどれだけ歪んでいても、唇は常に赤く美しく彩られている。
当時、ヨーロッパは第一次世界大戦で払った大きな犠牲への反動で、旧来の価値観を否定し、女性たちはよりいっそう、社会への参加を目指した。活動的で機能的なファッションが支持を得て、ブラウスの形、色そして素材も、どんどん多様になっていった。
この絵はスーティンのファンだった音楽家ジョージ・ガーシュウィンがパリで購入した作品で、ガーシュウィン死後、家族がメトロポリタン美術館に寄付した。