1 メゾンの着想源、その秘密

モードの世界も"温故知新"! 過去のアーカイブスや、アイコン、作品を参照し、さらなる進化を遂げたコレクションが多数登場

Louis Vuitton ×「Irma Vep」

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ジャケット¥652,080・ワンピース¥501,600・靴¥213,400(すべて予定価格)/ルイ・ヴィトン クライアントサービス(ルイ・ヴィトン)

香港の俳優、マギー・チャンがブラックのボディスーツに身を包み、パリの街を駆け巡る映画『イルマ・ヴェップ』(’96)。彼女の装いにインスパイアされた、ダークロマンスなムードが漂うランウェイより。シルバーの糸がきらめくニットドレスには、ボクシーなシルエットで仕立てたジャケットを合わせて。闇夜に紛れ、奔走するミステリアスな女性像を描く。

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カルトムービーをリメイクした新ドラマの衣装制作が出発点

ウィメンズ アーティスティック・ディレクター、ニコラ・ジェスキエールは、オリヴィエ・アサイヤスが手がけるHBO新ドラマ「イルマ・ヴェップ」でキャストの衣装をデザインしており、今季はその経験に着想を得たという。1996年に公開された同監督の映画が元になっている本作は、サイレント映画『レ・ヴァンピール 吸血ギャング団』(1915)のリメイク作の撮影現場であるパリが舞台。主演はブランドのアンバサダーであるアリシア・ヴィキャンデルで、アメリカの映画スター、ミラ役を務める。コレクションでは、常に古風な雰囲気をまといながら、時代のドレスコードに合わせて時空を超えた旅をするヴァンパイアの姿を表現。ロングケープ(1)やダークムード漂うドレス(2)などが登場した。

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ドラマの着想源、オリヴィエ・アサイヤス監督の『イルマ・ヴェップ』(’96)。ドキュメンタリータッチで描かれる今作でマギー・チャンは本人役を演じた

Coach × Bonnie Cashin

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3 1960年代に撮影された、「ターンロック」や「キスロック」が配されたバッグを持つモデル
4 アトリエで作業するボニー・カシン(右)
5 「キスロック」をあしらい、環境に配慮した「カシン キャリー トート」。レスポンシブルレザーや、野球のグローブをアップサイクルしたものも。バッグ¥101,200/コーチ・カスタマーサービス・ジャパン(COACH)
6 「ターンロック」が施されているミニドレス
7 アーカイブスを参照してデザインされたコートを羽織って

初代デザイナーのシグネチャーをアップデート

コーチのショーは「A Love Letter to Bonnie Cashin」というテーマで制作された。ボニー・カシンとは、1960年代に活躍したコーチの初代ヘッドデザイナー。ショッピングバッグに着想を得た「カシン キャリー トート」をデザインし、コンバーチブルカーの留め具が元になった「ターンロック」をバッグに取り入れて、アウターや衣類のボタン代わりにも使った。さらに、「キスロック(がま口)」をバッグの外ポケットに。現在のクリエイティブ・ディレクターであるスチュアート・ヴィヴァースは今季、そのカシンのアーカイブスに90年代のストリートファッションを融合した。「当時、ボニー・カシンが描いたカラフルで、アップビートなオプティミズムをセレブレート。同時に、私たちが今生きている時代にも目を向けて、よりよい、より明るい未来へ願いを込めてデザインしました」と語っている。

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Loewe × Jacopo da Pontormo

不安な時代が生んだマニエリスムに共鳴して

ヤコポ・ダ・ポントルモは「マニエリスム」第1期とされるイタリア・フィレンツェの画家。「マニエリスム」とは、古代ギリシャ・ローマ美術に憧れを持つ、古典主義的なルネサンス様式のルールをずらし、巨匠たちを超えようとした美術様式を指す。自然の模倣を捨てた人工的な色彩、伝統的な宗教的図像の枠をはずれた奇抜な構図、引きのばされ、ねじれた人体、そして視線と表情による人間の感受性の表現が特徴だ。そこには各々のアーティストの自由なイメージで構築された、耽美的な世界が広がっていた。こうした「マニエリスム」は、コロナ禍の現代にも通ずる、政治的に不安定な時代に生まれている。クリエイティブ ディレクターのジョナサン・アンダーソンは当時の芸術家のような心境に至ったのかもしれない。ねじれたフォルムやドレープを駆使し、従来のファッションのルールを逸脱するような服が続いた。

8 ヤコポ・ダ・ポントルモ(1494-1557)の代表作のひとつ、《受胎告知》(1528)の一部。フィレンツェ、サンタ・フェリチタ聖堂に収蔵。聖母マリアはねじれた体勢で、肌が青で彩色されている
9 ポントルモの色彩を彷彿とさせるルック。ドレープを駆使して抽象的なフォルムを形作っている
10 メタルプレートを組み込み、さまざまな色をにじませたようなドレスには非現実的なムードが漂う

 

Saint Laurant × Paloma Picasso

ムッシュに影響を与えたあのミューズに再びフォーカス

ジュエリーデザイナー、アーティストとして名を馳せているパロマ・ピカソは、画家・パブロ・ピカソの娘。彼女は若い頃フリーマーケットで見つけた古着を用いて、サイレント映画のトップ女優、グロリア・スワンソンを思わせる1940年代風の衣服をまとっていた。パリのディナーパーティでその姿を見て大きな衝撃を受けたのが、ムッシュ イヴ・サンローラン。彼女のスタイルを元に、’71年、かの有名な通称「スキャンダル コレクション」を生み出した。40年代のムードが漂うミニドレスや、プラットフォームシューズ、パッド入りの肩のライン、ファーコートなどが登場する。クリエイティブ・ディレクター、アンソニー・ヴァカレロもまた彼女に魅了されたようだ。パロマのシグネチャーであるビビッドな赤や、大胆なアクセサリー使い、マニッシュなアイテムをフェミニンに着こなす装いを参照して新作を作り上げた。

11 クラシックなジャケットを素肌の上に羽織る大胆な着こなし。クラッチバッグをウエストに差し込むのが今季を象徴するスタイルのひとつ
12 彼女が愛したビビッドなレッド、通称「パロマレッド」のドレス。大ぶりのアクセサリー使いも彼女らしい装い 
13 パリのナイトクラブ「PALACE」で語り合うムッシュ イヴ・サンローランとパロマ
14 ポーズをとるパロマ。真っ赤なシャツに構築的なジャケットを合わせ、アクセサリーをふんだんにつけて

text: Itoi Kuriyama