10 進化するアジアのモード

ますますユニークに、存在感を際立たせるアジアのコレクションシーン。その現在地について、目撃者に話を聞いた

Shanghai by Maggie Lee

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1 2021年LVMH プライズファイナリストに選出。閑静な住宅街で2日間にわたりインスタレーションを開催した。リラクシングなムードをシグネチャーのニットウェアで表現する
2 パリから2019年に帰国後、ブランドを立ち上げ。東洋文化に着想を得た「黒蘭」をテーマに、湖畔に位置する中国航海博物館でショーを発表した
3 中国の伝統文化を継承するために建てられた歴史的建造物を舞台に、ブランド設立から11シーズン目を記念したコレクションを発表。「陶器」の制作プロセスにインスパイアされ、今回染色など新たな素材開発を試みた

中国ヘリテージがロマンスと出合うとき

マギー・リー●上海・杭州拠点にコンサルティング会社「NEW CAPSULE」を運営する。現在、新しく立ち上げるファッションブランドの店舗を準備中。

「自国の伝統文化とロマンティックなムードの掛け合わせが印象的」と語るマギー・リーさんの注目ブランドは、ルイ・ジョー(1)、ジャック・ウェイ(2)、サミュエル・グイ・ヤン(3)。「多くのブランドが歴史的な建造物を舞台に、日常におけるロマンティックな瞬間を切り取っています。これまでも伝統文化はトレンドのひとつでしたが、よりオーディエンスの心に響く表現が高まってきています。たとえばジャック・ウェイは、中国の伝統工芸品に使われるモチーフを刺しゅうやプリントなど現代的な素材でモダンに昇華。サミュエル・グイ・ヤンは70〜80年代のレトロさをまとい、陶芸のプロセスに注目しています」。若年層の伝統文化への注目度は、ヴィンテージの陶器や家具がトレンドアイテムになっていることからも感じられるという。「ルイはクラブのコミュニティを中心に、徐々に多様性の先駆者として若者の支持を広げています。そういった若手ブランドは、ここ数年安福路、武康路、銭塘といった都市に集まり、団結して価値観とビジネスどちらも拡張しようとしているのです」。中国の長い歴史の中で受け継がれた文化は、今を生きる若者の琴線に触れ、未来の価値観を更新する刺激として息を吹き返しているのだ。

Tokyo by Shunsuke Okabe

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4 リブニットやハリのあるメッシュ素材を用いて仕立てたダイナミックな造形美が特徴的。エネルギッシュな原色調のカラーリングが目を引いた
5 ヨシオクボは5年ぶりの凱旋ショーを開催。七夕飾りのようなカッティングを施したアームピースが、着こなしにエッジを加える
6 D-VECは得意とする機能的なレジャー生地を用い、モードに再構築した。ロングスリーブの意匠など、デザインにひねりを加えて

東京ハイブリッドはリアルショーで加速する

おかべ しゅんすけ●海外誌のほか、SPUR.JPでも活躍するファッションエディター。YouTubeチャンネル「シュプールTV」では、東コレ密着取材動画も担当。

例年コンサバ色の強い東京。そんな中、岡部駿佑さんはリュウノスケオカザキ(4)に熱視線を送る。「振り切ったデザインで圧倒的なインパクトを残しましたね。東京藝大出身で、ファインアートの文脈からファッションを生み出しているのが面白い。性別や人種を超える多様なモデルの個性に合わせて、衣服が躍動する。これぞ、リアルショーの醍醐味です。別の土俵からのモードへの参入といえば、D-VEC(6)にも注目。釣り用品を扱うDAIWAの派生で、アウトドア要素をエレガントに昇華しています」。フィジカル発信の意味を再考していたのは、YOSHIOKUBO(5)だ。「『デジタルで補完できない要素が絶対にある』という言葉が記憶に残ります。来場者にはヘッドホンが配布され、サイレントディスコのような没入感で揺れ動く衣服を目の当たりにする体験が新鮮でした」。リアルなランウェイの魅力に立ち返りつつ、新たなハイブリッドのあり方が、未来を予感させる。

Seoul by Jongseok Lee

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7 今季のテーマに掲げられた「虹」を象徴する、水玉模様のシースルードレス。レイヤードすることでさまざまな表情を演出する。ポストコロナへの希望を感じる色彩の豊かさも特徴のひとつ
8 植物性のビーガンレザーを用いたコートは、鮮烈なレッドカラーで。歴史的な宮殿の厳粛さと、衣服の大胆さが調和したコレクションだ
9 廃棄されたウェディングドレスの生地を用い、新たな衣服として生まれ変わらせた

"ソウル・パワー"がデジタルで世界を巡る

イ・ジョンソク●韓国のファッション・流通専門媒体「アパレルニュース」の元記者で、現在はファッション・ジャーナリストとして活躍する。ソウル在住。

ソウルは3度目のデジタル開催。舞台となったのは、慶熙宮(キョンヒグン)をはじめとする名所の数々だ。「今シーズンの核心にあったのは、韓国的な要素と持続可能性への挑戦ではないでしょうか。たとえばC-ZANN E(7)は、チョゴリなどの韓国服を、西洋にも通ずるモダンな日常着として再構成しました。また、VEGAN TIGER(8)は韓紙のような原料を用い、環境を破壊しない手法で装いを提案しています」。印象的なのが、C-ZANN Eのデザイナー、イ・ソジョンの発言だ。「『伝統は受け継がれるべきだが、ファッションは時代に沿って変化を遂げなくては』という見方が興味深い。過去から現在、そして未来への橋渡し的なムードを感じます。ULKIN(9)はアップサイクルを得意とするブランドで、収益金の一部を新進作家の支援に充てています」。K-POPやドラマ人気で"ソフト・パワー"が強まる中、自国のアイデンティティとともに、将来への社会的責任を誠実に見つめ直している。

interview & text: Yoshiko Kurata (Shanghai) coordination: Shinhae Song 〈TANO International〉(Seoul)

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