パリでも新型コロナウイルスに対する厳戒態勢が続く中、ちょっと楽しい話題を。3つのモード展が幕を開けました。いずれも夏(または秋)までと会期が長いので、パンデミック終息の暁にはぜひ訪れたいもの。
まずはイヴ・サンローラン美術館パリでの、ベティ・カトルー展。ベティは言わずと知れた、ムッシュ・イヴ・サンローランのミューズです。1967年に出会った二人は氏が他界するまでずっとインスパイアし合い続け、氏は彼女を“自分の分身”と呼んだ程でした。本展は昨年、ベティが自身のワードローブから300点余りものイヴ・サンローラン作品をピエール・ベルジェ=イヴ・サンローラン財団に寄贈したのをきっかけに、アンソニー・ヴァカレロをキュレーターに招いて実現。現サンローランのクリエイティブ・ディレクターである彼自身も、アンドロジナスなベティの大ファンなのです。2019年秋冬のサンローランのランウェイでは、ブロンドに黒のサングラスのモデルを数人登場させたことで、彼のベティへのラブ・コールは明らかでした。またムッシュ・サンローランへのオマージュとして、最新のショーでは、氏の元アトリエと同じベージュのカーペットをフロアに使用したとか。本展では寄贈品から、特にベティらしいサファリルック、ジャンプスーツ、トレンチ、スモーキングなどの50点を展示。また大御所カメラマンによる彼女の写真の一連も必見です。
一方、大掛かりな改装を終えて再オープンした装飾美術館では、ハーパース・バザール展がスタート。年代を追ってみせる本展は、1867年創刊当時のイラストや、そこに描かれていたドレスの展示から始まります。ハーパース・バザールと言えば、カーメル・スノウ。1947年のクリスチャン・ディオールのデビュー・コレクションを“ニュー・ルック”と名付けたのが、当時の編集長の彼女でした。また、オードリー・ヘップバーンがモデルになるまでを描いた映画「パリの恋人」(1957年)に登場するモード誌編集長の役は、スノウがお手本だとか。2フロアに渡る展示ではこんな逸話を衣装や写真、動画で見せたり、近年の表紙や歴代のアートディレクターの仕事をまとめたり。ここでは楽しみながらモードのお勉強ができるのです。
楽しい展覧会と言えば、アール・デコ様式の建造物内で開催中の、クリスチャン・ルブタン展。本展タイトル「レキジビショニスト」が”展覧会”と”自己顕示家”をかけた造語ときいただけで、クリスチャン特有のユーモアが期待できます。なので30年近くに渡るキャリアの集大成は、単なる回顧展ではなく、めくるめくファンタジー・ワールド!アイコニックなスティレットはシンデレラをおもわせるクリスタルの彫刻で表現されたり、ヌードカラーの濃淡の数足が、観覧車のごとくくるくるとまわったり。各部屋で演出はかなり異なり、ルブタンが大好きなブータンの寺院を着想源とした“劇場”では、ホログラムでのディータ・ヴォン・ティーズのショーも上映中。そして特筆は、なんともよくできた本展専用のウェブサイト。当面は海外旅行おあずけでも、まずはヴァーチャル・ビジットを楽しんでみては?
*フランスの美術館は全て、国のコロナウイルス感染拡大防止対策のため休館中(3月17日現在)。再開日については各施設のURLを参照して下さい。
Text: Minako Norimatsu