10月1日
2011年春夏のファッション・ウイーク(以降FW)4日目は、ケネス・イズのプレゼンテーションからスタートしました。会場は現代アート美術館パレ・ド・トーキョー内、デザイナー協会主催の若手ショールーム「スフェール」の一角。昨年のLVMH賞ファイナリストの一人であり、先シーズン初のショーにナオミ・キャンベルが友情出演したことでも注目されるケネスは、ナイジェリア出身。故郷の手仕事を大切にしたカラフルなストライプが彼のシグネチャーです。今日も小雨続きだけれど、色の爆発を見て明るい気持ちに。
パレ・ド・トーキョー裏手の階段を降り、クロエの会場へ。普段はスケーターで賑わうこの広場に設置された客席の前には、3つの巨大なスクリーンがそびえ立っています。ショーが始まると画面には、各ルックの異なるシーンのライブストリームが。アートへの造詣が深いナターシャ・ラムゼイ=レヴィが今回取り入れたのは、60〜70年代に平和や社会階級格差撲滅に貢献したシスターでアーティストのコリータ・ケントによるグラフィック・ワーク。それらを緩やかなシルエット、優しい色使いと融合させたフェミニンなコレクションは、親密な雰囲気で展開されました。
この後は近所のカフェでY/Projectデジタル・プレゼンテーションを鑑賞。ちなみに同ブランドのグレン・マーティンスは、今後ディーゼルでもクリエイティブ・ディレクターを兼任することがFW直後に発表されました。
そしていざ、ロジェ ヴィヴィエへ向かいます。毎回趣のある邸宅を貸り切って開かれるプレゼンテーション、題してホテル・ヴィヴィエは今回、サントノレのアトリエ内に場所を移してホテル・ヴィヴィエ・シネマテークに。小さな上映室で見られるのは、5部から成る数分の視聴者参加型映画。ホラーからサスペンス、ファンタジーまで全く異なるタイプの5つのエピソードそれぞれの最後には、白/黒?右/左?と、二者択一を迫られます。しかも間違えたらまた出発点に逆戻り、という罰ゲーム付きで、TVドラマ「ブラックミラー」風で手に汗握ります。上映室を出て展示会場を進むと、通路はまるで可憐な花が咲き乱れる野原。幼い頃から植物学に興味があったと言うクリエイティブ・ディレクターのゲラルド・フェローニは、ロックダウンをイタリアのとある島で過ごしたことをきっかけにますますガーデニングに熱を入れ、草花にとてもインスパイアされたそう。なので、花の絵が飾られた最後の部屋には花モチーフの靴やバッグが溢れています。そしてこの部屋が、フィルムの最後に披露された”トレジャー・ルーム” であることにビジターは気づくのです。なんとイキな設定でしょう!
夜はパレ・ロワイヤルの広場にて、イザベル・マラン。待ち時間に裏ではローラー・フィギュアスケートが進行中で、何やら特別な仕掛けの予感です。80年代のヒット曲とともにメンズ/ウイメンズ・ミックスのショーがスタートすると、現れたのはパフォーマンス・グループ(La) Hordeの面々。誇張されたラッフルやメタリック素材を多用した溌剌セクシーなルックを纏い、何事もなかったように闊歩するモデルたちを、ダンサーたちは追いかけたり取り囲んだり。とにかく躍り狂いながら広場を所狭しと駆け巡ります。フィナーレに現れたイザベルも、最高に乗っていた様子。
コロナ禍だからこそ?趣向を凝らした見せ方の数々に興奮冷めやらぬまま、自宅への帰途につきました。
10月2日
午前中はロエベ。朝10時のShow on the Wall解禁とジョナサン・アンダーソンによるルックの説明Collection Walk Throughから成るデジタル・プレゼンテーションで予習をした後、すぐにギャラリー・ペロタンで開かれた展示会へ。アーティスト、アンセア・ハミルトンによるウォールペーパーで覆われた会場では、ジョナサン特有のハンドクラフトを駆使したルックの数々が展示され、コレクションにまつわるドキュメンタリーの上映もあり、アートとファッションの距離を縮め続ける彼の新しいアイディアに唸ったひと時でした。
午後に、スマートフォンの画面で検索しているかのように見せたニナ リッチのデジタル・プレゼンテーションを見た後、夜に見たヨージ ヤマモトのショーは、それとは対照的に至極厳か。黒と白のみで展開されたルックの数々はいずれもまるで彫刻のように自由な発想で象られ、演出に頼らない服の本来の美しさがにじみ出ています。客席では現在展覧会を開催中の写真家、ヨージを頻繁に撮っていたサラ・ムーンもショーに見入っていました。ここで静謐な気持ちになって、本日は終了!
10月3日
デジタル・オンリーの本日は、まずヴィヴィアン・ウエストウッドから。パンク・ムーブメントのドキュメンタリー仕立てのムービーと動画ルックブックを交錯させた作りが面白くて、何度も見てしまいました。午後は、参列叶わなかったエルメスのショーを、ライブ・ストリーミングで。ミニマルかつ研ぎ澄まされたシルエットで、ナデージュ・ヴァネ・シビュルスキーの底力がアピールされたかのようなコレクションを演出したのは、アーティストのクラウディア・ヴィーザーによる鏡と壁紙を融合させたセットです。ルックの詳細は次回の展示会レポートに譲りましょう。夜のライブ・ストリーミングは、セーヌ沿いで開かれたアミ パリのメンズ/ウイメンズ・ミックスのショー。ゲスト席は船上、ランウェイはセーヌ河畔。いわゆる“パリス・バイ・ナイト”体験を自宅のソファでワインを飲みながらシェアできて、またもや御座敷ファッション ウイークもいいとこある、とうなずいた夜でした。
*各プレゼンテーション・ビデオの視聴やストリーミング再生は、メゾン名をクリック
*ルック一覧は同サイトのCollectionセクションにて閲覧可能
Text: Minako Norimatsu
パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/