2020.10.23

バレンシアガのフィルムからルイ ヴィトンのショーまで、徹底解説! 21SSパリコレ 4/4

10月4日

 2021年春夏のファッション・ウイーク(以降FW)4日目は、バレンシアガのフィルムから。多種多様な男女が夜のパリをサングラスをかけて歩くシーンの連続は、ミュージック・クリップさながらの作りです。終始流れるのは、コリー・ハートによるSunglasses at night ('84年)をデムナ・グヴァサリアのパートナーであるミュージシャンBFRNDがリミックスした、エレクトロ・ポップ。この曲を早速Shazamしてプレイリストに入れ、外出準備。

パリコレ初参加のガブリエラ・ハーストのショーは、左岸のボザール(高等美術学校)にて。モノクロームでミニマルなレザーのルックの一連に始まったショーは、次第に貝殻ビーズやはしごレースを組み込んだドレス、クロシェ編みなどクラフトにシフト。中庭を囲む回廊を使い、特別な演出に頼らないランウェイでは、彼女の服の力強さが見て取れました。

次はセーヌを渡り、ヴァンドーム広場のスキャパレリショールームへ。クリエイティブ・ディレクターのダニエル・ローズベリー自身による、プレタポルテ・コレクションの紹介です。バッグやジュエリーでは星座、ロブスター、顔のパーツ、パッドロックなどエルザ・スキャパレリが愛した要素を取り入れ、ウエアではエッセンシャル・アイテムを大胆なカッティング、最高の素材で。中には彼自身のドローイングを元にしたプリントも見られます。

エルメスの展示会では、ビデオで把握しきれなかったディテールや小物をチェック。例えばランウェイの演出で際立ったギリシャ彫刻の写真は、ウエアに見る背中の円形カットと、女性の体の美しさの強調と言う点でリンクしているのが、手にとって服を見ることで納得できました。

この後は雨に打たれつつ、パコ ラバンヌのショーへ。真っ白なスペースにはミラー・シーケンスのカーテンが設置され、招待状に同封されたシルバーのマスクをつけたゲストも多く、未来的な雰囲気です。ランウェイではメタル・メッシュからスリップドレス、制服まで、ジュリアン・ドッセーナのレイトモチーフが重ね着でうまく編集されていました。

そして帰宅後ニュースをチェックすると、なんと高田賢三氏が新型コロナウイルスで逝去されたとか……。FW中の訃報だったこともあり、ソーシャルメディアには彼へのオマージュが溢れています。一つの時代が終わったと感じた一夜でした。


10月5日

まずは自宅にて、昨日解禁になったものの未読のフィルムのチェックです。トム・ブラウンは2132年に月で開かれるオリンピックの開会式と言う楽しい設定。一方アリックスのマシュー ・M ・ウィリアムズがクリエイティブ・ディレクターになって初シーズンのジバンシィは、意外とルックの写真のみ。 午後いくつか展示会を回った後、夜は自宅でロックのデジタル・プレゼンテーションを。デザイナー、ロック・ファンの新境地なのか、モデルたちが峡谷をさまよい歩くようなフィルム「ナイト・ワンダラーズ」は、いつになくハードでダーク。

10月6日

いよいよ最終日。まずはシャネルです。出かける前にはこの朝公開されたばかりのイネス&ヴィノードによる動画で予習を。ハリウッドとパリを繋げたと言うティーザープレヴューを見て、しばしヌーヴェル・ヴァーグ映画の気分に浸ります。そう言えば、インビテーションも“ハリウッド”風(写真参照)。折しもオープンしたばかりの「ガブリエル・シャネル」展では女優たちが着たピースも数多く展示されています。こう辿っていくと、ショーのテーマは映画?と予測しつつ会場のグランパレに着くと、ここにもインビテーションと同じCHANEL看板が。予測からほど遠くなく、コレクションはメゾンのミューズである女優たちへのオマージュでした。ただしレトロやレッドカーペットではありません。アイコニックなツイード・ジャケットはサイクリングパンツ、ジョギングパンツと組み合わせて。ネオン・ピンクやファンキーなプリントも取り入れられ、現代の女優たちのデイリー・スタイルが展開されました。

午後はミュウミュウ。ミラノでゲスト無しで開かれたショーの配信です。バスケットボール・コートの様にラインが描かれたキャットウォークにはエル・ファニングからソコまで空想ゲストたちの顔を映し出す画面の数々が。サッカー観戦者たちの歓声(音響)に続き、Automaticのインディー・ポップが流れると、トップバッターはケイト・モスの娘、リラ・モス。ルックはどれもスポーティ&ガーリーなミックス&マッチで、フィナーレではミウッチャ・プラダが珍しくピンクのパンツスーツで登場しました。続いては、メゾン マルジェラのS.W.A.L.K.2と題してのCo-Ed(メンズ&ウイメンズのミックス) コレクション。ニック・ナイトよる44分に渡るフィルムは、フィッティング風景を交えてクリエイションのプロセスを語るジョン・ガリアーノを捉え、時にはタンゴを踊るモデルたちに接写し、臨場感溢れるドキュメンタリーに仕上がっていました。

夕方のショーは、ルイ ヴィトン。迫るアメリカ大統領選挙への関心からか、 “Vote”メッセージのスウェットでスタートしたショーはジェンダーレスをテーマに、いくつかメンズも登場。ベーシック・アイテムやスポーツウエアが構築的、近未来的に昇華されました。ちなみに会場では動画の投影はなかったのですが、同時配信では映画「ベルリン 天使の詩」(ヴィム・ヴェンダーズ監督、1987年)の抜粋がオーバーラップ。ところどころ、モデルが背景から浮き出たり、360度回転のドローン映像が差し込まれたり、まるでアートフィルムです。再生で見ると、実際のショーとはまた別の体験ができました。そしてこの映画、原題を直訳すると、“欲望の翼”。コロナ禍で制約が多い現況において自由への渇望を訴える、ニコラ・ジェスキエールなりのメッセージだったのでしょうか。今シーズン、ヒューマニティや優しさ、自然回帰などをテーマとしたコレクションが多かった中で、ルイ ヴィトンは私たちに大切なことを間接的ながらより強く訴える、フィジタル(フィジカル&デジタル)FWの終幕にふさわしいコレクションでした。

*各プレゼンテーション・ビデオの視聴やストリーミング再生は、メゾン名をクリック
*ルック一覧は同サイトのCollectionセクションにて閲覧可能 

 Text: Minako Norimatsu

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

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