新アーティスティック・ディレクターによる、モワナの新バッグ一連。

フランスで最も古い歴史を誇るバゲージ・メーカー、モワナが新しいアーティスティック・ディレクター、ニコラ・ナイトリーを迎えてこの春生まれ変わりました。イギリス人のニコラはマルベリーを経て2004年以降はルイ ヴィトンのレザー・グッズ責任者だった、バッグのエキスパート。彼はこう語ります。「モワナは、至極洗練されたものづくりによってうるさい顧客のどんな要望にも正確に応えると言う点で、言わばバゲージとレザーグッズのオートクチュール」。単にアーカイブにデザイン・ソースを求めるのではなく、メゾンのDNAを深く理解しつつその哲学をモダンなデザインに置き換える、それが彼の取り組み方です。

ここで、1849年に遡るモワナの歴史をかいつまんでお話ししましょう。創業者は、ポーリーヌ・モワナ。女性として初めてラグジュリアスなバゲージの世界で指揮をとった、女性実業家&デザイナーのパイオニアです。当時の上流社会のステイタス、車での旅に焦点を当てた彼女のものづくりでは、車の屋根のラインに沿う、底辺が緩やかなカーブを描くトランクが画期的でした。また彼女の発案によるモワナのシグネチャーは、バリエーション豊富なカラーパレットから選んで車とマッチングの色でトランクをオーダーできるという、究極のパーソナライゼーションです。ニコラをインスパイアするのは、ポーリーヌ・モワナの革新さ。さらに、メゾンが抱える職人たちの、当時から今に伝わる技術。だからニコラは自身のクリエイションを「職人とのコラボレーション」と表現しています。

この春に発表された彼のファースト・コレクションの新作での筆頭株は、Le Floriです。ポーリーヌ・モワナのモダンさ、自由さ、アクティブさへのオマージュだと言うこの型は、丸みを帯びたコロンとした形が特徴的。取り外し可能な幅広ストラップとハンドルでのツーウェイで、クラスプは車に顕著なメカニズムを象徴しています。もう一つの新作Le Limousineは、1902年作の同名のトランクが出発点だそう。そしてイヴニングバッグとしても使えるミニチュア・トランク2点のうちなんとも愛らしいのは、La Wheel。タイヤを意味するこのバッグは、4年前に発表されたタイヤ収納用のトランクがひな型です。もう一つは、カチッとしたLa Little Suitcase。ポーリーヌがトランクに旅券収納用のポーチを加えていたことから、いずれもマッチング・ポーチ付き。この2点の素材の原点は、1920年のアンリ・ラパンによるモノグラムです。今見てもモダンなアール・デコのグラフィックは、さらに立体的にアップデートされました。モダンに生まれ変わったアイコニック・ピースも含めての新作の一連は、モワナ本店に入荷したばかり。ちなみにフランスでのバックトゥノーマルへの第一歩を記念する519日には、必需品以外のお店が、つまりモワナもやっと再オープンの運びです。
Moynat 348, rue Saint Honoré 75001 Paris

 

Text : Minako Norimatsu

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ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

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