9月1日。やっとフル再開したパリ・オペラ座の新シーズン幕開けを飾ったのは、旧ユーゴスラビア出身の前衛ア―ティスト、マリーナ・アブラモヴィッチ。鑑賞者を巻き込みつつ自身の身体的限界に挑戦する、と言う手法でパフォーマンスの新境地を切り開いた、アート界のアイコンです。これまでで一番知られているのは、2010 年にニューヨ―ク近代位美術館で開催された、「The Artisti is Present」。736時間30分もの間美術館の一室に座り続け、訪れた人々と一人ずつにらめっこをすると言う前代未聞の企画でした。ジャンルと言う既成概念にとらわれない彼女は68歳を迎えた2013年には、バレエの世界にも進出。「ボレロ」のコンテンポラリー版では、ステージの背景は斜めに設置した鏡、床には叩きつける水の映像、と言う演出で、パリ・オペラ座にて耽美的な世界を繰り広げました。前衛振付師シディ・ラルビ・シェルカウイ、そして衣装を担当した友人のリカルド・ティッシとの共作です。
彼女が最新作7Deaths of Maria Callasで主題としたのが、ディーバと呼ばれた歴史に残るオペラ歌手、マリア・カラス。14歳で彼女の歌声を初めて聞いた時からカラスに取り憑かれ、その幼少期のトラウマや感情的な性格に自身との共通点を見出したとか。自らのアート・コンセプトとカラスの個性、そして彼女が歌った悲劇的なアリアの融合を狙って行き着いたのは、象徴的な7つの題目のクライマックスの集大成。7つのヒロインとは、結核で早逝する椿姫、絶望の末に投身自殺を遂げるトスカ、夫オテロに絞殺されるデスデーモナ、傷心のうちに自害する蝶々夫人、嫉妬に狂った元恋人に刺されるカルメン、「ルチアあるいはある花嫁の悲劇」で正気を失い自身に剣の刃を向けたルチア、そして勇敢に火刑台へと向かう巫女、ノルマ、と言った面々です。こうして見ると、どれもまるで三面記事を賑わすような、恋愛のもつれによる修羅場!それこそ、オペラの悲劇なのです。