45メゾンのデザイナー達の愛に溢れたアルベール・エルバス追悼ショー

9月27日から9日間に渡り、1年ぶりにほぼフィジカルで開かれた、パリ・ファッションウイーク。会期前から、トリを飾るアルベール・エルバス追悼ショーの話題で持ちきりでした。バス停から広告塔まで、アルベールのポートレートにLove brings love (愛が、愛を呼ぶ)と言う言葉と当日のライブストリーミングのウェブアドレスが添えられたポスターが街中の至るところに貼られていたので、ファッション関係者だけでなく一般の人々にも、このイベントが広く告知されていたのです。
4月に59歳で他界したアルベール。2月2日の投稿でもご紹介したように。ランバンを去って以来5年間の熟考の末、彼が新ブランドAZファクトリーをローンチしたのは、ほんの9か月前のことでした。同ブランドはテキスタイルの最新技術と彼が生涯のモットーとしていた“ラブ”が基本コンセプト。全ての女性が着て自信を持ち、心地よく感じられる素材とシルエットを提案しています。また、テキスタイルの最新技術とクチュールのノウハウを融合しています。オンラインでの販売を主としたAZファクトリーの2021年春夏コレクションは、アルベールの最初で最後の作品となりましたが、もちろんブランドは続行します。

 そこで、記念すべき今回のコレクションに当たってアルベールのチームが打ち出したアイディアは、モード界の新旧の才能とのコラボレーション。この呼びかけに応え、45のメゾンがアルベールのための“オマージュ”をデザイン・制作したのです。ちなみに博愛主義者のアルベールは、1945年に開かれた展覧会、テアトル・ド・ラ・モードに似た企画をいつか実現することが、夢だったとか。同展は第二次大戦直後のどん底の時代に、パリ・オートクチュール協会のイニシアチブで60人ものクチュリエが結集し、クリスチャン・ベラールのアート・ディレクションのもとに、人形にオートクチュールのドレスを着せた展覧会でした。今回のコレクションで、人形ではなくモデルたちがまとったのは、各メゾンのデザイナーたちが、それぞれのアルベールへの想いを表現したドレス。参加メゾンはグッチ、ディオール、サンローランといった大手を始め、クリストファー・ジョン・ロジャーズ、シモーネ・ロシャなど若手まで。

会場となったパリ・北マレ地区のカロー・ド・トンプルでは夜8時前にドアがオープンすると、ファッション関係者はもちろん、大統領夫人のブリジット・マクロンやパリ市長アンヌ・イダルゴら政界の大物、そしてオマージュを寄せたデザイナーのほとんども姿を見せました。しばしのカクテル・タイムの後、一瞬ライトが消えると、アルベールの元パートナー、アレックス・クーが、亡きデザイナーのクリエイティビティを讃え、このイベントに込めた熱い想いを語るスピーチを披露。アルベールの元スタッフや友人たちが占めたブロックからは、感極まってのすすり泣きの声も聞こえました。
そしてショーが始まるとまず最初は、アルベール自身がデザインしたAZファクトリーのシグネチャー・ルックからスタート。特別に開発された最新技術を使い、ニットのゲージの増減によってボディにフィットするシリーズ「My Body」からのリトル・ブラック・ドレスです。続いて“オマージュ”の45メゾンはアルファベット順の登場で、トップ・バッターはピーター・ミュラーによる、アライア。アルベールらしさを表現したルックの一連はY/プロジェクトで幕を閉じました。ちなみにこれらの作品は、今後ミュージアムに収められるとか。

第二部ではAZファクトリーのスタッフ自身による、アルベールへのオマージュ、25体。最後にアンバー・バレッタが最終ルックを披露すると、ステージの壁一面を覆っていたカーテンが開き、3段に設置されたコンパートメントにはモデルたちがずらり。これらのルックは2021年春夏コレクションとして、オンライン販売が予定されています。
そしてO’Jaysの1970年代のヒット曲Love Trainをバックに、ハート型の赤の花吹雪が降って床を埋め尽くすと、ゲストたちも思わず踊り出したのでした。こうして、しんみりとした追悼会ではなく、華やかで楽しいイベントとなった、Love brings love。アルベールがショー・マスト・ゴー・オン!と叫ぶ声が、聞こえてきそうな一夜でした。

 Text: Minako Norimatsu

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

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