心躍るイマージブな展覧会。シャネルの香水の世界へ
展覧会というより、ワンダーランド。シャネルのフレグランスの世界を五感で体験できる壮大なイベント 「ル グラン ヌメロ ドゥ シャネル」(Le Grand Numéro De Chanel)が、パリで幕を開けました。尽きない逸話や素材を、アングルを変えて編集してはさまざまな形で見せてくれる、シャネル。思えば、2013年5月にパレ・ドゥ・トーキョーで開かれたN°5 Culture Chanel展では、この香水の誕生秘話、原料の特性からボトルとロゴデザインに影響を与えたダダ・ムーブメントまで、“カルチャー”としてのシャネルN°5の全貌を探っていました。一方本展は、N°5はもとよりシャネルのすべての香水を部屋ごとに多角的に見せる、エンターテインメント。イマージブ(没入できる)、つまり体験型のイベントです。会場は15区の、グランパレ エフェメール。シャネルのショーの定例会場となっていたグランパレがメゾンの支援により改装中の間、数々のフェアやイベントを迎えているのが、期間限定(エフェメール)のグランパレなのです。
全体をサーカス小屋のように、各部屋を出し物に見立てた広大な会場で、まずビジターを迎えるのは、Le Grand Numéro De Chanelのロゴを背中に配したユニフォーム姿の楽団。実はここにはちょっとしたユーモアが隠されています。フランス語で“ヌメロ”は番号と言う一般的解釈の背後に、“出し物”なる意味も含んでいます。Le Grand Numéroだと、言うなれば得意の、またはお決まりの、劇。シャネルの最初にして普遍的な香水の名前がシンプルに番号であること、5はマドモアゼル シャネルのラッキーナンバーであったこと、“5”自体は大きな数字ではないけれどシャネルにおいて、また香水の世界においては大切な番号であること……。これらの事実を踏まえつつ、“Le Grand Numéro”のロゴの往来を眺め、これから体験する“出し物”を楽しむ心の準備をする。なんとイキな演出でしょう! 本展のコンセプトとアートディレクションを手掛けたのは、フレグランス&ビューティ/ウォッチ&ファインジュエリー グローバル クリエイティブ リソース ディレクターのトマ デュ=プレ=ドゥ=サン=モー。彼はこう語ります。「シャネルの香り作りには、明確な目的があります。ル グラン ヌメロ ドゥ シャネルは、エモーショナルな旅。香りのもつさまざまな魅力や、その役割を発見する機会となることでしょう」。
会場に入ると広場の中央では、カウンターの上方に、星や月、数字の5などマドモアゼル シャネルのシンボルが天の川のように散らされています。ここを軸に周りを見渡すと、各部屋の入り口にはメゾンの歴代の香水の巨大なボトルが。
まずは、あまりに有名なN°5の部屋へ。1912年に、マドモアゼル シャネルの “ドレスのように、人の手で作り上げられた香りを“という依頼に基づいて調香師エルネスト ボーが提案したサンプルから、彼女が五番目を選んだことから生まれた、N°5。ボトルの形の変遷、ロゴ・デザイン、歴代の広告ビジュアルや撮影でセレブリティたちが纏ったドレスやジュエリー、そしてダリやアンディ・ウォーホル、昨今ではグラント・レヴィらによる、N°5を題材としたアートワークの数々。今年101年目を迎えるこの香水を巡って、これだけ無限の素材がある。そのこと自体に、改めて驚きを感じることでしょう。
さて、N°5の部屋では学ぶことが多かったとしたら、次の「チャンス」の部屋では思い切り楽しんで。モードに足を踏み入れる前の若きシャネルがミュージックホールで歌い、ココと呼ばれるようになったことにちなんで、会場は楽屋風の仕立てです。脇のスクリーンではジャンポール・グードによる「チャンス クレイヨン ドゥ パルファム」や「チャンス オー タンドゥル」の広告フィルムが上映され、背後には撮影に使われた衣装のラックが。またジュトンを受け取り、奥の部屋に設けられたカジノでルーレットに賭けて、勝つと景品がもらえる遊びも用意されています。
そして「ブルー」の部屋はマスキュリンな世界です。青い光から摩天楼が浮かび上がる夜景のミニチュアを眺めつつ、キーを叩いて自分なりの音楽を奏で、すっかり“没入”。
二つの部屋で心ゆくまで“遊び”に興じたら、今度はレ ゼクスクルジフ ドゥ シャネルの部屋へ。ここでは「ミシア」「ライオン」などシャネルにまつわる様々なキーワードを形にした18種類の特別な香水が、それぞれの原料や着想源を交えて紹介されています。
そしてココ・マドモアゼルの部屋では、この香水のミューズであるキーラ・ナイトレイに、広告の撮影現場に招かれたかのようなシーンが展開する。ワードローブ・ルームからグラフィティが描かれた廊下、レトロで親密な電話ブースまでを、まるで彼女を探すように歩いてみましょう。
5つの香りの部屋を体験した後は、特設のギフトショップへ。シャネルのすべての香水や関連書籍はもちろん、ここでしか手に入らないウィットが効いたグッズは、このイベントの楽しさを凝縮しています。
ル グラン ヌメロ ドゥ シャネル。冬休みにパリに行く機会があったら、お見逃しなく!
*1月9日まで。1月1日を除く連日、10時〜20時オープン、入場無料
Grand Palais Ephémère 2 place Joffre 75007 PARIS
*オンライン予約のほか、当日枠は現地窓口にて(数制限あり)
*フランスの著名なファッション・ドキュメンタリー・ディレクター、ロイック・プリジョンが会場を案内するビデオも必見
パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/