2022.06.15

フィレンツェで見る、シャネルのメティエダール21/22年コレクション

専門技術(métier d’art)に卓越した数々の工房の仕事をフィーチャーする、シャネルのメティエダール コレクション。年ごとに違う都市で発表され、パリーエジンバラ(2012年)、パリーモンテカルロ(2018年)など都市名で呼ばれるのが恒例ですが、最新作のショーはle 19Mのお披露目も兼ね、昨年12月にパリで開かれました。le 19Mとは、25500m2にシャネル傘下の工房のうち11、そして600人もの職人を一堂に集めてパリ19区にオープンした、クラフツマンシップの殿堂。ですから21-22年メティエダール コレクションでは、メゾンのクリエイションと工房との密接な関係が、より浮き彫りになったわけです。さらに特別なのは、このコレクションがメティエダールとしては初めて、違う都市で再現されたこと。“レプリカ”と呼ばれるショーの開催地に選ばれたのは、イタリアの古都、フィレンツェ。実はle 19Mの壁外にもシャネルでは幾つかの工房を持ち、うち9つがイタリアに所在するとか。その一つ、トスカーナ地方の革染色工房サマンタから程遠くないフィレンツェは伝統的なクラフツマンシップで栄えた街ですから、シャネルのこの選択には一貫性が感じられます。

 メティエダール・コレクション発表の際のもう一つの定例は、メゾンのアンバサダーを招いてのマスタークラス。今回はフィレンツェの商工会議所にて、フィレンツェ・ポリモーダ校やミラノ工科大学をはじめとするイタリアの7つの学校から、約200人の学生たちが招待されました。ちなみにシャネルは、よりサステイナブルな取り組みを目指し、ミラノ工科大学とのパートナーシップを発表したばかり。この提携は、エコな素材と制作プロセスに関するメゾンの開発に大学の技術リサーチ・チームが協力し、メゾン側からは大学の促進や若い才能の育成を、と言う相互関係に基づいています。余談ですが、シャネルが若い才能を支援することは、同社のスポンサーシップにより毎年南仏で開催される若手デザイナーのコンクール、イエール国際フェスティバルでも明らかでしょう。メゾンの工房がファイナリストたちの応募作品の制作に協力するほか、3年前には19M賞が設けられ、受賞者には1年間に渡り、制作の指導・支援が提供されるのです。

6月7日の午前中に開かれたマスタークラスでは、まずシャネル社のプレジデント、ブルーノ・パブロフスキー氏がマイクを取り、シャネルとイタリア、そして職人技術との繋がりについて語ってくれました。続くゲストは、おなじみキャロリーヌ ドゥ メグレと、コレオグラファーで、21-22年メティエダール・コレクションのティーザー・ビデオを手がけたディミトリ・シャンブラ。キャロリーヌが、le 19Mを訪ねての感想を“工房同士の相乗効果を感じた”と興奮気味に語ると、学生たちは興味津々の様子です。そして後半に現れたのはなんと、ペネロペ・クルス。なんともチャーミングに、故カール・ラガーフェルドが彼女をアンバサダーに選んだ瞬間、手芸を得意とした祖母、映画の役作りでの衣装の大切さなど、様々なエピソードを披露してくれました。Chanel.comでの最新ビデオでは、彼女がシャネルのメティエダール(専門技術)について表現豊かに語っています。

同日の夜は、メゾンのアーティスティック ディレクター、ヴィルジニー ヴィアールによるショー。会場となった古い駅跡地、スタツィオーネ レオポルダの入り口前の広場には、リメンバーズ・スタジオによるアニメーションが巨大なLEDスクリーンで投影されています。左のスクリーンに見るのは、昨年12月のショーで紹介された、同コレクションの製作に関わったle  19M内の工房のビデオ。ジュエリーのグーセンス、帽子のメゾン・ミシェル、羽細工とコサージュのルマリエ、プリーツのロニオン、そしてジュエリー・ボタンのデリュが網羅されています。そして右のスクリーンでは今回のショーのためのティーザー・ビデオ。3人のモデルたち(Pan Ha Owen、Akon Changkou、Mariam de Vinzelle)がまずはメゾンを象徴するカメリアを空飛ぶ傘に見立てて、まるでメアリー・ポピンズのようにle 19Mから飛び立ちます。そしてフィレンツェに着くと今度は船になったカメリアに乗ってアルノ川を下る、と言うシナリオは遊び心たっぷりです。

ショー会場でも、ドレープを効かせた白いカーテンに散りばめられたのは、白の巨大なカメリアのモチーフです。一方le 19Mの直線とは対照的にここでモデルたちが歩いたのは、緩やかな曲線を描く黒のランウェイ。シャネルに象徴的なモノクロームに徹した演出に生えるのは、ピンクやパープルを差し色としたツイードやニットのルックの一連、ビザンチン調のジュエリー、立体的なスパンコール刺繍、そしてアイコニックなツートーンのシューズまで。そしてショーの後、敷地内の中庭に通じるディナー・パーティ会場へのドアが開かれると、目を奪われるのは天井から吊るされた、大きなジュエリー・ボタンの数々。ディナーがサーブされ宴もたけなわになると、メゾンのキャンペーンも務めるアンジェルがステージに現れ、彼女のパフォーマンスで、メティエダール コレクションの夜は幕を閉じました。

違う環境、違う光のもとでのショーで新たな魅力を見せたメティエダール21-22コレクションは、ブティックに入荷されたばかり。また、パリに行く機会があったら、le 19Mを訪ねてみては。地上階には、各工房の抜粋の一般公開が始まったLa Galerie du 19Mと、カフェが。また7月16日までの水曜と土曜の午後には、3時間に渡っての刺繍やジュエリーの型造りのワークショップも開催中。
Le 19M 2 place Skanderbeg 75019 Paris

Text : Minako Norimatsu

 

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

記事一覧を見る

FEATURE