南仏イエールのフェスティバルで出会った、新しい才能たち

若手デザイナーの登竜門「モードと写真のイエール国際フェスティバル」(通称フェスティバル・ドゥ・イエール)。一昨年は、現ニナ リッチのクリエイティブ・ディレクター、ルシェミー・ボッター&リジー・ヘレブラーを輩出したことでも知られるこのコンクールの35周年は、フランスの4月のロックダウンのため通常より半年ずらし、10月半ばに開かれました。10月30日より実施される新たなるロックダウンの1週間前とは、なんと幸いな日程だったことでしょう!昨年一昨年も紹介した様に、この祭典は毎年モード界の旬な面々を審査員やゲストに迎え、ヴィラ・ノアイユをメイン会場に様々な展覧会やイベントと共に展開されます。コロナ禍の今年は、モード部門審査委員長のジョナサン・アンダーソンをはじめ欠席者も多数でしたが、プレゼンテーションや審議、受賞者発表は大スクリーンでのライブストリーミングで進行。とは言えたまたま今回のファイナリスト達はヨーロッパ勢がほとんどで皆実際に参加でき、しかもレベルが高く、若手デザイナーたちの熱気に溢れた4日間となりました。

まずモード部門では、ベルギーのトム・ヴァンデル・ボルクト(Tom Van Der Borght)が、ジョナサンも“全く新しいタイプ”と絶賛するメンズ・コレクションで、グランプリ・プルミエール・ヴィジョン賞の栄誉に。“ストリート・クチュール”とも言える、固定観念に囚われず破天荒な彼のクリエイションは、ちょっと古いですが岡本太郎の“芸術は爆発だ”という名言を思わせます。一般人の投票によるイエール市民賞をダブル受賞したのは、色彩と装飾に溢れた彼の作品が、世界中の鬱なムードを吹き飛ばす様なパワーを感じさせるからかもしれません。

一方、長年同フェスティバルを支援し続けているクロエが賞金を贈るクロエ賞は、フランスのマーヴィン・トゥモ(Marvin M’Toumo)に。ファンタジーとユーモアのセンスに溢れたマーヴィンによる、貝殻を象ったブラとオフホワイトのレザーにプリーツ加工を施したシャツ&パンツは、自由なクロエ・スピリットを体現しました。また、もう一つのメイン・スポンサー、シャネルからは、同じくフランスのエマ・ブルスキ(Emma Bruschi)にシャネル・メティエダール19M賞が。ちなみに19Mとは、これまで一部点在していたシャネル傘下のメティエ・ダールのメゾン(刺繍工房のルサージュ、羽細工とコサージュ制作を主とするルマリエ、プリーツ加工専門のロニオンなど約25社)を一堂に集めて来年オープンする複合アトリエです。つまり、この賞の焦点は、サヴォワフェール。私の一押しだったエマの勝因は、藁で作ったイヤリングのオリジナリティと繊細さだったのでしょう。彼女のインスピレーションは、サヴォワ地方の農夫の衣服とライフスタイル。またスイスのストロー(麦藁)ミュージアムで、素材の可能性を探求したそうです。

社会の流れを受けてか、廃物利用や手仕事でのクリエイションが目立った今回のフェスティバル・ドゥ・イエール。同フェスティバルの特典は、選ばれた者が受賞後1年間に渡り、上記スポンサーからの支援を受けて創作活動をし、翌年イエールに戻って新作を発表できることにあります。コロナ禍で様々な価値観が変わりつつあるこの時期を経て、来年どんな作品が見られるかが、今から楽しみです。

 Text: Minako Norimatsu

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

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